デリケートな親の「生前整理」。何から始めればいい?
老後準備、年金問題などとあわせて生前整理、なかでも「実家の片付け」に関心が集まっています。書籍『50代からの 自宅の片づけ 実家の片づけ』を監修した節約アドバイザー・家事アドバイザーの矢野きくのさんに、「実家の片付け」を行う際の注意点・心構えをお聞きしました。
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「実家の片付け」は、必要性を感じないとなかなか実行に移すのは難しいのですが……
その中の一つが「実家の片付け(生前整理)」です。ここ数年はメディアの特集でも度々見かけるテーマとなってきました。昔は「実家の片付け」が話題になることはなかったのに、なぜここ数年で話題になっているのか考えてみますと、一つは、豊かではなかった昔に比べ、高度経済成長期やバブル期などを経た世代は、所有している物が圧倒的に多いこと。そして以前なら同居している子世代が日頃から片付けることができていた物も、現在は核家族化が進み実家から離れてしまい、片付けられなくなっていることも原因の一つと考えられるのではないでしょうか。
なぜ実家の片付けが必要なのか
実家の片付けの必要性を感じないと、なかなか実行に移すのは難しいと思いますので、まずは、なぜ実家の片付けが必要なのかを考えてみます。▼安全な住環境にする
高齢になると思わぬところで怪我をしてしまうことがあります。家の中に物が溢れていると、つまずいたりと事故の確率は高くなるので、整理整頓する必要があるのです。床に物を置かない、高い位置にある収納に物を入れないなどの対策が必要です。収納に余裕をもたせるためにも持ち物全体の量を減らすことも必要になってきます。
▼本人以外でも「大切な物」が分かるようにしておく
「遺品整理」という言葉がありますが、そのときは突然やってきます。いざ整理しようと思っても、故人にとって何が大切な物だったのか、残したい物なのかは他の人には分からないものです。また近くに住んでいればよいですが、実家が遠くにある場合は遺品整理に時間をかけられない可能性もでてきます。
突然やってきて慌てて手探りでやるよりも、事前に時間をかけて持ち物を整理しておくほうが故人の遺志を大切にすることができます。
生前整理・実家の片付けが難しい理由
実家の片付けというテーマについて、多くの人が関心を持っている要因として、実家の片付けそれ自体の難しさがあるかもしれません。具体的に以下の2つの難しさがあるのではないでしょうか。▼実家と物理的に距離がある
親世帯との同居や近くに住んでいる場合はよいのですが、緊急性がないと思われがちな実家の片付けは遠方に住んでいるとなかなか足が向かないものです。人によっては数年かけて実家の片づけをしているというケースも見られます。
▼親に「終活」をさせることになる
これが一番ナイーブな問題です。親の荷物を整理する「実家の片付け」は、親の「終活」をすすめていると取られる場合が多いからです。自主的に終活をしている人であれば受け入れやすいかもしれませんが、全く考えていない人にとっては、子に終活をすすめられるというのは気持ちがいいことではないでしょう。
たとえ親子であっても、細心の注意を払い言葉を選び、親と話し合いをしながら進める必要があります。
「生前整理」は不要な物を処分し、必要な物だけでスッキリと暮らせる環境を作ることであり、前述のとおり安全に暮らすためでもあります。その点をよく説明してすすめていくと良いのではないでしょうか。
実家の片付けで整理したい物は? どんな順番で進める?
実際に実家の片付けに取り掛かる場合、何から手をつけていくかでも状況は変わってきます。▼自分の物が残っていればそこから手をつける
実家を離れて住んでいる場合、自分の物がまだ実家に残っているということが多くあります。まずは、自分の物から整理をはじめましょう。自分の物から手をつけていることによって、「終活」というイメージではなく、家を整理整頓しているというイメージが強くなりますし、何よりも自分の物なので気兼ねなく整理することができます。
▼危険と思われる物を処分していく
収納以外の場所にあふれている物があれば、「転んだりしたら危ないから」と説明することによって手をつけやすくなります。
▼ためこんでいる明らかに不要な物
包装紙や紙袋、文具類などは、「こんなに要らないよね」と言えば納得してもらいやすい
▼衣類・靴・カバン類も処分を進める
衣類や靴、カバンなども人によっては長年捨てずにとっている場合があります。1~2年使っていない物は処分する方向で話を進めていくと多くの物を片付けることができるはずです。
▼部屋・コーナーごとに仕分けする
前述の衣類などはある程度まとまった場所にあるので、手をつけやすいのですが、これ以降は部屋ごと、キッチン、押し入れ、仕事机などコーナーごとに整理をしていくとやりやすくなります。
大きなダンボールを2つ用意し、処分する物と残す物に分けていきます。親御さんと一緒に作業をすすめ判断してもらうと、あとでもめるのを避けられるでしょう。ただし「どれも必要」と言われる場合もあるので、ある程度の判断基準はもっておくことをおすすめします。
処分しなくていい物は? 趣味の部分は残してあげるほうが良い場合も
本が好きな人、着物をたくさん持っている人など、人によって趣味は様々です。それらを無理に処分するというのは、生き甲斐をうばってしまう可能性もあるので、残しても良いのではないでしょうか。ただし趣味の物であれば、莫大な量があるかもしれません。またその中に高額な価値がある物が入っている場合もあります。そのため、趣味の物は親御さんに重要度によって3段階くらいに分けてもらい、グループ分けした物を収納しなおす程度に留めておくといいでしょう。重要度が分かれば、のちに処分するときに失敗を避けられます。
忘れがちだけれど……「情報の整理」も必要
実家の片付け(生前整理)では、物の整理だけでなく、情報の整理も重要になってきます。これは親御さん世代だけではなく、どの世代の人も整理しておくといざというときに残された人が困らないですみます。具体的には――
・預貯金・証券など
・クレジットカード
・交友関係リスト(いざというときに連絡をしてほしい人リスト)
・お稽古ごとをはじめとするサブスクリプション契約
とくにインターネットが普及している現在、契約書などがなくパソコンや携帯電話の中でしか確認できない契約を結んでいる場合があります。これらもリストにしておくと、いざというときに役立ちます。
実家の片付け(生前整理)は簡単ではありません。だからこそ、時間があるうちから、気持ちに余裕をもってすすめていくことをおすすめします。
所有している物の量、そして物への思い入れは、人によって大きな差があります。今回ご紹介した内容を参考に、少しずつでもはじめてみてはいかがでしょうか。
教えてくれたのは……
矢野きくのさん
家事アドバイザー、節約アドバイザー。女性専門のキャリアコンサルタントを経て女性が働くためには家事からの改革が必要と考えて現職に。家事の効率化、家庭の省エネを中心にテレビ、雑誌、講演ほか企業サイトや新聞での連載。All Aboutの節約ガイド。