ひと昔前のパリの街中を撮った映画や写真を見ていると、自転車の前輪の上にエンジンを付けた乗り物がしばしば登場する。それがソレックス、正しくはベロ・ソレックスだ。イタリアのベスパ、日本のスーパーカブに相当する、フランス人にとってもっとも気軽なエンジン付きの乗り物といっていい。
キャブレターで有名なソレックス社が創立したのは1905年だが、約10年後には早くもこの乗り物の開発を開始。第2次世界大戦後の46年に量産が始まっている。名前のベロとはフランス語で自転車のことだ。その後何度も改良が続けられ、世界各国でライセンス生産を実施。70年代には日本のダイハツも作っていた。ただしフランスでの製造は88年で終了。現在はハンガリーで生産が続けられている。
フランス車が好きな僕は、当然ソレックスにも前から興味を持っていた。今まで手に入れなかったのは、生産中止のニュースを知っていたし、ダイハツ製はパーツの入手が心配だったからだ。ところが最近、ハンガリー製のモデルが日本にも輸入されていることを知った。これなら大丈夫だと勝手に思いこんで実車を見に行き、試乗もしないでその場で購入してしまった。
正式名称はソレックスS3800。エンジンは49ccなので、日本の原付免許で運転できる。パワーを前輪に伝えるのは、クランクと一緒に回るホイールを直接前輪に押し付けて回転させるという原始的な方法だ。エンジンの始動もこれまた原始的。ハンドルの前にあるレバーを動かしてエンジンと前輪を密着させ、デコンプという圧縮を抜くレバーを握りながらペダルを漕いでいき、速度が乗ったところでデコンプレバーを離す。すると押し掛けと同じ原理でエンジンが掛かるというわけだ。