ゼブラ「ブレン4+S」1100円(税込)。軸色は写真のボール径0.7mmが左から黒、ブルーグレー、ミントグリーン、シェルピンク、白、ボール径0.5mmは黒、パウダーブルー、ココアブラウン、グレージュ、白。インクはエマルジョンインク(油中水滴型)、インク色は黒、赤、青、緑。シャープペンシルは0.5mm
今では、三菱鉛筆の「ジェットストリーム」や、パイロットの「アクロボール」などと並ぶ、普段使いのボールペンの代表的なブランドになっています。 「どうしても、『筆記時のブレを抑えるペン』というイメージが先行しているブレンですが、元々、そういうアイデアがあったとか、そういうお客様の声があったというわけではなくて、本当に新しいボールペンを作ろうというのが、プロジェクトの最初だったんです」と、ゼブラのプロダクト&マーケティング本部の瀬川美帆さん。
新しいボールペンを考えるにあたって、自社他社問わずたくさんのボールペンを書き比べていた中で、市販のボールペンの筆記時のガタつきが気になってきたのだそうです。
そこで、手作りで先端を固定したモデルを作って、さらにノック部分あたりもテープで押さえて、といったことを試すと、確かに書き味が変わることを確認。そこから、ガタつきを抑える機構が出来上がっていきました。
ストレスフリーの書き心地は、筆記時のガタつきを抑えるだけでは実現できない
「元々、新しいボールペンの価値を提供する製品として開発していて、その中で、ブレないことを含め、“ストレスフリーな書き心地”というコンセプトが生まれました。なので、握りやすさや重心位置、デザインも含めて『ブレン』なんです。“ストレスフリーな書き心地”というコンセプトから新しいペンを作るにあたって、見た目やブランドの印象も全く新しいものとして定着させたいという意図もあり、nendoさんとのコラボや、軸の色なども、一般的な事務用とは違うことが見た目からも分かるものにしたいという考えがありました。ブランドとして、ラインアップ全体の統一感も出せるようにと考えています」と瀬川さん。
現在のボールペンの軸色は、その多くがペールトーンや白軸などが主流ですが、ブレンはかなり早くから、そういった色やクリップの位置などを採用していました。ノック音の軽減、低重心なども含め、最初から、まるで現在のスタンダードを先取りしたようなペンだったのです。
面白いのは、それらが、未来を先取りしようとしたからではなく、「ストレスフリーな書き心地」というコンセプトの実現から生まれたということです。
4色ボールペン+シャープペンシルの「ブレン4+S」登場
2024年2月に発売された「ブレン4+S」も、そのコンセプトは変わらず「ストレスフリーな書き味」です。単色のペンには単色なりの、3色ボールペンには3色ペンなりの「ストレスフリー」があるように、4色+シャープペンシルという多機能ペンにも、それ相当の「ストレスフリー」があります。「ブレンのシームレスな見た目は踏襲しつつ利便性を向上するにあたって、多機能ペンでもとにかくできるだけ細くしたいというのはありました。ただ、ブレンの多機能ペンである以上、ブレンの独特なシルエットは守りたいわけです。つまり、ノックボタンとクリップ部分が一体化していて、他社のノックボタンが独立したものに比べて頭が大きいシルエットを守った上で、細く見せるというのは、かなり難しい課題でした」とデザインを担当したゼブラの研究本部開発部の山本佳那さん。
これはつまり、軸の中に細い部分を作るのは難しいということです。そこで、クリップの取り付け方、ノックボタンのサイズ、ガタつきを軽減するためのパーツやリフィルの配置、ノックによってそれぞれのリフィルが干渉しないスムーズな芯の出し入れの実現など、設計やデザインのスタッフと試行錯誤を重ねる必要があったと言います。
課題は、軸を細くしながら、多くのパーツを軸に収めること
このように、グリップ部分は円形だが、上部にいくに従って軸は楕円になっていくのが「ブレン」のデザインの特徴。多機能ペンでも、この特徴を守るため、ノックボタン部分は軸の厚さがさらに薄く、そこに多くのパーツが組み込まれた構造になっている
実際に見てもらうと分かると思いますが、軸の厚みはかなり薄くなっています。外から見ると分かりにくいのですが、ブレンの軸の特徴の1つとして、尻軸に行くにしたがってだんだん円から楕円になっていくんです。
しかも、楕円になった部分はパーツも多いので、軸の厚みが極端に薄くなっているんです。この極限のところをどこに持っていくかというのは、デザインと設計でよく話し合って作りました」と、開発を担当したゼブラの研究本部開発部の細木真百合さん。
設計の細木さんと、デザインを担当している山本さんは、日ごろから一緒に業務に取り組んではいるものの、今回は、より一層連携を強めて、ほとんど一緒に作業を進めていったのだそう。
中に全部のパーツが収まるか、どのくらい肉厚を薄くできるか、消しゴムは入れられるか、リフィルはお互い干渉せずに動くか、ノックボタンの長さや大きさはなどなど、とにかく試作を繰り返して、実際に入るか、動くか、といったことは、設計とデザインをそろえて作っていく必要があります。 実際、使ってみると分かりますが、この設計だからこういうデザインになっている、このデザインはこの設計の上で実現しているという部分があちこちに見られます。
分かりやすいのは、天冠の消しゴムのキャップ部分でしょう。外して中を見ると、楕円の中に円形のキャップが組み込まれている上に、ノックボタンが上にはみ出している分の切れ込みが入っているのも分かります。
「ブレン」のブランドを崩さずにオールインワンの筆記具を実現
「やはり、『ブレン4+S』という製品は、オールインワンで完結する筆記具でありたいということもあり、消しゴムは必須だと考えていました。また、シャープペンシルのノック部分でもあるクリップを、同時にバインダークリップにしたいというのも、オールインワンでありたいという考えから実現しました」と瀬川さん。「このバインダークリップをノックボタンとシームレスに見えるように一体化させるのも、かなり難しかったんです」と山本さんと細木さんは口をそろえます。
隙間やバネ、穴などの、内部的な部分を全く見せないというのも、「ブレン」というブランドの重要な部分です。それを、4色+シャープペンシルという多機能にバインダークリップまで付けても守るというのは、相当な難しさだっただろうと思います。 しかも、ノックボタンには、芯を戻すときの音を抑えるためのエラストマーパーツが入っていて、そのパーツがそのままノックの指が掛かる部分になっている、といった工夫もあります。
また、低重心を実現するための金属パーツが、グリップ部分全体に、3つのパーツに分かれて搭載されています。低重心といっても、ただペン先を重くするのではなく、手に収まる部分からペン先までを金属にして、重心を手の中に収めるようにすることで実現しているのです。
ただでさえペンの後ろが重くなりがちな多機能ペンですから、なるべく全体が軽く感じられるような重心バランスだと、書きやすく、扱いやすいのです。そういう点でも「ストレスフリー」を考えた構造になっているわけです。
筆者が使っていて感じたのは、ノックボタンの指に当たる部分が、大きめのエラストマー製のボタンになっていることで、芯の出し入れがとても気持ちよく、楽に行えるということです。また、ノックのストロークが少し短くなっているのも気に入っています。
これだけ詰め込んで、従来のブレンシリーズと比べて本体の長さがほとんど変っていないということにも感心します。山本さんによると「本体を少しでも細い印象にするため、わずかに全長を長くした」ということでしたが、よく実現できたものだと思いました。 もちろん、ガタつきも抑えられているし、何より、持ったときのバランスがとても良いので、現在、取材用には、この「ブレン4+S」を1本を携帯しています。デザインと機能と使い勝手が、見事に融合していて、使っていて気持ちがいいのです。