葬儀・葬式/葬儀の形態

ゼロになって死にたい?「0(ゼロ)葬」とは

自分らしい逝き方、その人らしい送り方……。最期を迎えるにあたって、積極的に情報収集をして納得のいくお別れをしたいと考えている人が増えています。その中で、最近注目されているキーワードが何も残さない「0(ゼロ)葬」。宗教学者島田正巳さんの提唱する「0(ゼロ)葬」について検証してみましょう。

吉川 美津子

執筆者:吉川 美津子

葬儀・葬式・お墓ガイド

遺体処置だけで十分
火葬後、遺骨は受け取らない

自分らしい逝き方、その人らしい送り方……。最期を迎えるにあたって、積極的に情報収集をして納得のいくお別れをしたいと考えている人が増えています。その中で、最近注目されているキーワードが「0(ゼロ)葬」。これは宗教学者の島田裕巳氏によって名付けけられた「葬儀は不要」「お墓もいらない」「遺骨は火葬場で処分」という葬送方法。著書の中ではこのように書かれています。

・棺はインターネットで買って、祭壇は自分で作ればいい。
・仏教式葬儀は時代にそぐわない。戒名も不要。
・遺体処理だけで十分。
・ゼロ葬にすることで、遺骨の埋蔵場所に悩む必要がない。
・ゼロ葬にすれば、墓を守っていくという負担から解放される。
・墓があるから故人のことを思い出すのではない。

従来の常識・習慣にとらわれず、シンプルに逝きたいと考えている人は増えています。そんな中で、島田氏の提唱する「0(ゼロ)葬」は少々過激な路線ではありますが、もちろん押しつけではなく、「こういうやり方もあってはいいのでは」という考え方。「すっきりとした最期を迎えたい」と考える人にとっては目からウロコの内容かもしれません。

しかし実際に、ゼロになることが可能かどうかという点では、多くの人は疑問を投げかけています。
「個人的には葬儀もいらないし、お墓も散骨してくれてもいいと思っていても、一人で生きてきたわけではないから、誰にも何も知らせないというのは難しい」
「葬儀のやり方なんてどうだっていい。大げさにしたくないけれど、地域社会との結びつきを次世代に伝えていく役割も葬儀にはあると思う」
「現代は超高齢化社会で、葬儀をしたところで人も集まらない。だから簡素になって当然。でも結局のところ死後のことは自分では考えられないから、残された人がやりたいようにするべきかも」
というように、「0(ゼロ)葬」は現実的ではないという意見が多いようです。

お釈迦様は火葬、そして遺骨は墓に

死を悼むという習慣は、すでに6万年以上前のネアンデルタール人の時代からあったと言われています。有史以来、弔いの作業は世界中で形を変えながら現在まで伝えられてきました。

日本の葬儀は、約90%が仏教式で行われていますが、その法を説いたお釈迦様は、自身死期が近いことを悟ったときに、弟子達にこう告げています。

「自分の遺体は布で包んで、香料を含む薪を焚いて火葬すること。その後、ストゥーパ(遺骨を納める仏塔)をつくって拝むことができるようにすること。多くの人はそれによって心が浄まる」

お釈迦様が亡くなった後は、その言葉どおり、マッラ族の信者の手によって舞踊・歌謡・音楽・花輪・香料をもって重んじ、尊び、供養し、天幕を張り、多くの布の囲いをつけて、6日間をすごし、遺体は7日目に北へ移動して火葬されました。遺骨はその後8つに分けられ、ストゥーパが造られて祭りが行われたと言われています。

この時、お釈迦様の死を受け入れられない若い弟子に対して、兄弟子が夜を通して法に関する講話を説いたと伝えられています。お釈迦様自身は「お前たちは遺骨の供養にたずさわるな。自分達の修行に専念せよ」と言って涅槃に入ったようですが、これはきっと弟子たちが修行に専念できるようにという思いから。「葬式不要論」と解釈する人もいますが、決して「別れの儀式は不要」と言っているのではないと思います。

島田氏は、葬式仏教と揶揄される現代の葬儀のあり方に否定的ではありますが、「0(ゼロ)葬」での冒頭で
「考古学による発見からは、仲間の死を悲しみ、それに哀悼の念を捧げるということは、かなり早い段階から行われてきたことが明らかになっている」と記していますので、島田氏もまた、別れの儀式、弔いの作業を完全に否定しているわけではないと思います。

仲間の死を悲しむという作業が形を変えて、なにかしらの儀礼を伴った形に変わっていきながら、葬送が伝えられているのではないのでしょうか。

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