株・株式投資/日経平均株価の動向を専門家がチェック

BREXIT(ブレグジット)が日本株にとって怖い本当のワケ

BREXIT(ブレグジット)のリスクが株式市場で意識されてきました。単体でのインパクトは金融危機を引き起こすものではありません。しかし、世界の反国際化という流れの一環であると考えると見え方も変わってきます

戸松 信博

執筆者:戸松 信博

外国株・中国株ガイド

  • Comment Page Icon

ブレグジットが日本株にとって怖い本当のワケ

ブレグジットが日本株にとって怖い本当のワケとは?

ブレグジットが日本株にとって怖い本当のワケとは?

2016年6月23日に欧州連合(EU)からの離脱の是非を問うイギリスの国民投票が行われる予定です。この投票予定は以前から決まっていたのですが、6月に入ってからにわかにマーケットで意識されてきた模様です。

もしも離脱が決まれば、ドル円為替レートも5円以上円高となって、日経平均も1,000~3,000円程度下がるとの予想も市場関係者から出てきました。

確かに離脱が決まれば短期的に円高+株安で反応して、日経平均は急落するとは思います。しかし、その一方で、直ちに2008年のような大暴落にはつながるというのは考えにくいと思います。英国が欧州連合(EU)から離脱しても実際の経済のインパクトはそこまで甚大ではないと思うからです。

ただ、そうした目先の金融市場に対する影響よりも、ブレグジットを世界経済のもっと大きな流れである「過去20年続いてきたグローバル化の逆流・後退懸念」の過程で起こる1つの現象だと考えるなら、そちらの方がより大きな問題となりえると思います。

そもそもどうして経済的損失のある「EU離脱」が国民投票されるのか?

ところで、そもそもどうして明らかに英国の経済的損失のある「EU離脱」に係る国民投票が英国で実施され、その選択がなされてしまう可能性を危惧する必要があるのでしょうか? それにはまず、選挙や国民投票の仕組みを認識する必要があります。それは、一票は全ての人に平等にあることです。もしも選挙が株式における時価総額加重平均的な考え方で、資産家やお金持ち、グローバルな影響力ある人ほど一票の重みが増す仕組みだとしたら、「EU離脱」など起こりえません。残留した方が明らかに英国の経済全体にとってプラスだからです。

しかし一票は資産額に関係なく平等であり、より多くの人々がグローバル化に取り残され、不満を持っている事が問題です。上位数%が果実全体の大部分を得ており、残り大多数を占める「ロングテール」部分の人々はメリットを感じられないのです。「格差」による大多数の不満が、全体にとって損をする選択肢を選ぶ可能性高く、その不安が現在マーケットを揺らしています。 国民投票を画策したキャメロン首相は、自身が上位数%に入っている為(パナマ文書に名前が出ておりました)、より多くの人が「EU離脱」に向かう可能性があることを感じられなかったのかもしれません。

同じ理屈は秋に行われる米大統領選でも言えることで、本質的な争点は同じと思います。反移民政策、世界貿易の縮小に繋がる通商制度の見直し、半世紀に渡って築き上げてきた安全保障体制の見直し等を掲げているトランプ氏が当選する可能性も半分程度あります。

1990年代に結束されたEUと米国が両輪となって押し進めてきたグローバル化を、10年、20年と時計の針を戻しかねない政策で、明らかに米国や地球全体に経済的不利益をもたらすにもかかわらずです。しかし全体にとって不利益であっても、大半の人にとっては関係ないかもしれません。根本はグローバル化(その象徴がEUという国を超えた連合体)にあり、その功罪が今、英国と米国で問われているのだと思います。

グローバル化の功罪

グローバル化の功績は自由な資本・労働力の移動により、世界の富を大幅に押し上げたことにあります。それを反映する世界全企業の時価総額は、1989年の942兆円から、2015年に7,314兆円にまで膨れあがりました。平均PERは当時も今も変わりませんので、時価総額の増えた分だけ企業は利益を生み、また世界中に居るその株主の資産額も6千兆円以上増えたことになります。グローバル化とは、人・物・金の自由な行き来であり、その3つを操るのは大資本企業です。大資本企業はグローバル化によって多くの資金を使い、世界中で一番安い労働を調達して、莫大な富を築いたのです。

罪の方は「格差拡大」と「移民問題」でしょう。現在、世界の1%の人が全世界の富の47%を持っています。上位1%の持つ富の割合は、グローバル化の進む毎に年々増えてきました(少し前は40%以下でした)。富む者がさらに富む仕組みであり、残り99%で半分ほど残った富を分け合う構図です。この為、経済全体にマイナスの決定であっても、投票で51%の人が「YES」と言えば、経済的打撃を与える結果も選択されるわけです。

人の自由な行き来を伴うグローバル化は各地で移民問題も生んでいます。EU内の自由移動により、ポーランドの安い労働者がイギリスの港町の缶詰工場で働き、英国人を追いやっています。EUの規則により、その港では漁獲量も縮小されました。ポーランド人をメキシコ人に置き換えれば、アメリカでの移民問題と同じです。そして異文化間の抗争がパリやフロリダで大規模テロを生みました。EU内は国内感覚で自由に移動できるため(パスポート不要)、襲撃犯は容易にパリへ侵入し、国外へと逃亡しました。フロリダの惨劇を受けてトランプ氏は直ちにイスラム教徒の入国禁止と自らの主張の正当性を訴えました。グローバル化の産物である「人の自由な移動」が摩擦を産む毎に、トランプ氏への支持は増し、EU離脱を叫ぶ声が各国で増すでしょう。

関税が撤廃され、パスポートも不要であるEUはグローバル化の理想形でした。しかし富める国と貧しい国という格差がギリシャ問題の頃から高まり、ブレグジット問題に繋がってきました。今グローバル化の負の産物である移民問題やテロ、パナマ文書のようなものが一気に噴出してきた事と、ブレグジット、トランプ氏の登場は、偶然でないのかも知れません。

バブルの頃よりお金持ちのはずなのに、なんとなく不景気なワケ

今の日本はバブルの頃よりお金持ち?

今の日本はバブルの頃よりお金持ち?


最後に、身近な日本のケースでも見ておきましょう。よくバブルの頃はお金が飛ぶよう舞い、今では考えられないほど景気が良かったなどという話を耳にします。しかし実態は、今の方が遙かにお金持ちで、当時より国民は1,000兆円近くも多くの金融資産を持っているのです(政府はこの間1,000兆円の借金を持つに到りましたが)。

バブルの始まったのが1986年で、当時家計の金融資産は556兆円でした。今は1,741兆円あり、桁違いに日本国民はリッチになっているはずです。しかし、そう感じられないのは、その増えた分の多くが、グローバル化によって上位数%に集中してきたからと思います。日本では、上位40名の総資産が、全体の下位半分(6,000万人ほど)の合計より多いとの指摘もあるようです。

なお、日本の場合は欧米と違い、半分程度が現預金の形で所有されていますので、まだ伸びは緩やかなのです。米国の金融資産額は桁違いで、7,000兆円を超えます。その多くが株式で運用されてきたのですから、2倍程度の伸びでは済みません。恐らく日本以上にその大部分は上位の人達によって所有されているでしょう。

以上の事から、ロングテール部分の不満が国民投票で爆発したらどうなるか、分かると思います。またそれを煽る候補者が現れればどうなるかも想像できると思います。ブレグジット、トランプ大統領誕生となれば、目先の為替や日経平均が何円下がるという問題ではなく、世界の根本が変わり、長い時間をかけて10~20年ほど逆戻りしてしまうキッカケになるかもしれません。

これまで無制限にグローバル化を進めてきた世界ですが、ここで一旦行き過ぎを見直す時代に来ているのかもしれません。まずはEUと英国の間に国境を作り、メキシコと米国の境界に壁を作るということからグローバル化の後退が開始される可能性もあると思います。

そしてTPPなどの構想は頓挫し、各国とも自由な人、物、金の行き来を制限しはじめるようになり、結果的に世界の富は大幅に縮小に向かい、格差是正となるシナリオもあり得ると思います。昔に戻る、後退する訳です。それが行き過ぎて深刻な不況や戦争などに陥ったあとで、再び「このままではいけない、変化が必要だ」と訴える候補者が支持を得て、世界はより良い形で(何らかの規制付きで)グローバル化を再進行させるのかもしれません。もちろんこれらは社会全体の大きな流れなので直ちに起こるものではありませんが、今回の英国の国民投票と秋の米国の大統領選は、そうした流れのキッカケになる可能性も意識して注目できると思います。

参考:日本株通信

※記載されている情報は、正確かつ信頼しうると判断した情報源から入手しておりますが、その正確性または完全性を保証したものではありません。予告無く変更される場合があります。また、資産運用、投資はリスクを伴います。投資に関する最終判断は、御自身の責任でお願い申し上げます。
【編集部からのお知らせ】
・「家計」について、アンケート(2024/12/31まで)を実施中です!

※抽選で30名にAmazonギフト券1000円分プレゼント
※謝礼付きの限定アンケートやモニター企画に参加が可能になります
※記事内容は執筆時点のものです。最新の内容をご確認ください。

あわせて読みたい

あなたにオススメ

    表示について

    カテゴリー一覧

    All Aboutサービス・メディア

    All About公式SNS
    日々の生活や仕事を楽しむための情報を毎日お届けします。
    公式SNS一覧
    © All About, Inc. All rights reserved. 掲載の記事・写真・イラストなど、すべてのコンテンツの無断複写・転載・公衆送信等を禁じます