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フランス大統領選と極右の台頭

フランス大統領選は極右政党が健闘する異常事態、関心をもたれた方も多かったと思います。フランスの大統領制から、極右台頭の背景まで、周辺の基礎知識を分かりやすく解説してみました。

執筆者:辻 雅之


(2002.5.7)

1ページ目 【フランスの独特な大統領制】
2ページ目 【社会党の後退と極右の躍進、フランス政治事情】
3ページ目 【西ヨーロッパを覆う右翼政党の台頭】

【フランスの独特な大統領制】
めちゃくちゃ強い権限もつのに、時々なにもできなくなる?


フランスはアメリカと同様大統領制の国です。西ヨーロッパで大統領制というのは実はめずらしい部類。ドイツやイタリアには大統領がいることはいますが、実際は日本と同じように首相が権力を握る議院内閣制。大統領が国のリーダー、というのは西ヨーロッパではフランスとポルトガルくらいしかありません。

大統領制になるまではフランスも議院内閣制でした。しかしたくさんの政党が争う多党制で政治はたえず不安定な状況におかれました。戦後の議院内閣制時代、(1946~58、第4共和制ともいう)フランスの内閣は21回も交代していました。

こうした政治の不安定さ、リーダーシップの不在に対し危機感をいだいた「大戦の英雄」ドゴールは、1958年首相につくと、すぐさま新憲法を制定、大統領制を導入して翌年みずから大統領につきました。これが今の政治体制、「第5共和制」のはじまりです。

フランスの大統領は国民から直接選出され(ただし1962年から)、任期は5年(2002年から)。首相の任命、下院の解散、国民投票の実施をほぼ一方的に行える権限を持つほか、まだ1回しか実施されてませんが人権を一方的に制約できる「非常事態権限」という強力な権限を行使することすらできます。

これに対して議会の権限は弱められています。議会が「法律で決めていいもの」ですら憲法で制約されています。議事の進行も政府サイドで決定することができます。しかも議会側が「歳入を減らす/歳出を増やす」ような提案や修正案をすることすらできないとされています。もちろん、議会が大統領を解任したりすることはできません。

 

しかし、このような制度においても、フランスの大統領はときに無力で、象徴的な存在になってしまうこともしばしばありました。

大統領は首相を任命し、行政の細かなことをまかせることになっています。首相は日本と同じく議会(国会)に責任を持ち、議会から不信任されれば辞めなければなりません。

大統領の所属政党が議会でも多数を占めている場合、大統領が自分の側近やナンバー2を首相に任命すれば、大統領の強力な権限も相まって、自分の思う通りの政治をすることができるでしょう。

しかし、大統領の所属政党が議会で少数派になってしまったら・・・・大統領派の首相はいつでも不信任される可能性を持つことになり、政局は不安定化することは確実です。

そこでそういう場合、大統領は議会で多数を占める政党のリーダー(大統領の反対党)を首相に任命し、自分は「外交と防衛」に専念して内政をまかせちゃう、ということがたびたび行われてきたのです。これを「コアビタシオン」といいます。

憲法には法律案の拒否権などは「首相の同意が必要」とされているため、コアビタシオンのもとでは大統領の権限は一気に縮小してしまいます(アメリカでは大統領が一方的に法律案を拒否できる)。

強いときはなんでもできる、弱いときはなんにもできない。フランスの大統領制はこういう点で非常にユニークなものと言えるでしょう。



次のページでは、今回のフランス大統領選の結果を読みとくヒントになるフランスの政治事情について、もう少し詳しく説明してみましょう。
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