情熱と金で誰でもF1チームが作れた!
映画の中のキーマンとして、アレクサンダー・ヘスケスという小太りなお金持ちが登場する。シャンパン片手に派手にパーティーを楽しむネオヒルズ族のような感じの人物、ヘスケス卿も実在する人物だ。アレクサンダー・ヘスケスは英国シルバーストーンサーキット近隣の広大な土地を所有する貴族出身の人物。F3時代のハントと出会い、彼を支援した。さらにスポンサーを付けずに自費でハントと共にF1に参戦した。
アレクサンダー・ヘスケス卿のF1チーム「ヘスケスレーシング」のF1マシン。このセクシーな女性をあしらったペントハウス・リズラのカラーリングは1976年から。それ以前のハント在籍時代は自費参戦の白いカラーリング。映画の中には「コンドームがスポンサー」という台詞が登場するが、本当にコンドームメーカーのカラーリングで走っているチームがあった。酒、煙草、女……。今では考えられないスポンサーがF1マシンを彩っていた。
実際にヘスケス卿のチーム「ヘスケスレーシング」は73年に参戦した当初、「マーチ」の旧型の車体で参戦。オリジナルのシャシー「ヘスケス308」を投入した74年はハントが3位表彰台を3回獲得している。翌75年には優勝も飾るなど、自費参戦のチームが3年目にして優勝できたのだ。
映画の中には「フェラーリ」「マクラーレン」といった現在もF1で戦うチームがラウダ、ハントのチームとして登場するが、町工場的な雰囲気のF1チームの姿も楽しんで頂きたい。この当時は10人程度のメンバーで、年間10億円程度の予算でF1を戦うことができたが、現在のF1チームは全く異次元の規模に成長している。
例えば「マクラーレン」は自動車製造、エレクトロニクス分野にも進出し、総合企業、研究所として2000人の従業員を抱える大企業へと発展している。F1チームの年間予算もたった2台のマシンを走らせるだけで、150億円以上にもなっている(グループ全体の総収益は4200億円以上!)というから、今はネオヒルズ族でも情熱とマネーだけでF1トップチームに太刀打ちすることはできない。
「マクラーレン」の本拠地、マクラーレン・テクノロジーセンター。
ドライバーの頭脳と実力がチームを変えた
映画の中での主人公、ラウダとハントは類希なる速さ、実力の持ち主だ。F1世界チャンピオンを争う2人だから当然である。チャンピオンドライバーに必要な条件は今のF1でも全く同じで、並の速さであっては栄光など掴めやしない。しかしながら、いくら速さをもったドライバーであっても、良いマシンに恵まれないと優勝争いをするのが難しいのがレースの世界だ。1970年代のF1を描いた「ラッシュ/プライドと友情」の中には、ドライバーがチームに意見し、マシンをこういう風に作り替えろと指図するシーンが出てくる。70年代のF1レースにおいて、ドライバーが走って感じ取ってきたインフォーメーション、フィーリングは今よりはるかに重要だった。というのも、この時代はコンピューターやセンサーというものを一切用いておらず、単純にドライバーからの意見とラップタイムで判断し、マシンを速くしていったからだ。数値に表れないものを頭脳明晰な人たちが読み取り、新しいアイディアで勝負する面白い時代だった。高性能なセンサーの代わりとなり、マシンの挙動を細かく読みとれる優れたドライバー達は、ポンコツのマシンでも何とかしてしまう力を持っていた。
映画「ラッシュ/プライドと友情」
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システマチックになった現在のF1では、ドライバーはチームからの指示に従い、コンピューターゲームのドライバーのように指示通りにマシンを走らせられなければならない。そういう意味では、今のF1ドライバーはデジタルデータにガンジガラメにされた何とも窮屈な職業といえる。しかし、最後に走らせるのは生身の人間であるドライバーであり、想定通りに走らせることができれば好成績が待っているし、相手のチームやドライバーがどう動いてくるかまではコンピューターは計算できないのだから、今もドライバーの実力、経験、スピードはレースをする上で大きなプライオリティになっている。
フリー走行や予選が終わると、エンジニアやスタッフとデータを見ながらミーティングを行い、マシンの方向性を決める。写真はルイス・ハミルトン(AMGメルセデス)
【写真提供:Daimler】
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