“楽しみの限界”は極めて高く、狭く、奥深い
メルセデスAMG社がモータースポーツで培ったテクノロジーを注ぎ込んだ少量限定生産のフラッグシップモデル、ブラックシリーズ。第4弾はC63AMGクーペをベースき開発された。日本には50台が導入される予定で、価格は1500万円となる
言ってみれば今、C63でサーキット走行をがんがん楽しんでいるようなジェントルマンスポーツドライバーが、ステップアップで乗ってみて、はじめてその真価が発揮されるようなマシーンである。
そもそも、ベースとなったC63AMGクーペは、近年稀にみる“乗って楽しいFRスポーツクーペ”であり、オシリを滑らせつつ優秀なESPがさりげなくカバーするという簡易ドリフトを、運転好きならほぼ誰もが楽しめてしまうという点で、楽しさワイドレンジ、スイートスポットの広いモデルだった。
ところが。ブラックシリーズの“楽しみ限界”は、極めて高く、狭く、奥深い。ボクのようなサーキットトーシロドライバーが駆ると、素直に楽しめない=パフォーマンスを十分に引き出せない、というもどかしさが常につきまとう。おそらく、多くの人にとって、よりFRらしい楽しさが味わえるのは、ノーマルC63の方だろう。タイム的にはブラックシリーズの方が速いにしても。。。
AMGファン憧れのブラックシリーズは、2006年のSLK55(120台限定)に始まったAMGメルセデスのプレミアムストラテジーである。CLK63(700台あまり)、SL65(350台)と続き、今回のC63ブラックシリーズが第4弾である。内容的には、CLK63ブラックシリーズの“新型”と言えなくもない。
サイズは全長4745mm×全幅1855mm×全高1388mm。ワイドフェンダーや大型フロントエプロンなどを装着、角度調節ができるカーボンリアウイングも備わった。マットブラックの19インチ鍛造アルミホイールとカーボンエクステリアパッケージのセットオプションは120万円
日本への割り当て増はこの際、皆さんの熱意に任せるとして、ノーマルC63クーペ(何だか変ですよね、この言い方。AMGなのにノーマル、だなんて)との違いをかいつまんで説明しておこう。まずはスタイリング。ブラックシリーズといえばワイドフェンダーが最大のみどころ。フロントアクスルを40mm、リアも79mm、ワイドトラックとしたため、前フェンダーが片側28mm、リアも42mm、それぞれノーマルモデルよりもフレアしている。
ド迫力のワイドフェンダーとあいまって、SLS AMG GT3を彷彿とさせるエアロデバイスの数々も実に格好いい。最初写真でみたときは、ちょっと子供っぽい、と思ったものだが、実物を見ると、その仕上がり質感の良さに惚れてしまった。
大容量オイルクーラーを賄うため巨大なインテークを開けたバンパースポイラーに始まり、2本のカナードやアルミニウム製フード、サイドスカート、ハイリアウィング、リアアンダーデュフューザーなど、レースパドックが本当に良く似合う仕立てである。全てのデザインが、ノーマルとは違っているのだ。
SLS由来の巨大な鍛造アロイホイール&タイヤに、コンポジットディスク(前)の強力なブレーキシステムの組み合わせもまた、レーシーなスタイリングに“華と実”を添えた。トランクリッドには、ブラックシリーズ専用のエンブレムバッジが輝いている。
ラテラルサポートを備えたAMGスポーツバケットシートを標準装備。インテリアはブラックを基調にレッドでアクセントを施した。前席にAMGスポーツシートを備える4シーター仕様は40万円のオプションで用意する
そして、何と言っても注目したいのは、巨大なタイヤを振り回すエンジンスペックだ。AMG珠玉のM156型6.2リッター自然吸気V8エンジンは、パワートレイン責任者でありM156およびM159(SLS専用63エンジン)の生みの親でもあるDr.フリードリヒ・エイクラーが“これがほぼファイナルスペック”と言う380Kw、すなわち517ps仕様である。
SLS用M159型ユニットと同様に、鍛造ピストンや鍛造コネクティングロッド、軽量クランクシャフトを組み込んだハイスペック仕様で、内容的には以前20台限定で発売されたDR520と同等だが、エイクラー氏曰く、「さらに細かなチューニングを加えている」ということで、事実上、これがCクラス史上で最強スペックのエンジンとなった。7速AMGスピードシフトMCTを組み合わる。
アシ回りにももちろん、ハイスペック化に併せた専用設計が採り入れられた。なかでも新設計の、調整式コイルオーバーサスペンションは注目のアイテムだ。3ステージESPやリアLSDも標準で装備する。