糖尿病/糖尿病の経口薬・インスリン

強化インスリン療法の1,800ルールと500ルール

インスリンのベーサル/ボーラス投与による精密な血糖コントロールのスタートは、過去2-3ヵ月の平均血糖値を示すHbA1cの目標をまず決めて、それを達成するためのポイントとして空腹時血糖値と食後2時間値、就寝時血糖値の範囲を設定し、それぞれの目標ゾーンに血糖自己測定の結果を少なくとも75%は収めるように食事(特に炭水化物)とインスリン投与量、運動のバランスを取ることから始まります。

執筆者:河合 勝幸

マッシュポテト

インスリンを持たずに外出して、ふと見つけたルーマニア料理店に思わず入ってしまいました。出てきたのが山のようなマッシュポテト。40単位も使っているベーサルインスリンを頼りに、気合を入れて半分ぐらい頂いてから急いで帰宅。こうだから、私は補正インスリンには妙に(?!)詳しいのです。バルセロナにて。
(c)KAWAI Katsuyuki

インスリンのベーサル/ボーラス投与による精密な血糖コントロールのスタートは、過去2~3ヵ月の平均血糖値を示すHbA1cの目標をまず決めて、それを達成するためのポイントとして空腹時血糖値と食後2時間値、就寝時血糖値の範囲を設定し、それぞれの目標ゾーンに血糖自己測定の結果を少なくとも75%は収めるように食事(特に炭水化物)とインスリン投与量、運動のバランスを取ることから始まります。

経験を積むことによって、少しずつよりタイトな数値に近づけられるようになりますが、その際、とても効果的な考え方がインスリンの1,800ルールと500ルール、そして一回の食事に含まれる炭水化物をグラム単位で計算(推定)するカーブカウンティング(carb counting)です。
1,800ルールとは超速効型インスリンの1単位が下げるであろう血糖値(mg/dl)の簡易計算式で、500ルールは超速効型インスリン1単位に対応する食物の炭水化物(グラム単位)の簡易計算式です。

これらは一人ずつそれぞれ異なっていて、さらに食事、体重、活動量などで変化するので、各人が自分の数値の傾向をつかんでおくことが大切なのです。

1,800ルールとは

幼くして、若くして発症することが多い1型糖尿病では、合併症のない人生を送るためにできるだけ血糖値を正常域に近づけるように日々努力しています。
血糖値を正常近くに保つことで次のようなリスク減少が得られることを、初めて科学的に明らかにしたのが1993年に発表された米国のDCCT(糖尿病のコントロールと合併症の学術研究)でした。
■ 眼疾患を76%
■ 神経疾患を60%
■ 腎臓病を50%
■ 心血管疾患を35%
1型糖尿病患者をランダムに二分して、一方に血糖値を危険な低血糖を避けながら正常近くに保ってもらうのはとても大変なことでした。この時ボーラスインスリンの投与量を決めるために一例として使われたのが次のような簡単なスライディングスケールでした。(ジョスリン糖尿病センター、フロリダ)

レギュラー(速効型)インスリン=(食前血糖値-100)÷33+5単位

DCCTが行われたこの時代(1985~93年)はまだ超速効型インスリンがなかったので、レギュラーインスリンがボーラスに使われていました。食前血糖値から100を引いて、それを33で割った部分が補正インスリンです。
100は食前血糖値の目標値、5単位は計画どおりのボーラスインスリン、除数の33が1,500ルールという独創的なアイデアから導き出された、1単位のレギュラーインスリンが下げると見なされた血糖値(mg/dl)です。ただし、この数値はジョスリン糖尿病センター(フロリダ)のものです。つまり、目標食前血糖値である100mg/dlを超えた部分を補正する追加インスリンをこのように計算していたのです。

この1,500ルールというのは、糖尿病医のPaul C. Davidson(アトランタ、ジョージア州)が1982年に提唱したもので、ベーサル/ボーラス療法で血糖コントロールが安定している1型糖尿病患者では、一日の総インスリン投与量単位(以下TDDとする。total daily dose of insulin)で1,500を割ると、インスリン(この時代はレギュラーのみ)1単位で下げることが出来る血糖値を推定できるというものでした。

ただ、この「1,500」という単位のない数値が科学的根拠に基づいて導き出されたものではなく、非公式な臨床観察から得られたものなので、学問としての糖尿病学ではあまり表舞台に立ったことはありません。しかし1型糖尿病患者、特にインスリンポンプ使用者には必須な計算法で、2型糖尿病患者でもベーサル/ボーラス療法の人には高血糖を補正するために安心して利用できる有用なものです。医師よりも患者の信頼が厚いルールです。

今日ではボーラスインスリンには超速効型が使われていて、効きめが速いので効率良く血糖値を下げるので、1,700/TDD1,800/TDD2,000/TDD2,200/TDDなどが患者のインスリン感受性に応じて利用されています。
TDD(一日の総インスリン投与量単位)とは、基本的なベーサルインスリンとボーラスインスリンに、日常的な補正インスリンを追加している人はその分も加えたものです。

TDDが40単位の1型糖尿病患者なら、1単位の超速効型インスリンで下がるであろう血糖値は次のようになります。
1,700/40  40mg/dl
1,800/40  45mg/dl
2,000/40  50mg/dl
2,200/40  55mg/dl

一つの目安としては、ベーサルインスリンがTDDの50%では1,800ルールと相性がよく、ベーサルがTDDの50%を超えていれば1,800よりも高い数字、ベーサルがTDDの50%未満なら1,800よりも低い数字が適合するようです。当然ながらベーサルインスリンは常に血糖値を上げすぎないように作用しているからです。
  • この補正値を参考にしてインスリンを追加すれば5時間後の次の食前には目標値の+30mg/dl以内には収まることが期待できます。
  • 減量や活動量を増やすことでTDDが少なくなれば、インスリン1単位で補正できる血糖値は大きくなります。
  • この補正値は1型糖尿病および多くのベーサル/ボーラスインスリン療法の2型糖尿病に応用できます。混合型インスリンの人では参考値程度の精度とされています。

500ルールとは

インスリン1単位に対する炭水化物量を計算する方法です。
これもとても簡単で、次の計算式です。
500/TDD

TDDが40単位なら、500÷40=12.5で、この人のボーラスインスリン1単位あたり炭水化物12.5gが対応します。
料理を見て、炭水化物量が推計(カーブカウンティング)できれば、それに見合ったボーラスを計算できるので1型糖尿病でも食事の自由度がふつうの人と同じようになります。

上記の1,500ルールを提唱したDavidson医師らが、2003年に今度はインスリン1単位に対する炭水化物(g)を求める体重に応じた係数(この場合は500のこと)を計算する公式を発表しましたが、体重によって係数が300-500と変動していました。そのため、300ルール、450ルール、500ルールというのが提唱されています。体重50kgなら300ルール、80kgなら500ルールです。

これらの血糖コントロールのためのルールはあくまでも目安ですから、担当医のアドバイスを受けてご利用ください。

■関連記事
インスリン治療のスライディングスケールとは?
※記事内容は執筆時点のものです。最新の内容をご確認ください。
※当サイトにおける医師・医療従事者等による情報の提供は、診断・治療行為ではありません。診断・治療を必要とする方は、適切な医療機関での受診をおすすめいたします。記事内容は執筆者個人の見解によるものであり、全ての方への有効性を保証するものではありません。当サイトで提供する情報に基づいて被ったいかなる損害についても、当社、各ガイド、その他当社と契約した情報提供者は一切の責任を負いかねます。
免責事項

あわせて読みたい

あなたにオススメ

    表示について

    カテゴリー一覧

    All Aboutサービス・メディア

    All About公式SNS
    日々の生活や仕事を楽しむための情報を毎日お届けします。
    公式SNS一覧
    © All About, Inc. All rights reserved. 掲載の記事・写真・イラストなど、すべてのコンテンツの無断複写・転載・公衆送信等を禁じます