
kizik「Men's Athens 2 Naval Academy」2万4200円(税込)。サイズは25.5~33cm、カラーは9色。筆者が愛用しているのは、このモデルの色違い(Willow Bough)です。同じデザインの女性用もあります
そんなハンズフリーシューズの専門ブランドがアメリカからやってきました。Kizik(キジック)というそのブランドは、扱っている靴のラインアップ全てがハンズフリーシューズなのです。メンズもレディースも子ども用も、デザインもさまざまにそろっていて、全てがハンズフリーシューズというのは、かなり珍しいのではないでしょうか。
面白いのは、そのハンズフリーを実現する構造です。例えば、ハンズフリーシューズでよく知られているスケッチャーズのスリップ・インズは、その名前の通り、足先から靴の中に滑りこませると、かかとが靴べらのような形状になっていて、そのままスルリと足が靴の中に収まる構造。他のハンズフリーシューズもほとんどが同様の構造なのですが、Kizikの靴は、足先を靴に差し込み、そのままかかと部分を踏みつけて、足を靴の中に収めると、一度潰れたかかと部分が、立ち上がるという構造になっているのです。
一度装着したら、あとは調整の必要がない靴を目指して
これは、実際に体験しないと分かりにくいのですが、踏みつけたかかと部分が、ポコッともとの形に戻って、足先からかかとまで、ぴったりと足にフィットします。「Kizikは、創業者が身をかがめて靴を調整したり、ひもを結んだりするのがイライラすると感じたことから生まれました。彼は快適さと耐久性を損なうことなく、靴を履きやすくするということに使命を感じて、このブランドを始めようと考えたのです」と、アメリカはユタ州にあるKizikのオフィスへの取材に対して、チーフ・イノベーション・オフィサーのクレイグ・シェニーさんが、ブランドの始まりについて答えてくれました。その際、創業者は靴自体に大きなカテゴリ・シフトが起こってこなかったことにも気が付いたそうです。
その考えから生まれたのが、「一度装着したら、調整の必要がない靴」としてのKizikの靴の構造です。実際、かかとを踏みつぶして履けるのならば、足の甲の部分に余分な余裕を持たせることなくぴったりとフィットさせるように、ひもを結んだ状態のままで脱ぎ履きができます。 「かかと部分が可動するため、足をスライドするだけで、レース部分の下にぴたりと入れられるようになりました。そして、ヒールの形状は、消費者が慣れ親しんでいる従来の靴と同じように、靴の木型にフィットするように設計されています」とクレイグさんが解説してくれました。
かかと部分を踏みながら足を無造作に入れると、踏んだ部分が瞬時に元の位置に戻り、かかとをしっかりと固定します。この可動するかかと部分は、従来の靴と同じように、足にフィットするように作られているということでしたが、なぜ、それが可能になったのかは教えてはもらえませんでした。ただ、靴のデザインによって、最適な構造でかかとの可動部分を設計しているということでしたので、かかと部分の動き自体はどの靴でも同じでも、それをどのように実現するかは、靴の形状に合わせて変えているようです。
デザインを邪魔しないかかとの機構は、耐久性も十分

筆者も愛用している「Men's Athens 2」のかかと部分。樹脂製のスプリングがむき出しになっていて、それがデザインにもなっている人気モデル。スプリングの構造が、押す方には反発力が強く働き、引っ張る方には反発力が弱い「コイルドウェーブスプリング」に近い構造になっているのが面白い
これはつまり、機構に合わせてデザインするのではなく、デザインに合わせて機構を設計し直しているわけで、靴というアイテムが、便利であれば済むというものではない、デザイン性が重要なアイテムであることを忘れずに製品を作っているということなのでしょう。クレイグさんによると、このかかとを踏んで履くという方法の靴を、全てのスタイルで作ることができると答えてくれました。 スリップ・イン構造のハンズフリーシューズだと、靴ベラ型でかかと部分が通常の靴と比べて、どうしても高くなってしまうのですが、かかとを踏みつぶして履くKizikならば、そこにデザイン上の制約はありません。履きやすさや構造のユニークさよりも、この構造の魅力は、そのデザインの自由度の高さなのかもしれません。
しかし、かかとを踏みつぶして履くという構造だと、その耐久性が気にかかるところです。筆者も履き始めてまだ2カ月程度なので、かかとがへたる兆候は全くありませんが、メーカーによると「靴自体よりも機構の方が長持ちすることを保証するために、10年使えることを基準にした耐久テストを行っています」とのこと。確かに、靴の寿命は10年もないので、耐久性にも問題はなさそうです。
また、この構造のおかげで、うっかりかかとを踏みつぶして、靴の形を崩してしまうといったこともないわけで、その意味でも耐久性の高い靴と言えるかもしれません。
新し過ぎて体験しないと、その快適さが分かりにくいのが弱点

かかとを踏んだ状態と、履いた状態を並べて見ると、その自然さが伝わるだろうか。体験しないと分かりにくいのが、Kizikの弱点かもしれません。写真は「Women's Brooklyn」1万8700円(税込)
確かに、しっかりとひもを結んで、足の甲にフィットさせた状態で、脱ぎ履きを繰り返しても、フィット感が全く損なわれないのは、ほかで体験できないものでした。
また、このかかとを踏んで履くというスタイルは、子どもにもなじみやすいものだと感じます(筆者が子どもの頃、よくかかとを踏んで歩いては怒られていたことを思い出したりもしました)。つまり、「靴を履く」という動作の、とても楽なスタイルの1つが、このかかとを踏みつぶして履くという動作だと思うのです。それを実現するバネの構造の1つが、以前紹介した「スマートキーリング」のコイルドウェーブスプリングに似ているのも面白いと思いました。
ハンズフリーシューズは、今後ますますその市場を広げていくと思われます。そのくらい、かがまずに履けるというのは楽だし、移動がスムーズになります。特に子どもや、筆者のような高齢者には必須の機能だと思うのです。それを実現するソリューションは、おそらくいくつも登場すると思いますが、その中でも、Kizikが提示したスタイルは、かなりよい物ではないかと思うのです。ともあれ、ぜひ一度試してみてください。あまりに従来にない機構だけに、自分で履いてみないと分かりにくいのが、一番の弱点なのです。
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