ガイド平野のところには、結婚前にライフプランとマネープランのご相談にいらっしゃるカップルが多くいらっしゃいます。その時よく聞かれるのが「夫婦共働きの場合、稼いだお金は誰のもの?」という質問です。そこで今回は、夫婦の財産について解説します。
夫婦の財産は3種類がある!?
2人が結婚して新しい生活を始めると、それぞれがお互いに貯めてきたお金や働いて稼いだお金が次第に一緒になって、誰のものだか分からなくなってきます。結婚前にしっかり貯めたはずのお金が、2人の生活費の補填のために気がついたら底を尽いて、「私のお金がいつの間にかなくなっちゃった……」ということもあります。結婚したら「自分のお金=2人のお金」になってしまうのでしょうか?夫婦がずっと仲良く幸せに暮らすことができれば、夫婦間の財産について悩むこともないのですが、最近は不幸にも離婚という残念な結果になるケースも増えてきました。そこで、夫婦間の財産はどのように扱われるのかをしっかり知っておく必要もあるでしょう。
夫婦の財産の扱いについて、民法という法律できちんと定められています。夫婦間で財産について取り決めをしない場合、夫婦別財産制(法定財産制)が適用されます。
■結婚前後の財産は誰のもの?
夫婦別財産制とは、夫婦が特別な契約をしない限りは、結婚前からそれぞれが持っていた財産、または結婚後でも自分の名前で得た財産は、それぞれの特有財産(夫婦の一方が単独で有する財産)となります。
つまり、結婚前にそれぞれが貯めたお金や結婚後に得られる給料などは、それぞれ固有の財産ということになります。結婚したら、2人のお金は2人のものと考えがちですが、夫婦間でも財産は分けて考えるというのが法律の考え方です。
■2人で買ったマイホームや家財は誰のもの?
夫婦別財産制のもとでも、夫婦共有の財産となるものがあります。それは、夫婦が合意して共有としているものです。共有名義で購入したマイホームや共同生活に必要な家財道具などが該当します。夫婦のいずれに属するか明らかでない財産も共有財産とされます。
■2人で稼いだお金を夫名義で貯金したら誰のもの?
夫婦共働きで結婚生活をしていると、家計管理のために2人の生活費用口座や貯蓄用口座をどちらか一方の名義で持つことが多いと思います。夫婦別財産制で考えると、例えば夫名義の銀行口座で2人が稼いだお金を貯金した場合、その銀行口座のお金は夫のものになってしまうのでしょうか?
名義がどちらか一方になっている場合でも、夫婦が協力して得た財産であれば、実質的に夫婦の共有財産(実質的共有財産)になります。また、もともとは夫婦一方の特有財産であっても、配偶者がその財産を増やすのに貢献している場合は、実質的共有財産になります。
■夫婦の財産の3つの分類の意味は?
民法によって、夫婦の財産は、「特有財産」「共有財産」「実質的共有財産」の3つに分類されるということですが、この3つに分類する意味はあるのでしょうか?
夫婦が仲良く幸せに暮らしているうちは、夫婦の財産について「誰もの?」という話題が夫婦間で上がることはまずないでしょう。このような話題が夫婦間で出るのは、離婚を前提とした話し合いがされる時です。離婚をする時に財産分与(夫婦の財産を分ける)を行いますが、財産分与の対象になるのは、共有財産と実質的共有財産です。
これから結婚をされる方にはタブーな話題と言えるかもしれませんが、離婚が年々増加傾向にある昨今、知っておいてほしい知識です。
夫婦間の財産について2人で契約することができる!?
夫婦間で財産について特別な取り決めをしない場合は、夫婦別財産制(法定財産制)が適用されます。裏を返せば、夫婦間で2人の財産について自由に取り決めをする(契約を結ぶ)こともできるのです。
夫婦間でお金のことについて契約を結ぶという発想は、日本人にはなかなか思いつかないかもしれませんが、欧米では将来の離婚を想定して、夫婦間で事前に契約を結ぶケースが多いそうです。離婚協議に無駄な労力を取られるよりは、早く人生の再スタートをした方がお互いにとってメリットがあるという考え方もあるのでしょう。
■夫婦財産契約ではどんなことを決める?
夫婦財産契約とは、夫婦共同生活の費用の負担、財産の帰属など、婚姻期間中に生ずる夫婦間の財産関係について、夫婦は契約で自由に定めることができるとするものです。
生活費の費用分担など、お互いの収入割合に応じて出すなど、夫婦間で普段から行う取り決めを契約として書面にして行うのです。
■夫婦財産契約は要件が厳しい
夫婦財産契約は、夫婦間で契約書を作成すればよいという訳ではありません。厳格な取り決めがあります。
●婚姻前に作成する
夫婦財産契約は、婚姻の届出前に行う必要があります。
●夫婦財産契約の登記をする
夫婦財産契約をした場合、婚姻の届出までに登記をする必要があります。
●夫婦の財産関係の変更の制限
夫婦の財産関係は、婚姻の届出後は変更することができません。
■夫婦財産契約で財産をもらったら?(参考)
夫婦財産契約で、夫婦の財産は全て2分の1の共有とする取り決めをしたケースで、夫の全額負担でマイホームを購入した場合、夫婦財産契約により、夫と妻の2分の1の共有名義にする必要があります。この場合、夫の財産2分の1を妻に贈与したことになるので、贈与税の対象になります。
夫婦財産契約は、民法上財産の帰属を定めるもので、税法の扱いには及ばないので注意が必要です。
■夫婦財産契約はあまり使われていない
夫婦財産契約は、一般的に知られていないこと、仮に知っていても婚姻前に契約をしなければならない、登記が必要、婚姻後に変更ができないなど、使い勝手が悪いことから、あまり利用されていないのが現状です。
また、日本人は一般的に「お金」について話題にすることを避ける傾向にあり、ましてや「夫婦間でお金について契約するなんて考えられない!」という発想になるのかもしれません。そこで、オススメするのは婚姻契約です。
婚姻契約のススメ
夫婦財産契約は法律によって定められたもので、どちらかというと、将来の夫婦間の財産上のトラブルや離婚の際の財産分与の争いを未然に防ぐという色彩が強くなりがちです。
一方、婚姻契約は、夫婦間の財産関係に限らず、日常の家事・子育ての分担、子供の教育方法、日常の生活に関する決まりなど、夫婦間の約束事全般について取り決めを行います。
例えば、
■日常の生活費の分担は、収入に応じて公平に分担する
■お小遣いの金額は、夫婦同額とする
■毎年100万円貯蓄するように夫婦が協力する
■子どもが生まれても、妻が働き続けることを夫が認め、それに協力する
■日常の家事は、夫婦共働きの間は、公平に分担する
■夫婦の結婚記念日には、必ず外食をする
■結婚10周年には海外旅行に家族で行く
■浮気は絶対にしない
……などなど
「婚姻契約」は、法律に定められた契約ではないので、契約に盛り込む内容は、公序良俗に反しない限り、夫婦間で自由に決めることができます。また、結婚後もいつでも自由に変更することができます。夫婦財産契約のように将来のトラブル発生を未然に防ぐという観点ではなく、2人の結婚生活をより良く幸せにするための決まりごとを明文化することに意味があります。
「契約」と聞くと、「なんだか堅苦しい」と感られる人は、「結婚生活の〇ヶ条」のように、夫婦間のルールを作るのも良いかもしれません。
結婚する前のお付き合いしているラブラブの時は、2人の大きな夢や将来について目が行き、日常の夫婦間の生活については見落としがちです。良好な夫婦関係を築く上でも、お互いに思っていること、希望していることを相手に伝えることが大切です。面とう向かってなかなか口に出して言えないからこそ、紙に書いて相手に伝える方法もアリではないかと思うのです。