今井清隆 1957年群馬県生まれ。82年に『サウンド・オブ・ミュージック』で初舞台。88年から『レ・ミゼラブル』に出演、91年からジャベール、03年からバルジャンを演じる。95~99年まで劇団四季に在籍、『キャッツ』『美女と野獣』『エビータ』『オペラ座の怪人』等に出演。退団後も『ミス・サイゴン』『風と共に去りぬ』『エリザベート』『二都物語』など多数の舞台、コンサートで活躍している。(C) Marino Matsushima
レオナルド・ディカプリオとトム・ハンクスの主演で、2002年に公開された映画『キャッチ・ミー・イフ・ユー・キャン』。実在するセキュリティ・コンサルタント、フランク・アバグネイルJr.の若き日々を描き、天才詐欺師だった彼と彼を追うFBI捜査官の、親子愛にも似た奇妙な友情ドラマが話題となりました。
この作品が2011年、ミュージカル版『蜘蛛女のキス』『フル・モンティ』で知られるテレンス・マクナリーの脚本、『ヘアスプレー』のマーク・シャイマンの作曲で舞台化。スタイリッシュな音楽と、孤独な二人の心が触れ合うドラマのバランスが程よいミュージカルに仕上がり、トニー賞では4部門にノミネートされました。その日本初演にあたり、フランクJrを追いかける捜査官ハンラティを演じるのが、今井清隆さん。『レ・ミゼラブル』「オペラ座の怪人』『キャッツ』等々、数々のメガヒット・ミュージカルでその存在感を示してきたベテラン俳優です。
数十年ぶり(?!)のダンスは必見!
――今回演じるハンラティという人物を、どうとらえていらっしゃいますか?「とても素敵な役なんですよ。堅物で、はじめは犯罪者のフランクJr.が憎くて憎くて追っかけているけれど、次第に彼の生い立ちや事情が分かってくる。犯罪者になりたくてなったわけではないことを知ると、それを受け入れる器のある人なんです。アメリカ的ですね。口数も多くないし愛想も言えないけど、優しい人なんですよ。ただねえ……、今回の台本がなんと、今まで見たこともないくらい分厚い!僕の台詞だけを取り出しても普通の台本一冊分くらいあります。そしてその台詞が土地や人の名前が多くて。目下、奮闘中です(笑)」
――言葉が多いという点では、『レ・ミゼラブル』も同様ですよね。
『レ・ミゼラブル』写真提供:東宝演劇部
――記者会見では「今回はダンスが楽しみです」とおっしゃっていましたが、その時点では冗談だったのですよね。
「そう、それが冗談じゃなくなっちゃった(笑)。譜面が16ページくらいあって、しかも間奏が無くて、ずーっと歌い続けながら踊るんです。踊り自体は僕、好きなんですよ。僕らの若いころは、ミュージカルのオーディションはまず踊りの審査でふるいにかけられて次に歌という順番で、今もそうかもしれないけれど、踊りが踊れないとオーディションにはまず受からなかったから、一生懸命稽古しましたね。堀内完さんのユニーク・バレエというところで3年間学びました。ピルエットも何回も出来たんですよ。でも『レ・ミゼ』に出て以来、“歌の人”と思われたのか、ずっと踊らない役ばかりで、この歳まで来てしまいました」
――では今回は「待望のダンス」ですね!
「待望の……なんだけど、ここ以外にもやることが山ほどあって……(小声で)ちょっと泣きそう(笑)。でも、頑張ります」
――映画版では、ハンラティとフランクJrの間には親子のような情愛が生まれていきますが、今回、松岡充さんが演じるフランクJr役とは、どんな関係になっていきそうでしょうか?
「彼らの関係は不思議ですよね。(他人なのに)家族以上にお互いのことを考えている。縁の深さを感じます。松岡さんとの絡みはまだまだこれからなので、どういう関係になっていくか僕も楽しみなんですが、松岡さんとは、一度コンサートでご一緒したことがあるんですよ。人となりを知っているので、今回の役はぴったりだと思います。冗談ばかり言っているけど、入り込むところはびしっと入り込む、真面目な人です」
――音楽的にはどんな作品でしょう?
「かっこいいですよ。ジャジーなナンバーもあればノリノリのロックナンバーもあって、飽きないです。僕はふだんクラシカルな、声を張って歌うタイプの曲が合うと思っていただいているようで、実際そうなのだろうけれど、実はサラ・ヴォーンみたいな、味が大事になってくるジャズ・ボーカル的な曲が一番の好みなんです。そういうナンバーも今回は入っているので、すごく歌うのが楽しみです」
――どんな舞台にしたいと思っていらっしゃいますか?
「音楽とダンスと芝居という、ミュージカルの楽しさが全部つまっている作品なので、やっているほうは大変ですけど、お客様には“これぞミュージカル!”と、とにかく楽しんでほしいですね。奇想天外なのに実話がもとになっていて、人生って本当に何が起こるか分からない。観終わって笑顔で帰っていただけるような舞台にしたいと思っています」
*次ページでは、人生を変えた『レ・ミゼ』はもちろん、これまでの思い入れのある諸作品について語っていただきました!