痛み・疼痛/神経ブロック注射

神経ブロック注射の効果・副作用……肩こりやヘルニアにも有効か

【麻酔科医が解説】ブロック注射治療の安全性と治療効果について、2万人超の臨床麻酔実績を持つ医師の視点で解説。ブロック注射治療のメリット、副作用、費用を始め、上半身の病気に対する「星状神経節ブロック」、下半身の病気に対する「腰部硬膜外神経ブロック」などについてわかりやすくご説明します。

富永 喜代

執筆者:富永 喜代

医師 / 痛みの治療・麻酔ガイド

神経ブロック注射治療とは

注射器

ブロック注射には頭から足の先の病気まで対応する、さまざまな方法があります

神経ブロック注射治療とは、痛い場所の神経の近くに薬を注射することで、一時的に神経の興奮を抑え、痛みで傷ついた部位を効果的に治療する方法。ブロック治療では、局所麻酔薬が使用されます。局所麻酔薬は、痛みで過剰に興奮した神経を一時的に麻痺させることで、「痛い」という神経の情報をブロックします。ブロック注射は、決して神経を切断するような方法ではなく、「痛みの情報」だけを一時的に中断する方法です。
<目次>  

神経ブロック注射の効果とは……単なる対症療法ではない

注入された局所麻酔薬は、痛み部位の筋肉をほぐし、血流を改善させます。結果、広がった血管を通して酸素やたんぱく質などの栄養を痛い場所に効率よく運ぶことができ、痛んだ神経や筋肉を効果的に、自然に治癒するより早く回復させることが可能です。ブロック治療とは単なる対症療法ではなく、自分で自分の痛い場所を治そうとする、人間の持つ自然治癒力をサポートすることで、治癒能力をアップさせる画期的な治療方法といえるでしょう。また、薬物療法などに比べて、痛みの部位に限局して高い効果を示すため、全身への影響が少ないという利点もあります。

ブロック注射治療は、手術治療と薬治療の中間的な位置づけです。薬を飲み続けても痛みが改善しない場合に、積極的な痛み治療として効果を発揮します。痛みは、安静や薬物療法から、コルセットなどの装具療法、そしてブロック治療や手術療法まで、多角的に治療することで、より高い治療効果を目指すことが大切なのです。

ブロック治療には、頭から足の先まで、全身の病気に対応する、さまざまな方法があります。

ここでは、ペインクリニック科が行う、主な2つのブロック注射治療について、詳しくご説明しましょう。一つは頭から首、肩など上半身全体に適応症が広い「星状神経節ブロック(せいじょうしんけいせつぶろっく)」について、そして、もう一つは、腰から足先まで下半身の病気に適応される「腰部硬膜外神経ブロック(ようぶこうまくがいしんけいぶろっく)」です。

いずれも入院の必要はなく、外来で行われるブロック注射治療です。
 

星状神経節ブロックの特徴・効果・副作用・費用

神経ブロック注射、効果、副作用、費用

神経ブロック注射は、安全で治癒能力を高め、治療期間を短縮できる可能性があります


上半身の病気に効く、基本的なブロック注射「星状神経節ブロック」は、気管の左右にある、星の形をした神経のかたまりをブロックする方法です。星状神経節は、頭、顔面、頚部、肩、腕、胸部、背中などの上半身の交感神経の中枢。長い間、肩こりや頭痛、首の痛みに悩んでいると、持続的に交感神経が興奮状態となります。すると、いつの間にか痛みに敏感になり、血のめぐりが悪くなってしまいます。そこで星状神経節ブロックを行うと、神経の興奮を抑え、上半身全体の血流が改善し、効果的に痛みを和らげることができます。

■ 星状神経節ブロックが適応する病気
頭痛、顔面神経麻痺、頭頚胸部の帯状疱疹、頸椎症、五十肩、頸椎椎間板ヘルニア、むちうち後遺症、肩こり、レイノー病、網膜血管閉塞症など。頭の中から、上半身の痛み全般に対応できる、優れた治療方法です。

■ 星状神経節ブロックの方法
まず、治療ベッドで上向きになり、肩の下に枕を入れます。少し首をそらせるようにして、力を抜きます。医師は、のどぼとけ下の気管横、左右どちらかに、5~10ml程の局所麻酔薬を1回注射します。深さは1~3cmで、使用される針の太さも0.5mmほど。やがて首や肩、背中の筋肉がリラックスして、手先が温かくなり、痛みが和らぎます。ブロック注射後は、30分ほど安静にしていただき、全身状態の観察をして治療は終了です。この間に、注射した側のまぶたが重くなり、目が充血し、鼻が詰まる感じや、声がしゃがれることもあります。これらは全て、星状神経節ブロックが効いた証拠です。ブロック後2時間以内には、全て元通りの状態に戻るので、ご安心ください。

■ 星状神経節ブロックの副作用
出血、気胸、感染などがあります。専門医が治療を行えば、出血や気胸が起こる確率は、非常に少ないものです。しかし、抗凝固剤=血をサラサラにする薬を飲んでいる場合は、必ず医師に伝えましょう。抗凝固剤を飲んでいると、血が止まりにくく、血のかたまりができたり、出血の可能性があるからです。

■ 星状神経節ブロックの費用
ブロック注射治療は、保険適用です。初診時には、初診料とブロック料金は3割負担の方で2000円程度。これにお薬の投薬料、エックス線検査料金、点滴治療の料金などが別途必要です。初診時にかかる費用は、3割負担の方であれば合計で通常4000円以内ですが、詳しい費用については各医療機関にお尋ねください。
 

腰部硬膜外神経ブロックの特徴・効果・副作用・費用

星状神経節ブロック、腰部硬膜外神経ブロックの方法、費用、合併症について説明しています。

1回の腰部硬膜外神経ブロック注射で、ぎっくり腰が治ってしまうこともあります


硬膜外(こうまくがい)神経ブロックは、痛みを感じる神経、運動神経、交感神経をすべて治療できるブロック注射療法です。ヒトには、首からおしりまで続く脊髄神経を取り囲むように、血管やリンパ管、脂肪を含む空間が存在します。その空間に薬液を注入すると、脊髄から出る神経に薬液が伝わり、広い範囲の痛みを和らげ、血流を改善できます。脊髄に近い神経に薬が効くため、治療効果が高く、速効性が期待されます。特に、腰に行う腰部硬膜外神経ブロックは、おへそから下、下半身の病気全般に効果的であり、ペインクリニック科や麻酔科外来で行われる基本的な治療です。

■ 腰部硬膜外神経ブロックの適応する病気
椎間板ヘルニア、腰部脊柱管狭窄症、ぎっくり腰、腰椎すべり症、腰椎圧迫骨折、帯状疱疹、慢性腰痛症、坐骨神経痛、閉塞性動脈硬化症など。腰からおしり、おへその下から足先まで、下半身の痛みを伴う病気に、有効です。

■ 腰部硬膜外神経ブロックの方法
まず、治療ベッドで横たわって、エビのように体を丸くします。この時、背中から腰まで衣服をずらしますが、下着を脱ぐ必要はありません。次に、腰を消毒して、痛み止めを注射します。この痛み止めの注射は、ブロック注射による痛みを軽くするため、予防接種で使われる針の太さ(約0.6mm)より細い針(約0.5mm)を使って行われます。皮膚に痛み止めが効いたところで、太さ約0.9mmのブロック針を注射。深さ3cmから5cmにある腰の神経の近くに、薬液を注入します。この薬液は痛みを止める作用、神経の腫れを取る作用、筋肉を緩める作用、血流を改善する作用などがあります。入れる量は、年齢、身長、症状などで決まりますが、5ml~10ml 程度。薬液注入後10分ほどで、足が温かくなり、背中やおしりの筋肉がほぐれ、痛みが和らいできます。およそ30分、ベッド上で安静を保ち、点滴治療を行います。点滴終了後、血圧を測定し、全身状態を観察して、腰部硬膜外神経ブロック治療は終了です。

■ 腰部硬膜外神経ブロックの痛み・副作用
針を刺す痛みが、主な副作用と言えます。しかし、ごく細い針を使用することで、十分皮膚の痛みを取ってからブロック注射を行いますので、ご安心ください。実は、多くの患者さまはすでに腰痛があるので、相対的に針を刺した痛みを感じにくくなっています。「ブロック注射はすごく痛い」と噂に聞いて怖いと思っていたけど、実際に受けてみると、想像していたよりずっと痛くなかった、とおっしゃる患者様がほとんどです。

重篤な副作用は、針穴からの感染、出血、神経障害ですが、これらの副作用は非常に少ないものです。報告にもよりますが、発症頻度は0.05%~0.001%で、ペインクリニック、麻酔科専門医の治療を受けることで、さらにその可能性は低くなります。

■ 腰部硬膜外神経ブロックの費用
ブロック注射治療は、保険適用です。初診時には、1割負担の方は1200円程度、3割負担の方は3600円程で、腰部硬膜外神経ブロック治療が受けられます。これに点滴治療やX線検査料金、内服治療薬やシップ薬の処方料金が、別途必要です。通常、初診時は合計6000円以内で治療が受けられます(詳しくは、各医療機関にお問い合わせください)。

みなさん、ブロック注射治療について、ご理解いただけましたでしょうか?

ブロック注射は、痛みで緊張した神経の興奮を抑え、血流も改善し、ヒトの持つ自然治癒力を高めます。ブロック注射治療によって、治療期間を短縮させ、効率よく痛みのない日常生活を取り戻しましょう。
 

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