精神分析学者のジェフリー・M・マッソンは自身の著書「猫たちの9つの感情」の中で、『カリフォルニア大学ディヴィス校獣医学部のニールス・ペダーセンによれば、猫が喉を鳴らすのは中枢神経系に由来しており、反射的行動ではなく自発行動であると研究から示されている』と書いています。
実際に警戒心むき出しの猫に喉を鳴らさせようとしても不可能です。猫はその時の自分の感情で自発的に喉をゴロゴロ鳴らし、わたしたちに何かを伝えようとしているのです。
猫はどんなタイミングで喉を鳴らすのでしょうか。猫のゴロゴロには猫のどんな感情が込められているのでしょう。今回はゴロゴロ喉を鳴らす猫の気持ちBSET 5です。
BEST 1 要求のゴロゴロ
元々猫の喉鳴らしは、子猫に授乳するお母さん猫が子猫に安心感とここにオッパイがあるよを教えるところからスタートします。子猫は生後2~3日過ぎから自分も喉を鳴らすことを覚え、お母さん猫とゴロゴロの合唱ができるようになります。「ご飯が欲しい」「一緒に遊んで欲しい」「撫でて欲しい」といったお母さん猫に甘えるような欲求が高まると、お母さん猫代わりに面倒をみてくれる同居人に対して、自分の欲求やご機嫌であることを伝えるために少し高音域でリズミカルなゴロゴロを聞かせてくれます。BEST 2 幸福感の共有・満足のゴロゴロ
猫は安心できる穏やかな時間を感じると、中音域の控えめなゴロゴロを発します。猫はよく寝る動物だといわれますが、大人になると完全に熟睡する時間は少なく、寝ているように見えても神経のアンテナは起きていることが多いです。寝ていると思った猫のそばに近寄ると、いきなりゴロゴロが始まったという経験をお持ちの方も多いでしょう。誰に聞かせるでもなく、まるで独り言のような喉ならしで、猫にとっては大好きな同居人がそばに来てくれたという幸福感と自分の満足感を噛みしめるゴロゴロです。
BEST 3 癒したい・いたわりたいという気持ちのゴロゴロ
同居人の体調が思わしくないとき、怪我をして痛む身体をもてあましているとき、身体的に問題はないけれど気持ち的に不安や孤独感を感じているときに、猫がそっと寄り添ってきてゴロゴロ喉を鳴らしてくれることがあります。その時に猫が何を感じ取っているかは定かではありませんが、まるで同居人の気持ちを癒そうとするかのように、身体全体でその信頼感を表してくれる猫に「この子がいてくれるから明日もがんばれる」と感じたことのある同居人もいるでしょう。
喉を鳴らず猫を撫でているだけで心拍数が安定し、精神状態が落ち着くことはよく知られています。猫がどこまで同居人の状況を理解して、そばに来てゴロゴロしてくれるかはわかりませんが、猫のゴロゴロに癒しの効果があることは間違いないでしょう。
BEST 4 自分の気持ちを落ち着けるためのゴロゴロ
驚いたり、警戒したり、ちょっとドキドキした後の猫は、気持ちを落ち着けるために自分の身体を舐めてセルフグルーミングしたり、小さく喉を鳴らしたりします。我が家の1頭は、普段いっさい喉を鳴らしません。過去喉を鳴らしたのは、動物病院で採血されたとき。ものすごく緊張して、恐怖を覚えた彼女は自分自身を落ち着けるために初めて喉を鳴らしました。こんな風に猫は自分自身をコントロールするために喉を鳴らすことがあります。
BEST 5 苦しい・痛い・辛いゴロゴロ
怪我をしたとき、重篤な病気になったとき、死期が迫ったときにも猫は喉を鳴らします。猫のゴロゴロの周波数25~50ヘルツは、骨密度を高めたり、身体の回復力を上げる効果があると証明されていますので、グツグツと少し隠ったようなゴロゴロで猫は自分の体を癒し、自然治癒力を高めているのかも知れません。もし猫のいのちの終わりが近づいているときに、この低い単調なリズムのか細く鳴らすゴロゴロが聞き取れたら、それは猫自身の回復だけでなく、残していく同居人のためのゴロゴロかも知れません。できれば最期の時まで、ゴロゴロのリズムにあわせ身体を優しく撫でてあげてください。
いまだに猫のゴロゴロは、どこからどのようにこの音が出てきているかはっきり解明されていません。ゴロゴロは「気管と横隔膜の筋肉の共鳴による咽頭の振動(Dr.Houpt)」という説や「喉頭質皺壁という仮声帯が震えているのではないか?(麻布大学獣医学部武藤教授)」などの色々な説があります。
猫は何よりも自分の気持ちよさを優先する動物です。そんな自分本位の固まりのような猫ですがこの喉鳴らしにおいては、自分が感じている幸福感や満足感を、わたちたちと共有しようとする感情表現のひとつではないでしょうか。
■参考図書
ジェフリー・M・マッソン著「猫たちの9つの感情」
河出書房新社 ISBN 978-4-309-25177-6
古草 秀子 訳