格闘技/K-1・PRIDE・格闘技関連情報

集中連載・総合格闘技をオリンピックに(4) 空道はアマ総合の標準となるか(3ページ目)

連載最終回:格闘空手の総本山「空道」にアマチュア総合格闘技オリンピック化の可能性を探る。

執筆者:井田 英登

ロシア人大学教員vs警備会社職員

大道塾で最も厚い選手層を誇る軽重量級の決勝でも興味深い戦いが繰り広げられた。

このクラスを主戦場とし大道塾トップクラスの一人である、ロシア人選手アレクセイ・コノネンコと、昨年の無差別級を制してコノネンコ打破に矛先を向けてきた山崎進の対決である。山崎はここ数年重量級/超重量級で活躍してきた選手だが、ライバルであった藤松泰通が長期欠場したこともあり、競い合う好敵手を求めて軽重量級に階級を落してきたのだ。

しかし、減量のツケは高くついた。序盤から山崎は得意の打撃に冴えを欠き、受けに回る展開が続く。そこを得意の投げと、気迫の象徴である頭突きで何とか凌いで決勝進出してきた。

山崎も大道塾の選手らしく格闘技に生活の基盤を置かない社会人だ。かつてパンクラスに請われて出場した際にも、「自分は能力として”プロ”に徹してますから、生活を支えられない程度のギャラで気持ちを鈍らせたりしたくないです」とギャラを固辞した硬骨漢。ただでさえハードな警備会社での仕事と練習を両立させた上に、さらに専業のプロでも苦しむ減量をわが身に課しての大会出場を選び取った精神力は想像を絶する。

一方、その山崎を迎え撃つ立場のコノネンコは、現在東北福祉大学考古学部で助手を務める研究者である。日本人の奥さんと結婚、日本に定住しており、学究として本格的に研究を進めていかねばならない立場だが、昼間の激務の傍ら東北本部の師範代として練習を欠かさない。さらに宮城県警などからの依頼をうけてロシア語通訳としても活動している。
コノネンコ”
階級を移動してこの一戦に賭けてきた山崎に、コノネンコもまたベストの戦いで答えた。
そんな激務の日常を覗かせないほど、コノネンコの勝ち上がりようは鮮やかだった。

一回戦・伊豫田徹を引き込みからの腕十字に極めて、ワンマンショーとでも言いたくなるような鮮やかな一本ラッシュの幕をあける。続く高橋衛戦ではインサイドガードからの腕絡みで一本をり、三回戦でも片足タックルで鈴木清治から流れるようにマウントを奪取し、肘を極めてしまう。元々9歳の時にはじめたサンボがベースにある選手だが、ここまで関節技に冴えを見せたのはおそらく初めてだろう。

あまりに対照的なプロセスを経てここにたどり着いた両者だが、試合はその二人の特徴が出た面白い試合となった。

組み付くやいなや頭突きを見舞う山崎に対して、襟を取らせながら左右のフックをぶち込んだコノネンコがまず最初のダウン(有効)を奪ったのだ。ここまで打撃を温存してきたコノネンコの作戦勝ちというべきであろう。既に三試合を愚直にド突き合いで勝ち上がって来た山崎とは、ダメージの蓄積が違う。

それでも遮二無二突っ込んでくる山崎に、コノネンコは冷静に打撃をあわせ、連続2ダウンを奪取。既にこの段階で勝負あったと見えた戦局だが、ここでも山崎は下がらない。逆に伝家の宝刀である一本背負いで、コノネンコを投げて見せたのだ。柔道なら一本相当の綺麗な投げであったが、コノネンコは山崎の吊り手を離さず、そのまま腕十字に持ち込む。

必死に頭を押し込んで逃れる山崎。既に勝負は精神戦の領域に突入している。30秒ルールでスタンドに戻ると、パンチで先制したコノネンコが巴投げを仕掛け、そのまま膝十字に。これは極まらず、山崎は30秒を使いきる前に立つように促す。

かくて両者の勝負は最後のスタンドに持ち込まれたが、既にマスク越しに覗ける山崎の視線は定まっていない。本来なら立っているのも苦しい状態なのではないか? 

だが先に仕掛けたのはやはり山崎だった。相手の懐に飛び込むように膝を繰り出していく、しかし逆に踏み込んだコノネンコのカウンターのストレートが一瞬早く山崎の顔面を打ちぬく。力尽きた山崎はもんどり打ってマットに倒れこんだ。誰が見ても一本間違え無しの一撃であった。

しかし、試合が終わっても、山崎の気力は燃え尽きていなかった。なんと主審の長田賢一が一本を宣告する前に、山崎がゾンビのように起き上がって、コノネンコに襲い掛かったのである。これはコノネンコが捌いて事なきを得たが、まさに“魂魄この世に留まりて”を地で行くような山崎の執念には、敗れたとはいえ恐るべきものがあった。
  • 前のページへ
  • 1
  • 2
  • 3
  • 4
  • 次のページへ

あわせて読みたい

あなたにオススメ

    表示について

    カテゴリー一覧

    All Aboutサービス・メディア

    All About公式SNS
    日々の生活や仕事を楽しむための情報を毎日お届けします。
    公式SNS一覧
    © All About, Inc. All rights reserved. 掲載の記事・写真・イラストなど、すべてのコンテンツの無断複写・転載・公衆送信等を禁じます