皮膚・爪・髪の病気/火傷・低温やけど

重症熱傷・火傷の治療法

重症熱傷は死亡率の高い救命救急センターの対象疾患のひとつです。その診断、治療について解説します。

井上 義治

執筆者:井上 義治

形成外科医 / 皮膚・爪・髪の病気ガイド

重症熱傷・火傷とは

熱エネルギーによる人体の損傷を、やけど、火傷(やけど)と一般的に呼んでいます。しかし、火がなくても熱だけで受傷する場合も多いので、医学用語としては、「熱傷(ねっしょう)」が正しい病名です。熱以外の原因として、電気エネルギーの損傷を電撃傷、化学物質による損傷を化学損傷と呼んでいます。この2つの病気では、熱傷と異なる病態もありますが、比較似た病態となります。
熱傷

            皮膚の色で熱傷の深さがわかります。



重症熱傷の頻度・性差・年齢 

熱傷による死亡は世界全体で年間30万人といわれています。主として東南アジア、アフリカなどの低開発国で頻度が高い疾患です。あらゆる年齢に発症しますが、活動期の10歳から60歳までに多く、男性が女性の2倍程度発病が多いとされています。 


重症熱傷の症状

熱傷の深さにより様々な症状となります。
1度の浅い熱傷では皮膚の色が赤くなります。水泡もなく、疼痛を認めます。
2度の深さの熱傷では水疱を皮膚に認めます。痛みが強く、水疱がやぶれるとさらに痛みが増強します。
3度の熱傷では皮膚の血行が消失し、皮膚の色は白くなります。
口のまわりの熱傷、鼻毛の消失は気道熱傷の可能性を示唆します。
それ以外に呼吸苦、かゆみなどさまざま全身症状が出現します。


重症熱傷の診断・治療

■意識状態の確認
病院到着時にまず意識状態を確認します。受傷した状況が閉所で、顔面に熱傷を伴い、意識状態の低下があれば、一酸化炭素中毒の治療を開始します。100%酸素による人工呼吸を行い、一酸化炭素ヘモグロビンの濃度を低下させる治療です。
一酸化炭素中毒がなくても呼吸不全があれば速やかに人工呼吸を開始します。
人工呼吸器

       自発呼吸が十分でない場合、人工呼吸器を使用します。



■静脈ルートの確保
成人で体表面積の20%以上、小児で10%以上の熱傷、気道熱傷を合併する場合、すぐに輸液のルートを確保し、点滴を開始します。中心静脈から点滴することが多いですが、末梢の静脈からも点滴することが可能です。

点滴

             速やかに点滴を開始します。



■尿量の測定
尿道バルーンカテーテルを留置して、時間あたりの尿量を測定します。この値により輸液のスピードを決定します。

尿道カテーテル

    尿道カテーテルという管を膀胱に留置して尿量を測定します。


■重症度の判定

●熱傷深度の評価
・1度熱傷
一番浅い熱傷です。皮膚が赤い色となりますが、水疱などは生じません。海水浴で直射日光により発生します。

皮膚

        皮膚に赤い色の大きな斑点が認められます。



・2度熱傷
次の深さが2度熱傷で、水疱が生じます。2度熱傷を浅在性と深達性の2種類に分類します。浅在性2度の熱傷では2週間ほどで治癒しますが、深達性2度熱傷では治癒にそれ以上の時間がかかります。深達性2度熱傷で手術を行わない場合、機能障害、醜形障害が残ることが多いです。

2度熱傷

             2度熱傷では水疱がみられます。



・3度熱傷
一番深い熱傷で、血行がなくなるため白い皮膚となります。神経が痛みを感じなくなるため、痛みがありません。皮膚が再生することがないため、大きな面積の熱傷では手術が必要になります。
3度熱傷

         3度熱傷では血行がないため皮膚は白くなります。



●熱傷面積
熱傷面積 = 3度熱傷面積 +  2度熱傷面積
上記の式で熱傷面積を計算します。1度熱傷面積は加えません。


■全身管理
●輸液
パークランド公式
熱傷の初期では血管透過性の亢進で、血液成分が血管外に流出します。そのため熱傷ショックと呼ばれる病態、深刻な血圧の低下を合併します。
熱傷ショックの治療として、
輸液量(ml/day)=熱傷面積(%)×体重(kg)×4
この一日分の輸液量の半分を最初の8時間で投与し、残り半分を次の16時間で投与します。輸液は乳酸リンゲル液もしくは生理食塩水が使用されます。公式の輸液速度で開始し、尿量、血圧などを測定しながら輸液速度を調整します。
1週間程度で浮腫のある組織から血液成分の血管内への還流がおこり、呼吸不全を合併します。

●呼吸管理
気道熱傷がある場合もそうでない場合も、気道粘膜の浮腫による窒息を合併する可能性があります。早期に気管内挿管と人工呼吸器の使用を開始します。

●感染
受傷1週間をすぎると皮膚の感染が増加します。そのため手術を施行します。


■手術
●壊死組織除去
感染を防ぐために通常1週間以内に壊死した皮膚、皮下組織などを切除します。

●植皮(しょくひ/皮膚を移植する手術)
壊死組織を除去し、可能であれば植皮を行います。広範囲の熱傷では皮膚を採取する正常な皮膚の面積が少なく十分でない時があります。

植皮

       壊死組織を切除し、網目状の植皮を行いました。



●同種凍結保存皮膚(スキンバンクに保存された他人の皮膚)
自分の正常皮膚が少ない時、スキンバンクに保存された凍結保存皮膚を使用します。最終的に他人の皮膚は免疫で拒絶されますが、一時的に皮膚をおくことで、バリアー機能を獲得することができます。

●培養表皮移植
日本で再生医療を利用した、初の商業化製品が培養表皮です。株式会社ジャパン・ティッシュ・エンジニアリングでは、自家培養表皮「ジェイス」を作製しています。患者さんの皮膚を採取し、再生医療を利用して表皮を増やします。ジェイスを植皮することで、皮膚を採取する面積の少ない重症熱傷の治療が可能となりました。熱傷面積30%以上の重症熱傷に保険の適用があります。広範囲の熱傷では依然として死亡率が高いことが問題です。


■死亡率
熱傷面積が60%以上の熱傷は、死亡率50%以上の重篤な外傷です。後遺症も多く、依然として救命救急センターの対象疾患のひとつです。

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