SU薬はベータ細胞をムチ打つイメージがありますが、全くの誤解です。薬を飲まない高血糖の方がダメージが大きいのです。 |
偶然の産物・スルホニル尿素薬
第2次世界大戦の最中、腸チフスの患者に投与された新しいサルファー剤が重篤な低血糖を引き起こしました。この思いがけない出来事が「経口血糖降下薬」の発端になったのです。1942年のことでした。
バルセロナからフランスに入る時、モンペリエを通過するたびに、私は1942年のモンペリエ大学での「スルホニル尿素薬」の発見を思い出します。
同大学のオーギュスト・ルバチエール(August Loubatieres)という医学者が、たまたまその頃出来たばかりのプロタミン亜鉛インスリンを使って、低血糖が脳に与えるダメージを調べる動物実験をしていました。
ちょうど同時期に、同僚のマルセル・ジャンボン(Marcel Janbon)は、新しいサルファー剤(IPTD)を腸チフスの患者に高用量で与えると、ひどい低血糖から昏睡を起すことがあることに気がついたのです。
この2人の研究の組み合わせが、膵臓のベータ細胞からインスリン分泌を促進する「スルホニル尿素薬」の発見につながりました。抗生物質サルファ剤はスルファ剤ともよばれますが、正式には「スルホンアミド剤」といいます。糖尿病に使われるのは抗菌活性のないものです。
第1世代スルホニル尿素薬とは?
その後、戦中・戦後のせいか経口薬の開発はなかなか進みませんでした。1955年になってやっと、ドイツでサルファー剤「IPTD」と構造がよく似たカルブタミド(carbutamide)で血糖をコントロールすることに成功したのです。このカルブタミドが初めて市場に出たスルホニル尿素薬ですが、毒性があったので早々に姿を消しました。結局、抗生物質としてのサルファー剤「IPTD」は血糖降下薬としては使われませんでしたが、これが手がかりになって化学者たちはいろいろな構造式のスルホニル尿素を合成して血糖降下作用を調べることになったのです。
今も使われているのは10種類ぐらいですが、一説には12,000ものスルホニル尿素が作られたと言われています。
日本では1956年にトルブタミド、1959年にクロルプロパミド、1961年トラザミド、1964年にアセトヘキサミドと1950年代から60年代にかけて、経口血糖降下薬としてのスルホニル尿素薬が使われるようになりました。それらが第1世代スルホニル尿素薬と言われるものです。
スルホニル尿素(SU)薬の種類(日本)
それでは、少し難しく思われがちな薬の名前について、以下でご説明しましょう。トルブタミド(商品名;ヘキストラスチノン、ジアベン、ヂアベトース1号、ブタマイド)
グリクロピラミド(商品名;デアメリンS)
アセトヘキサド(商品名;ジメリン)
クロルプロパミド(商品名;アベマイド)
グリブゾール(商品名;グルデアーゼ)
グリクラシド(商品名;グリミクロンHA、クラウナート、グルタミール、ダイアグリコ、ファルリンド、ベネラクサー、ルイメニア)
グリベンクラミド(商品名;オイグルコン、ダオニール、オペアミン、クラミトン、ダムゼール、パミルコン)
グリメピリド(商品名;アマリール)
日本では第3世代までありますが、欧米では第1・第2世代までが多く、その場合はグリメピリドも第2世代に分類されています。
第1世代との相違は血糖降下作用の力の差で、第2世代はトルブタミドの100~500倍も強力です。
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