労務管理/就業規則の基礎知識

定年後の継続雇用制度をどう設計する?

超高齢化社会です。企業の人事労務管理においては、その状況を踏まえたマネジメントが求められています。定年を迎えた従業員の再雇用に欠かせない知識・実務上の勘所を本記事でしっかり押さえましょう。

小岩 和男

執筆者:小岩 和男

労務管理ガイド

定年後の継続雇用制度をどう設計する?

定年後再雇用制度は今や避けて通れません 自社の従業員の状況を踏まえた制度構築は急務です

定年後再雇用制度は今や避けて通れません 自社の従業員の状況を踏まえた制度構築は急務です

超高齢化社会の現実はビジネス社会でも避けることができません。企業の中で定年を迎える従業員をどのような手順・処遇(労働条件)で雇用継続していけばよいのでしょうか。法令順守はもちろん大前提。その上で対象者のモチベーションを維持向上させつつ、企業の収益向上にも貢献できるような制度設計・運用をしたいですね。企業ごとに違いはあっても定年後の役割は現役時代と変化してくることでしょう。その役割責任に応じた処遇をすることでモチベーションが維持されます。

一方で、制度の運用過程で労使間による再雇用をめぐる諸問題が多く見られるようになっています。本記事では、従業員を継続雇用(再雇用など)する際の労務管理のコツをお話しします。

法令上どのように決まっているか?

■4つの選択肢(65歳までの雇用確保措置)がある

平成18年4月、高年齢者雇用安定法が改正され、定年(65歳未満)制がある企業に65歳までの雇用の確保の義務付けがされています。60歳定年を迎える従業員は65歳までの雇用確保措置を、次の4つから選択することになっています。

1.定年引上げ(定年年齢を65歳に引き上げる)
就業規則上の定年年齢がひき上がるため、労働条件継続のまま雇用される。

2.勤務延長制度
定年年齢はそのまま設定されたまま、その定年年齢に到達した者を引き続き雇用する制度。通常定年前の労働条件が継続される。

3.再雇用制度
定年年齢に達した者をいったん退職させた後、再び雇用する制度。通常労働条件は見直しされ、新労働条件で再雇用。

4.定年廃止
定年年齢をなくすこと。従っていつまでも勤めることが可能。

実務上は再雇用制度を選択しよう

上記3.の再雇用制度は、定年退職させた後、退職従業員の希望に応じて定年後も再び雇用する制度。定年前の労働条件はリセットされ、再雇用後の労働条件は事業主と従業員で協議して取り決めることができます。安定した雇用が確保されればよいので、常用雇用でなく短時間勤務や隔日勤務なども可能です。企業の実情に合わせて導入ができますので柔軟な対応がとれることが特徴です。このことから多くの企業で採用されています。

ところがこれを別の視点でみると、雇用確保措置の柔軟な対応に限界点があることや、再雇用の可否を決定する際の基準の合理性など、公平性・客観性が備わったものを策定・周知の上実施しないと労使間のトラブルになりやすいということも言えます。

トラブルを防止するための取組み

では再雇用制度運用の実務ポイントを確認しましょう。まずは自社の労使慣行状況の確認。また十分な労使協議による制度設計・周知徹底などの納得性がカギとなります。こと問題が起こってしまいますとそれに費やす時間・費用など大きなリスクになります。先手を打ってリスク回避をしておくことこそ人事労務管理の極みなのです。

■トラブル回避の具体的ポイント

  1. 自社における再雇用者に適した職務内容の洗い出し(具体的な仕事内容)
  2. 再雇用をする際の基準作りを労使間で十分協議(具体性・客観性、雇用時とその更新時の2つの基準を作ることもポイント)
  3. 従業員(50歳代の相当時期)に定年後の進路希望のヒアリング実施(自社の制度の周知、何歳まで勤めたいか・希望する勤務形態など)
  4. 定年後の人生設計(セカンドライフ)に重要な社会保険、退職金制度、税金などの仕組み説明会の実施(個別相談でもよい)
  5. 再雇用後の労働条件(賃金・労働時間など)の複数選択肢の設定
  6. 雇い止め、解雇などの手順に特に留意

再雇用までのプロセス及び基準の設定と運用

再雇用制度の勘所は、50歳代半ばの定年後の人生設計のヒアリングです

再雇用制度の勘所は、50歳代半ばの定年後の人生設計のヒアリングです

自社の人事制度として「再雇用プロセス」を確立、周知、実行します。導入期間を設けることがトラブル回避の第一歩です。

■再雇用プロセスはこうする(時系列例示)

1.50歳代半ば
・定年後の雇用に関するヒアリング(アンケートなど)
同時に、自社の再雇用基準、公的年金、雇用保険制度、自社の退職給付制度など、及び再雇用の際のモデル賃金などの説明をします。自社における制度の内容をしっかり周知させることです。

2.定年日の数ヶ月前
・定年退職日の通知・再雇用の希望の有無の確認
再雇用の希望を受理し、「基準」に合致しているか確認、基準に満たない者には十分な説明。

3.定年退職日
・定年退職・再雇用契約の締結
労働契約書で労働条件を取り交わす。従業員から再雇用の申し出がない場合は、ここで定年退職。

4.定年退職日以降
・再雇用契約(一年毎など)
以後の更新については、更新時の「基準」に合致しているか確認。更新時の基準は、再雇用時と同じ基準とする必要はありません。

■プロセスの留意点
ポイントは、1.の50歳代半ばでのヒアリングです。この時期は、定年後の人生設計を考える時期です。定年後、働くかどうかの意志(再雇用・他社での雇用・自営など)・働く場合の勤務状況(労働時間・賃金)の希望等を、ヒアリングしていきます。また自社の制度内容をここでしっかり伝えます。再雇用の際の基準も確認できますから、再雇用に向けての動機付けにもなりますね。

■ 再雇用をする際の「基準」の設定と運用
前記のヒアリング時に「基準」が示されていれば、将来設計は明確になってきます。再雇用を希望する対象者の人数の把握と、その人にやってもらう職務内容を設計することは、会社の人事労務管理上からも重要です。トラブル回避のため基準に該当しない従業員に対しては、その理由を十分に説明し納得を得ることです。

■「基準」は、具体性と客観性がポイント

  1. どのような役割を負ってもらうかという観点で策定します。また定年時再雇用の基準と次回以降の更新基準は同じにする必要はないと言う事もポイントです。
  2. 能力、経験などで、たとえば人事考課の結果を基にする場合は、かならず対象者にフィードバックすることです。これがなされていないとトラブルの種となります。
  3. また、協調性がある者、勤務態度が良好な者などを基準にする場合は、人事考課の項目でこの記載がされていることが、トラブル回避の条件となるでしょう。
次のページでは、再雇用の場合、労働条件をどうするか?について解説しています。
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