ホルモンバランスの変化が心身の変調を招く
男性の更年期も女性の場合と同様、ホルモンバランスの変化が関係していると考えられていますが、典型的な症状の1つにED(勃起障害・勃起不全)などの性機能障害があります。EDの治療は他の更年期症状の改善を促すと考えられるので、早めの対策が有効です。
「アダム」が招く男性更年期
男性の更年期は加齢によってアンドロゲンという男性ホルモンが不足することで起こります。ですから、男性の更年期はアンドロゲンの不足を表わす英文「Androgen Deficiency in the Aging Male」の頭文字をとって「ADAM」(アダム)と呼ばれます。国際的には「加齢に伴う生化学的な症候群であり、血清アンドロゲンの欠乏が特徴。生活の質に明らかな変化をきたすことがあり、多臓器系に悪影響を及ぼすことがある」と定義されています。
女性の更年期障害は閉経をきっかけに女性ホルモンであるエストロゲンが急激に減少することで、のぼせやほてり、イライラ感を生じます。これに対し、男性の場合は比較的徐々に進行し、不安や不眠、イライラ感などの症状で「もしかしたら」と気づくことが多いようです。
更年期の始まる40代後半という時期が社会的にも肉体的にも多くのストレスを生む時期に当たっていることが関係すると考えられます。
心と体と性機能に影響
男性の更年期障害の症状は主に(1)精神・神経症状(2)身体症状(3)性機能関連症状――の3つに分けられます。「精神・神経症状」は、うつ、不安、イライラ感、集中力低下などとして現れます。社会生活や職場環境で生じるストレス性心身症に似た症状が中心となります。
「身体症状」は、ほてり、のぼせ、動悸、異常発汗、筋肉痛、関節痛、腰痛、頻尿などを招きます。これらはいずれも、自律神経失調症の症状と重なります。
「性機能関連」はEDや射精障害、性欲減退、オルガズム障害などです。3つの症状が個別に現れることは少なく、多くの場合、複合的に現れます。
男性更年期患者の多くがEDを合併
前項までで見てきたように、男性の更年期障害は女性に比べてゆっくりと進み、1つの症状だけが際立つことはありません。例えば「性機能関連」の筆頭格であるEDは更年期障害に悩む患者さんの多くが合併しているといわれます。その意味では、EDは男性更年期のシグナルといえるかもしれません。
男性ホルモンには筋肉を増強したり、精神活動を活発にしたりする作用ばかりでなく、血管の健康を保つNO(一酸化窒素)を供給するという大切な働きがあります。ですから、男性ホルモンが減ると血管の健康が損なわれ、勃起に関係する動脈硬化を引き起こし、EDになりやすくなると考えられています。このことからも、男性ホルモンがED改善に重要な役割を果たしていることが分かります。
ところで、男性更年期障害をもたらすアンドロゲンは精巣にあるライディッヒ細胞という特殊な細胞で作られています。この細胞は20歳で約7億個あるとされていますが、以後は1年に1%(約700万個)の割で減少していくと考えられています。
ED改善が精神状態を好転させることも
これED治療薬が更年期障害を改善させることも
男性の更年期障害を和らげるために男性ホルモンを補充する療法もありますが、最近では、安全で有効率の高いED治療薬の処方を第一選択とするクリニックが増えています。
さまざまな症状を抱えている患者さんにとって、1つでも改善すれば、それをきっかけとして、治療に前向きになり、他の症状の改善へとつながることもあります。
実際、EDの改善効果でパートナーとの関係が修復され、不眠やイライラなどの症状が解消した例もあります。
更年期障害のせいだとばかり思っていた症状がEDによるものであったということもあるので、心当たりのある方は専門医を受診するとよいでしょう。
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