なかでも、建築・建設業界以外の人々には分かりにくく、「ヘンなのー!」と言われそうな、テクニカルタームからスラングっぽいものまでを集めてみました。
はめ殺し(はめごろし)
「はめて」「殺す」……。字ヅラだけ見ると不穏な言葉ですね。
見慣れない言い回しですが、建築設計や施工の現場では頻繁に使われています。
はめ殺しとは、窓枠(サッシ枠)にガラスを“はめ込んで”固定した窓、つまり開け閉めできない窓のこと。単に「はめ殺し」、または「はめ殺し窓」と言います。漢字は「嵌め」の字が使われます。「殺す」は“動きを止める”という意味。
丸窓、四角い小さめの窓、スリット状のものなど形はさまざま。はめ殺しの窓を主に採光用に複数、設えている住宅もあります。
また天窓(トップライト)は開閉式も多種多様ありますが、はめ殺しのものを設置したりします。ガラスブロックも一種の、はめ殺し窓と言っていいでしょう。
英語ではfixed window(フィックスド・ウィンドウ=固定窓)。建築の図面上では窓の姿図面に「FIX(フィックス)」とだけ書くことが多いです。近年は「はめ殺し」より、ソフトな印象の「フィックス窓」という言い方が多いでしょう。
建築の現場などで、設計者と職人の会話やスケッチのメモで「ハメゴロシ」という言葉を見聞きするとビックリするかもしれませんが、「開閉できない窓のこと」と理解してください。外窓だけでなく内部のドア、間仕切りなどの窓でも、はめ殺しはあります。飛行機や新幹線などの車両の開閉できない窓も、はめ殺し。
また、はめ殺し窓は透明なガラスを使った場合、外の景色を借景として絵画の額縁のように切り取ることから「ピクチャー・ウィンドウ」と呼んだりもします。
赤身(あかみ)
普通は、赤色の魚、肉、果物などの赤い部分を指す言葉です。お刺身などでは「マグロ」のことを「赤身」と言ったりしますね。建築で使う場合、木材の丸太の芯材部分を指します。辺材(丸太の外側の部分の材)に比べ赤みを帯びているので、「赤身(または心材(しんざい)」と呼ばれます。
ズギ材を輪切りにしたイメージ。年輪の中心から広がる赤っぽい部分が「赤身」。または中心にあるため「心材(しんざい)」という。赤身の周りの白っぽい部分は「白太(しらた)」もしくは「辺材(へんざい)」と呼ぶ
特に日本でよく建材として古くから使われるスギは、この色の差が大きく、板材などで赤と白が交じり合ったものは「源平材」(げんぺいざい)、もしくは単に源平と呼ばれます。
ラーメン
中学時代の技術の先生から「建築にはラーメンという構造がある」という話を聞いた時には冗談だと思っていました。これがマジメな建築用語だと知ったのは、ずっと後のこと。こんなラーメン屋台を想像した中坊時代……。でもラーメン構造の屋台もあるかもしれない
ラーメン は「rahmen」と綴るドイツ語で、英語ではframe(フレーム)。つまり枠組み、骨組みのこと。柱や梁などの構造材で、しっかりと接合されている構造物を指します。
建築でラーメン、またはラーメン構造と呼ばれるものは、「剛構造(ごうこうぞう)※」と呼ばれる接合にした構造形式のことです。いかにも強そうですね、ゴーコーゾー。一般的に高さが中層以下の鉄筋コンクリート造(RC造)の建物はラーメン構造が多いです。
ラーメンは、RC造や鉄骨造など比較的規模の大きな建物で採用されます。今年、世界遺産に登録が勧告されてル・コルビュジエの「国立西洋美術館(本館)」もコルビュジエの柱と梁で構成する「ドミノ・システム」に基づくラーメン構造といえます。
「東京でゼッタイ見たい建物【池袋エリア・20選】」で紹介した豊島区役所は分かりやすいラーメン構造の名建築でした。
RC造だけでなく、鉄骨造(S造)や木造でも柱や梁のなどの接合を剛構造にすればラーメンになります。最近は住宅でも接合部を金物などを使って頑丈にした「木造ラーメン構造」で骨組みがつくられた家が、さまざまな企業で開発されて普及してきています。
※剛構造
鉄筋コンクリート造(RC造)や鉄骨鉄筋コンクリート造(SRC造)などで建物全体を一体化した構造。耐震壁が有効に機能し、外からの力に対して変形しにくくするストラクチャー(構造体)とされる。
シャブ(い)
建築、建設、土木用語で「シャブ」とは水気が多いことを言います。塗料やコンクリートなどが「シャブい」というのは、塗料に対して溶剤等が多い、コンクリートに対して水が多い、といったシャブシャブした状態です。「もっとシャブく!シャブ、シャブ!」という怪しい指示のもと、ウッドフェンスの仕上げで白い外部用塗料「キシラデコール」を、薄め液でシャブシャブにしているところ
たとえば最近、流行りのインテリアなどの「シャビーな仕上げ」の場合、塗料を薄く溶かして「シャブい」状態にして板材に塗ると、木目が浮き出たシャビーライクな仕上がりになります。
「シャブ」と「シャビー」……、少し似ていますが、もちろん相互関係はありません。
また、あまり良くない言葉で「シャブコン」という言葉も……。これは「シャブいコンクリート」の意味。生コンクリートに水を多く加えることで脆弱なコンクリート造にして、工事も簡単にしコストも下げること。これは素人判断でも強度、耐久性が下がることは分かります。そして、でき上がってしまうとシャブコン工事かどうかは目視では、なかなか判断できません。
2000年代初頭におきた「耐震強度構造計算書偽装事件」では、工事でシャブコンが使われていたことも問題になりました。あってはならない、いわゆる手抜き工事です。
鼻タレ(はなたれ)
風邪をひいたときや花粉症の季節に鼻水がたれてくることではありません。建築では、コンクリートやモルタルの表面部分に浮き出る白い粉状のもののことを指します。これは「白華(はっか)」という現象。
これの白い「はな」が浮き上がる現象を白華現象もしくはエフロレッセンス、または略してエフロといいます。白華現象=鼻たれは、コンクリ―ト打ち放しの壁やレンガ仕上げ、そしてコンクリート造やモルタル仕上げの擁壁などでも見かけます。
鼻たれがあってもコンクリートの強度に問題はなく、有害な物質ではないので気にすることはありません。ですが、見ためがイヤな場合はホームセンターなどで売られている白華除去専用の洗剤で落とすことができます。
また、レンガ積みやコンクリートブロックのモルタルの目地を押さえずに下の写真のようにモルタルがはみ出した状態を「鼻たれ」と呼ぶ職人さんもいます。これは白華よりも言葉のイメージに近い?
暴れる(あばれる)・狂う(くるう)
「暴れる」とは国語辞典的には、「乱暴な行動をする、被害が出るほど乱暴に動く、勇ましく大胆な行動をする、むやみに飲み食いをする」といった意味。テレビでは、古くは暴れん坊将軍、最近では、あばれる君が文字通りの活躍しています。建築用語では、主に木材が湿度や気温、乾燥で伸縮して反ったり捻じれたりすることを言います。木材はもともと水分を含んでいて「生きている」ので、こうした「暴れ」が生じます。
「狂う」もほぼ同じ意味で使われますが、個人的には「暴れる」よりも「狂う」は誤差の範囲内、というニュアンス感じます。普段「この時計、少し狂っている」と使うように。
広義では木材だけでなく、樹脂(プラスチック)製などの材料でも、「暴れる」「狂う」は使う場合も。たとえば塩ビやポリカーボネート製の廻り縁(まわりぶち)やモールディングなどの装飾材も温度差などで、ビヨーンと「暴れる」「狂う」ことがあります。
DIYの木工作でも、暴れたり狂ったりしていない乾燥した木材を選びましょう。
遊び(あそび)・逃げ(にげ)
戯れ合ったり、エスケープしたりすることではなく、建築では「設計・施工上の余裕」を指す言葉です。たとえば室内の建具、引き戸・障子・ふすま戸などの下部にあるレールや鴨居の溝は、キッチリとした寸法だと開かなくなってしまいます。そこで可動部に余裕=「遊び」や「逃げ」を設けてスムースに動くように設えます。
また、板材などをピッタリとくっつける「突き付け」と呼ばれる仕上げでは、前述のように気候や温度・湿度の変化で木が伸びたり縮んだりと変形します。そこで「暴れ」「狂い」が出ます。
そこで「遊び」や「逃げ」と呼ばれる隙間を設けて温度・湿度などによる材料の変化に対応します。
建築だけでなく工業製品設計でも、たとえばボルトなどを通すとき穴を少し大きくして「遊び」を設けます。この場合はアローワンス(allowance)、クリアランス(clearance)などの用語が使われます。エンジニア用語でも、日本語と同じで「遊び」=プレイ(play)という英語表現を使う場合があるそうです。
工事完了後、材料や取付けの誤差や精度、経年変化を見越して余裕をもって計画するサイズが「遊び」や「逃げ」。これは、職人や設計者が経験から培ったプロの仕事です。
「遊び」と「逃げ」は、使い分ける場合もあります。建具など可動する部分は「遊び」、固定された板張りなどは「逃げ」という解釈もあります。
また上の図のように「L字型」の平面をもつ大きな建物などでは、それぞれの構造を分けて建て「エキスパンションジョイント※」を設けて揺れを逃がします。
家や造作物の仕上げで、「ここ、隙間が空いてるんじゃないの?」と思ったときはそれが計算された「逃げ」や「遊び」の場合も多いので、設計や工事担当者に聞いてみましょう。
※エキスパンションジョイント
大型の細長い建物などでは構造の違う建物を分割し、地震時などの建物への破壊、変形に対応してその力が伝わらないようにする接合部のこと。
斫る
これは難読系。あまり見かけない漢字ですが「はつる」と読みます。ノミなどで、コンクリートや石の主に表面を削ること。石へんに斤の「斫」(シャク)という漢字は、斧で叩き切る様子を表していて、「斫り」「斫る」は建築や土木でよく使う表現です。
「斫り(はつり)仕上げ」という、コンクリート打ち放し仕上げや石材の表面を削って質感のある意匠とする場合もあります。
古くは城郭の石垣などにも施されていて、質感を高めるために凹凸を付けています。旧江戸城(現在の皇居)の、千代田区・北の丸公園内にある重要文化財「田安門(たやすもん)」周辺の石垣でも、数多く繊細なテクスチュアの斫り仕上げを見ることができます。
電動工具メーカーのカタログなどでは、「斫り」ではなく「破つり」という表記も……。これは、どちらかというと解体工事などで使われるよう。いかにも破壊力ありそうでワイルド。
コンクリート面などを斫る場合は、電動ハンマードリルを使います。こうした斫り用電動工具は「電動チョッパー」「ヒルティドリル」などイカした名前が多い。
また、住宅の基礎工事などでは、型枠が歪んだまま硬化してしまった場合などにコンクリートの表面を「斫ったり」もします。
養生(ようじょう)
国語辞典的に上位にくる意味では、「【養生】よう‐じょう1:生活に留意して健康の増進を図ること。摂生(せっせい)。『酒やタバコをひかえ、つね日頃から―している』2:病気の回復につとめること。」(大辞林より抜粋)病気の人などに「お大事になさってください」と言う意味で、「ご養生なさってください」などと使いますね。
でも、DIYをする人々には、次に挙げる別の意味もおなじみでしょう。
「2:打ち込んだコンクリートやモルタルが十分に硬化するように、低温・乾燥・衝撃などから保護する作業。4:家具の運搬や塗装作業などの際に、運搬物や周囲の汚損を防ぐために布や板などで保護すること。『―シート』」(大辞林より抜粋)
建築や内装工事では、工事完了後、仕上がった綺麗な箇所が汚れたり壊れたりしないようにする措置が「養生」。とくに液体が飛散する塗装作業では、この作業が大切で、DIYで壁などをセルフペイントする場合も、しっかり「養生する」ことはマストな工程です。
床はもちろん、人間もビニールカッパや手袋でしっかり「養生」
大がかりなコンクリート工事では、コンクリートが固まるまでを「養生期間」と言って、硬化するまでは人が入れないように養生します。また、モルタル仕上げでも犬や猫の足跡が付かないようにべニアなどで囲って養生します。
たまに仕上がったモルタルに動物の足跡がついているのを発見すると、私はなごみます。でも、プロの現場では養生が不十分な「ダメ工事」と呼ばれてやり直しになります。
馬・芋(うま・いも)
動物と食用の植物。一見、関係なさそうですが、なぜか建築では代表的な「目地」のパターンを指すことが多いです。タイルなどの目地、そしてレンガやブロックなどで積み方の名称としても使われます。「馬目地(うまめじ)」「芋目地(いもめじ)」といった使い方をします。
馬は下のように、縦方向の目地が互い違いになっているもの。別名は「破れ目地」で、さまざまなタイプのある目地の種類のなかでも代表的なもののひとつ。ブロックやレンガを、このように積む場合は「馬積み」と言います。
また、現場で使う簡単な作業台のことを、その形からか「馬」と呼びます。
レンガ積みの場合は、ブリックタイルでも馬と呼ばずに「長手積み(ながてづみ)」と呼ぶことが多い。これは、かなり「鼻たれ」ていてイイ感じ。またレンガの積み方には「フランス積み」「イギリス積み」といった、小口(こぐち:レンガの短い方)を見せる方法などがある
一方、芋は互い違いにせず、縦、横、が一直線に通り、十字型になっている目地。コンクリートブロック塀は、どちらかというと芋目地の積み方(芋積み)を多く見かけます。
現場では「馬」「芋」などと、目地を省略することも……。これでは何のことか、さっぱり分かりませんよね。
最後に
ここに上げた建築専門用語は、ほんの一例。こうした用語は地域によっても違いますし、同じ住まいづくりのプロでも業種によって違う解釈もあります。特に仕事仲間内だけで使う言葉、符牒(ふちょう)は業界内部の人間でも分からない場合もありますし、ときに逆や違う意味で流通していることもあるよう。紹介したような言葉たちを見聞きしても、図面やスケッチでの確認は必須です。
・・・
業界用語というものは、どんな職種でも異業種の人間からすると時として排他的に感じることも多いものです。ですが、その来歴を知ると「なるほどなあ」と思うことも、しばしば。
紹介したかった、もっと変わった建築や住宅がらみの、興味深い言葉も多数あります。
全国各地の消えかけている独自の伝統的な建築・建設系現場用語、そして海外での呼称なども調べていきたいと考えています。