痛み・疼痛/手術の流れ

手術前の不安に…術前・当日・術後の流れを医師が解説

全身麻酔であれ部分麻酔であれ、手術前は誰でも不安になるものです。多くの経験を持つ麻酔科医として、手術前、手術当日、手術後に行う検査と知っておきたい注意事項をわかりやすく説明します。手術の大まかな流れを理解しておくことで、手術に対する漠然とした不安を解消してください。

富永 喜代

執筆者:富永 喜代

医師 / 痛みの治療・麻酔ガイド

怖い?不安? 手術の流れを事前に把握しておきましょう

診察

手術の主人公は患者さんです。手術成功に向けてチームで取り組みましょう

手術には日時を決めて行う定期手術と、突発的発病による予測のつかない緊急手術があります。いずれの場合にも手術前、手術当日、手術後の流れはある程度決まっています。

手術が決まった患者さんやそのご家族は、「手術? どんなことをするの? 面会はいつできるの?」と、さまざまな不安が募ることでしょう。今回は、そんな不安を少しでも解消できるように、手術前、手術当日、手術後に行う検査とそれぞれの注意事項を解説します。

手術前の検査

CT検査、MRI検査、手術前検査

術前の状態に応じて、CT検査が追加されることもあります

まず手術をする原因となる病気の検査を進めます。もちろん病気の種類によって行う検査は様々です。心臓の病気なら心電図、心臓エコー、CT検査は必須。胃や腸の病気なら、胃カメラや大腸ファイバーの検査、骨折の手術ならX線検査、脳の手術なら血管造影検査が行われます。

このように各手術にはそれぞれ特殊な検査が追加されますが、どの手術を受ける場合でも、必ず術前に行われる検査があります。それは血液一般検査、心電図検査、胸部エックス線検査、呼吸器検査です(呼吸器検査は小児の場合には行いません)。これらはスクリーニング検査と呼ばれ、患者さんのご負担は採血時の針の痛みだけです。スクリーニング検査を行うことで、手術前の患者さんの全身状態がわかり、手術の合併症発症リスクを予測します。4つのスクリーニング検査について説明します。

■一般採血検査
血液検査、糖尿病、血糖値、腎不全、肝不全

血液検査で術前状態の正確な把握ができ、手術用の輸血準備量が決まります

貧血や出血傾向の有無、肝臓や腎臓機能、血糖値、感染症の有無など、血液には重要な情報がたくさん詰まっています。甲状腺の病気や膵臓、脳の病気などでは、血液ホルモンの数値も調べます。術前血液検査の結果と実施される手術内容で、手術用の血液準備量が決まります。また、今まで気づかなかった隠れ糖尿病が見つかることもあります。重症な糖尿病が見つかった場合には、手術をキャンセル延期して、血糖コントロールを行った後、手術を行う場合もあります。病気によっては複数回採血が必要ですが、通常は手術用には1回の採血です。

■心電図検査
心臓機能検査として、心電図検査はとても有効です。日常生活に支障がなくとも、心臓の病気が隠れていることがあります。また、手術前に心電図を撮り、不整脈や無痛性の心筋梗塞の跡が見つかる場合もあります。この場合には、さらに心臓エコー検査を追加して、手術前に心臓の収縮力や心臓内の血の流れなど、心臓機能を推測することが必要になります。

■胸部エックス線検査
手術後合併症、肺炎、エックス線検査

胸部エックス線検査で、手術後の合併症リスクを予測します

上半身の首からみぞおちまでのエックス線検査を行います。これによって肺や気管支の状態を調べます。肺気腫や気管支炎など、手術中~手術後の回復に大きく影響する肺の状態を把握し、手術後の肺炎などの早期発見ができるようにします。予期しなかった肺へのガンの転移が発見されたり、心臓の拡大が見つかることもあります。

■呼吸器検査
肺活量や一秒間で吐き切る空気の量などを調べる呼吸機能検査です。これによって肺の手術では切除する肺の量を決めたり、たとえ肺の手術でなくても手術後肺炎の発症など、呼吸器合併症の予測に役立ちます。全身麻酔では人工呼吸を行うので、酸素を体に取り込む指標として非常に重要な検査です。また、手術中~手術後の痰の多さも予測することができます。

手術前の麻酔科医師による診察

麻酔科医、診察、手術

術前の麻酔科医の診察で、麻酔に対する不安や心配なことは遠慮なく質問しましょう

麻酔科医師は、全身状態の把握と口からのどへの診察、そして問診を行います。患者さんが受ける手術の種類によって質問は少し変わりますが、歯や開口の具合、首の可動性、心臓や肺の音などを調べ、スクリーニング検査で得られた結果をもとに問診していきます。

自分の命を預ける麻酔科医の診察ですが、時間はとても短いのです。あらかじめ聞きたい内容を準備しておくと良いかもしれません。患者さんが麻酔科医に伝えるべきことがあります。

・ 現在、手術以外に治療している病気(糖尿病や高血圧など)
・ 今までかかった病気(小児ぜんそくや虫垂炎など)
・ 今、飲んでいる薬の種類と量
・ アレルギーの有無
・ 今まで手術を受けたことがあるのなら、その時起こった合併症の有無
・ 麻酔を受けて高熱が出たり、調子が悪くなった家族がいる場合
・ 筋肉や血液の病気の家族がいる場合(筋ジストロフィーや血友病など)

これらは全身麻酔を受ける上で、麻酔方法を考えたり治療方針を考慮する重要な情報になります。ぜひ積極的に伝えましょう。

手術当日の水分摂取・食事制限などの注意点

手術、食事制限、合併症

手術前日の食事時間や制限について、麻酔科医に確認しておきましょう

手術当日には水分や食事制限があります。手術開始時間によって、制限時間はそれぞれです。特に小児の場合は母乳、牛乳、お茶、食事別に細かい時間制限があり、月齢や年齢によっても異なります。必ず麻酔科医に確認しましょう。

小児の患者さんに、「ご飯は手術前日の夜9時までOKです。」とお伝えしたにも関わらず、手術当日朝7時に祖母がパンを食べさせてしまった事例がありました。孫のお腹がすいていたので、ご飯じゃなくパンならいいかと思って与えたそうですが、もちろん手術は延期です。食事制限の説明不足を痛感させられたエピソードです。延期になるとク管理が大切です。

緊張して興奮する結果、血圧が上がると具合が悪い手術、例えば心臓の手術などでは、手術前に不安を抑える注射を受けます。ふらつきが出たりボーっとするので、注射を受けた後はベッド上で安静にして、手術室に入るまでお部屋で待機します。

手術中の過ごし方

心電図検査、心臓エコー検査、不整脈、心筋梗塞

心電図検査は小児にも行われ、異常があればさらに心臓エコー検査を行います

手術室に入室したら、医師や看護師に任せる気持ちで、リラックスして臨みましょう。スタッフは血圧を測ったり、心電図や酸素を測る機械で患者さまの安全に細心の注意を払っています。意識がある手術の場合は、手術中に痛みを感じたら遠慮なく痛みを伝え、気分が悪かった場合にも早めに伝えることが重要。手術の主人公は医師でも看護師でもなく、患者さんです。患者さんの手術を成功させるように、スタッフは最大限の協力を惜しみません。手術中もコミュニケーションを取りながら、手術合併症を減らしていきましょう。

意識がない手術の場合には、麻酔医を信頼し、病気が治った後の生活を想像しながら手術を受けましょう。今度目覚めたときには無事に手術が終了し、病気からの回復への一歩がすでに始まっているのです。

手術後の注意点・検査

検査手術や日帰り手術などの場合には、手術後には元の一般病棟の部屋や手術回復室でしばらく休んだ後、帰宅となります。この時、吐き気や出血の有無を確認し、全身状態を確認します。不安なことがあれば、帰宅前に確認しておきましょう。

ICU,術後面会、手術の説明

術後、面会前にご家族は別室で手術結果を聞きます

入院が必要な手術では、手術後にICUや術後回復室に入室します。そこで心電図、血圧計、血中酸素濃度などの連続モニター管理下に、血液検査や点滴治療を併用しながら、健康状態を観察します。ICUに入室が必要のない手術の場合でも、一般病棟で同様の連続モニター管理と血液検査を行います。

手術が終われば、執刀医から手術の結果がご家族に伝えられます。これは手術室近くの専用の部屋で行われることが多いようです。その後、患者さんの回復に応じて面会が可能となります。ICUでの面会は時間制限と人数制限があるので、他の入院患者さんやご家族、スタッフの邪魔にならないよう少し気配りが必要です。大きな声は控えて、携帯電話は電源を切り、器具やカートに触らないようにしましょう。風邪をひいている方や体の弱いご高齢のご家族、免疫の弱い小児は、ICU面会には向きません。患者さんが落ち着いて、個室に戻ってからの面会が無難でしょう。

手術の大まかな流れがお解りいただけたでしょうか? 詳細は各病院によって各手術の流れが決まっています。クリニカルパスと呼ばれ、術前の検査や手術、術後の流れなど、患者さんが受ける手術によって病院が定めた日程スケジュールです。患者さんは入院と同時に手術の流れの説明を受けるので、分からないことがあれば確認しておきましょう。

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