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旧耐震建物の危険性を強調することの弊害

大地震による住宅の倒壊などを防ぐことは大切であり、旧耐震基準建物の補強工事などを進めていくことも欠かせません。しかし、その危険性をあまり強調しすぎると、かえって予期せぬ弊害を招く事態も起こりそうです。

執筆者:平野 雅之


2016年4月に起きた熊本地震では、 最大震度7の揺れが短期間のうちに続いたことで多くの建物が倒壊し、甚大な被害につながってしまいました。亡くなられた方々の冥福を祈るとともに、少しでも早く復興が進むことを願わずにはいられません。

旧耐震基準で建てられた住宅だけでなく、新耐震基準の住宅、さらには「耐震等級2」の住宅も倒壊したことが報じられていますが、震度6強や7の揺れが続けざまに起きることは稀であり、今回の地震によってすぐに住宅の耐震基準を見直す必要に迫られるわけではないでしょう。

しかし、大きな地震の揺れが数年内に続けて起きることは、これまでにもあったのです。

2007年7月の新潟県中越沖地震では多くの高齢者の方々が亡くなっていますが、そのときは「3年前に中越地震があったので、もうしばらくは大きな地震が来ないと思っていた」という被災者の声も報じられていました。

無数の活断層がある日本では、どのような事態が起きても不思議ではありません。さらに、首都直下地震や南海トラフ沿いの巨大地震の発生も懸念され、住宅の耐震性能に注意を向ける人は少なからず増えていることでしょう。

住宅が倒壊するような大地震が起きると、報道では「老朽化した木造家屋の倒壊が多かった」という論調も目立ちますが、「旧耐震だから壊れた」というイメージばかりが強調されることにより、実際には存在する「新耐震でも危ない建物」で油断を招くことにもなりかねません。

2005年の秋に発覚した耐震強度偽装事件は大きな社会問題となったため、これを覚えている人は多いでしょう。2014年と2015年に横浜市で相次いで見つかった、杭工事の不良による「傾斜マンション」問題も記憶に新しいところです。

ところが、2006年に国土交通省が実施したサンプル調査で、直近5年間に建築確認を受けたマンションの「約7%に耐震強度不足の疑いがある」という結果が出ていたことはあまり覚えていないのではないでしょうか。

この結果を全体にあてはめれば、耐震強度に問題のあるマンションが全国に千棟以上存在する可能性も否定できないのです。

さらに、2006年~2007年頃には、都市再生機構(旧都市基盤整備公団)が1989年に東京都八王子市で分譲したマンションにおける耐震強度が基準の58%しかなかったという問題や、三重県で2004年に完成したマンションでの欠陥、強度不足なども報じられていました。

ちなみに、八王子市の一帯では公団が分譲したマンション46棟のうち、欠陥工事などで20棟が建て直される事態となっていたのであり、何らかの「極めて重大な問題」があったことは間違いないでしょう。

それ以外にも、欠陥マンションや欠陥住宅の問題はマスコミでもときどき取り上げられており、新耐震基準後の住宅もかなりの数にのぼるはずです。

ところが、地震対策に関するいくつかの行政施策をみていると「新耐震基準(1981年)以降の建物は安全であり、耐震強度偽装事件だけが例外」といった取り扱いをされているケースも少なくありません。

新耐震基準以降に建てられながら現実の耐震強度が劣っている住宅は、まるで蚊帳の外におかれているかのようです。

旧耐震基準の建物に対する注意喚起をしたり耐震補強を促したりすることが重要である事実に変わりはありませんが、あまり旧耐震の危険性ばかりを強調すると、新耐震基準後の建物に対する注意が疎かになる弊害も生まれそうですね。


>> 平野雅之の不動産ミニコラム INDEX

(この記事は2007年8月公開の「不動産百考 vol.14」をもとに再構成したものです)


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※記事内容は執筆時点のものです。最新の内容をご確認ください。

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