三菱鉛筆「ユニボール ワン P」550円(税込)。写真左から、みかん、コーヒー、ソーダ、もも、はっか(以上、ボール径0.38mm)、バナナ、ヨーグルト、ぶどう(以上、ボール径0.5mm)。インク色は黒のみだが、ユニボールワンとリフィルが共通しているので、好きな色の芯を入れて使うことも可能。
「ころんとした丸っこいペンは売れない」という定説
しかし、日本の長い筆記具の歴史の中で、実は軸が「短くて太い筆記具」にヒット商品はほとんどありませんでした。唯一の例外ともいえるのが、パイロットの「ドクターグリップ」シリーズで、その握りやすく疲れにくいグリップは根強い人気があります。 一方で、海外で圧倒的に人気があるトンボ鉛筆の「ZOOM808」や、LAMYの「スクリブル」などの極端に太軸で長さも短めの、ころんとした形のペンは、筆者のような一部の太軸好きに愛されながら、製品としてはヒットすることがありませんでした。某輸入文具店のスタッフも「短くて太いペンはカッコいいと思うんだけど全然売れない」と言っていました。・発売直後から大人気! 「太くて短いペン」の不思議 ところが、この「ユニボール ワン P」は、そのころんとしたデザインがユニークだと、発売直後から大人気になっています。しかし、これまで短くて太い軸のペンは売れないという常識は根強くあったわけで、この大ヒットは、うれしい反面、不思議でもあり、また、どういう経緯で、このペンが生まれたのか興味が湧きました。
小さな手帳やバッグに合うサイズのペンを
「今の三菱鉛筆のペンを買ってくださるユーザーには、小さな手帳を使っていたり、小さなバッグを使っている方がとても多いということが調査で分かってきたところから、この企画は生まれました」と、「ユニボール ワン P」の開発を担当した三菱鉛筆 商品開発部の有竹奈緒さん。最近の、M5のシステム手帳の流行や、小型のメモ帳などと合わせた時に、長さがそろう筆記具が欲しいという声もあり、小さくて太いペンを考えてみようということになったのだそうです。
「これまでも、手帳用のボールペンなどには軸が短いものはありましたが、それらは、細くて短いものでした。それはそれで需要も人気もあったのですが、ユニボール ワンのシリーズで商品化することを考えると、書きやすさや握りやすさを追求したいと思いました。細い軸は手をギュッと握る形になるので、どうしても必要以上の力が入ってしまいます。疲れやすくなり、長時間の筆記には向かなくなってしまいます」と有竹さん。
そこで、短くても握りやすくて書きやすい軸の太さを探っていく中で、この製品の形状に至ったということでした。
実際、太い軸は、あまり力を入れずにホールドできるので、必要以上に筆圧もかからず、軽い力で書けるのです。製品へのフィードバックでも、疲れにくいという声が聞かれたそうです。
・手に馴染む最適な太さを追求 「ユニボール ワン P」と「ユニボール ワン F」を比べてみると、長さはもちろん、太さもかなり違います。約1.5倍くらいPの方が太いのです。短いので見た感じはさらに太く感じます。
「手に馴染む太さがどのくらいなのか、多くの方に実際に握っていただき、さまざまな太さや長さのパターンをかなりの数、試作しました。いろいろな手の大きさの方にも協力していただいて、最適なサイズを導き出していきました」と有竹さん。
書きやすさと上質感の「ユニボール ワン」ブランドに癒しを加える
「ユニボール ワンというブランド全体として、書きやすさと上質感を追求しています。なので、単にころんとした形だけではなく、書きやすさを追求した重心の位置とか、雑貨感のある上質さなどが重要だと考えて開発しています。ただ、『ユニボール ワン F』は、筆記具としての上質感がスタイリッシュな方向に行っていたので、新しいラインナップとしては、“癒やし”も感じる製品にしたいという思いはありました」と有竹さん。実際、M5手帳にぴったりの長さも、書きやすさや握りやすさを考えての長さを設定していったら、偶然、ちょうどいい長さになったのだと言います。また、「ユニボール ワン」「ユニボール ワン F」「ユニボール ワン P」は、全てリフィルに互換性があります。これも、当初から構想していたのだそうです。
・色違いの軸の上下を入れ替えてバイカラーにしても楽しい 「自分が好きな時に、好きなボディーに変えて使ってもらいたいと思いました。『ユニボール ワン』は、いろいろなカラーがあるので、お客様がシーンに合わせて、『今日はFの軸を使おうかな』『今日はPがいいかな』と使い分けてもらえるとうれしいです」と有竹さん。
「ユニボール ワン F」でも、軸の上下を、他の色の軸と入れ替えてツートンにして使うのが流行っていますが、「P」でも、同じようなことができます。販売実績の無い、短くて太い軸の製品なのに、最初から8色のカラーバリエーションがあるのも、そういうユーザーの要望に応えるためでもあるのでしょう。実際に、550円(税込)という、ボールペンとしては決してお手頃な価格ではないのにもかかわらず、2本や4本など複数の色を買っていく人も多いのだそう。 また、価格的にプチギフトという使い方にも向いています。雑貨のようなかわいらしいイメージもあるので、ちょっとしたお土産やプレゼントにも。文具というより、もう少し遊び心があって、しかし実用的という感じで使えるのです。
軸色は、キャンディーの色をモチーフにした8色展開。ヨーグルトが一番人気で、次いではっかとソーダだそうです。ただ、不人気色というのも無いそうで、「全体によく売れていて、その中でヨーグルトなどが突出して売れている」という状況だそうです。ちなみに、有竹さんはソーダ、デザイナーははっかがお気に入りだそうです。
筆記具としての完成度の高さにも注目
細かく見ていくと、単に太くて短い軸のペンというだけの製品ではないことが分かります。例えば、クリップもデザインこそ「ユニボール ワン」や「ユニボール ワン F」と同じですが、丸っこい軸に合わせて、クリップ自体の幅も広く、長さも短くなっています。また、短くて太いノック棒がいい味わいなのですが、棒の長さ自体は「F」と同じくらいなのです。つまり、バランスで短くかわいらしく見せながら、ノックのしやすさなどは損なわないようになっているのです。 ほかにも良くできているのは、リフィルの交換のしやすさです。ノック式のボールペンながら、リフィルの交換時にバネが露出しないのは、「ユニボール ワン F」と同じで、それだけでも交換が楽なのですが、さらに、軸が太いのにリフィルが真ん中にスムーズに差し込めるように軸の内側が作られているのです。リフィルに合わせて、軸を変えたり、上下を別の色に変えたりと、リフィルを入れ替える作業も考慮されたペンならではの工夫だと言えるでしょう。こういう、ユーザーに寄り添った設計も、このシリーズの上質感につながっているのだと思います。