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今ならできるとは思うけれど……亡父の遺産を手にしても、離婚に踏み切れない理由

離婚に踏み切りたくても踏み切れない理由に、子どものことや経済的な要因を挙げる人がいます。今回は、そのうちの一つの要因がなくなり、離婚について改めて考えを巡らせている女性のお話。

あるじゃん 編集部

執筆者:あるじゃん 編集部

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お金のちょっとしたすれ違いは、ときには人を悩ませ、ときには縁の切れ目にも……。

内閣府男女共同参画局の「男女間における暴力に関する調査(平成29年度調査)」によると、結婚したことのある2,485人のうち650人(26.2%)が、“身体的暴行”“心理的攻撃”“経済的圧迫”“性的強要”の4つの行為について、配偶者から被害を受けたことがあると回答したといいます。

また、配偶者から何らかの被害を受けたとき、相手と「別れたい(別れよう)と思ったが、別れなかった」という人は238人。その理由については「子どもがいる(妊娠した)から、子どものことを考えたから」が 65.5%と最も多く、次いで「経済的な不安があったから」が 42.4%などとなっており、離婚に踏み切れない大きな要因が浮かび上がってきます。

今回は、この2つのうち経済的な要因がほぼ解消されたけれど、離婚を迷っている女性のお話。男女の人間関係に関する著書も多いフリーライター、亀山早苗さんがお届けします――。

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通帳

経済的理由で離婚を踏みとどまってきたが……

世の中、経済的なDVを受けている女性は意外といるようだ。以前、生活費5万円しか渡されない女性のことを書いたとき、「私もそうです」というメールを数通いただいた。実家や親戚から借金をしたり、米や野菜を送ってもらったり、独身時代の貯金を切り崩している女性も少なくない。いずれも「子どものために」、今、離婚するのは躊躇しているという。

そんなとき、親の遺産が転がり込んできたら……。

 

再婚同士、思いやりを持って生活したかったのに

10年前、4歳の男の子を連れて再婚したユリカさん(46歳)。再婚相手は3歳年上、やはりバツイチで6歳の女の子がいた。再婚して2年後に女の子が産まれ、ユリカさんは当然のように仕事を続けようとしたが夫の懇願に負けて退職。

「再婚するまでに1年以上、じっくりつきあったつもりでした。うちの子も彼に懐いていたし、彼の子も私と相性は悪くなかった。お互いに、常に相手の立場になって行動しようと約束して、覚悟を決めて結婚したつもりです。ただ、子どもが生まれてから夫は変わりました。私に退職を迫ったのも意外だったんです。私が仕事を続けたいことを知っていたはずなので。でも次女には先天的に疾患があったし、結婚してから彼の子に発達障害があることもわかっていた。しばらくは子ども中心で暮らすしかないと、そのときは私も納得したんです」

夫は友人と立ち上げた会社を経営していたが、収入的にはかなり波があった。そのためにも安定した会社員だったユリカさんは仕事を続けていたかったのだ。だが結婚後数年は、夫の会社も景気がよかった。それで夫は「妙な自信を深めていたのではないか」とユリカさんは感じている。

「それまでは家賃は夫、光熱費は私、生活費は折半という形で家計をまかなってきたんですが、下の子が産まれて私が退職してからも夫は生活費の折半分、4万円しか渡してくれない。これじゃやっていけないと言ったら、2万円足してきたんですが、それで子ども3人と大人ふたりの日常生活すべてを捻出するのは無理。文句を言ったら、『きみの退職金だってあるだろ』と。しかも私が専業主婦になったのをいいことに、夫は子どものめんどうも見ようとしない。発達障害できむずかしい長女と、環境が変わって不安定な長男、そして生まれたばかりの次女を抱えて、毎日泣きたいくらい大変でした」

退職金を少しずつ切り崩しながらの生活が続いた。

 

借金の保証人を断って

結婚して3年たったころ、夫が借金をするから保証人になってほしいと言い出した。それだけはできないとユリカさんの脳内で警報が鳴ったという。

「実は父方の祖父が若いころ、借金の保証人になってひどい目にあったことがあり、父は私に『連帯保証人にだけはなるな』と言い続けていたんです。だから夫にもそれだけはできない、と。すると夫は生活費は出せないと言い出しました。それから夫は週の半分くらいは帰ってこなくなったんです」

長女と長男は学校に上がっていたので、ユリカさんは末っ子を預けて働き始めた。幸い、彼女はある資格をもっているので、なんとか仕事に就くことはできた。とはいえ非正規で収入は決して高くない。

「子どもたちを食べさせるためだけにがんばったんです。夫は家賃だけは払っていましたが、光熱費も払わなくなったようで、ある日突然、電気が止まってびっくりしたこともありました。それからは光熱費も私が払うしかなくて」

夫は帰ってくると子どもたちには話しかけるが、ユリカさんとは目を合わせようとしなかった。夫婦の間で何かがおかしくなっているのに、そして話し合おうと声をかけているのに、夫は応じようとしなかった。

「さらに3年くらいたって、どうやら夫の会社は持ち直したみたいです。でも私にお金を渡してくれるわけでもない。あるとき夫の部屋の引き出しをこっそり見たら、長女と次女名義で貯金通帳があったんですが、長男、つまり私の連れ子の分だけはない。ショックでしたね。この分だと私の子の学費だけは出してもらえない可能性もある。夫がそんな差別をするとは思ってなかった……」

ユリカさんは、夫の子も自分の子と同じようにかわいがってきた。発達障害がわかってからはなお目をかけるようにしていた。それなのに……。

 

なかなか離婚を夫に告げられない理由

相変わらず、自分だけが子どものためにと必死で外で働き、帰ってくれば家事育児の日々。気づいたら40歳を越えていたが、自分のためには洋服1枚買っていなかった。

「去年の秋、父が急逝したんです。4年前に母が亡くなって、それから父はひとりで暮らしていました。もっとめんどうをみたかったけど、私は多忙でなかなか会いに行けなかった。父は私を心配してよくメッセージをくれました。それが途絶えて、そういえばと電話をしたけどつながらない。駆けつけようとしたら近所の人から電話があって、家の中で亡くなっていた、と。後悔しました。コロナ禍でお葬式も出せなかった。夫に言ったら、『悪いけど行けない』って。長男だけ連れてお別れをしてきました。そのとき、このままでは私は私でいられなくなる。そう思ったんです」

自分にも至らないところはあっただろう。夫から見れば長女への態度が、長男へのそれとは違うという思いもあったのかもしれない。だがそういうことは想定済みで、話し合いながら育てていこうと誓ったはずではなかったのか。

その後、ひとりっ子のユリカさんに数千万円の父の遺産が入った。夫には話していない。

「夫と離婚したい。できれば子どもを全員連れて。すでに正社員にもなっていますし、今ならひとりで子どもたちを連れて出ることができるような気がするんです」

子どもたちは16歳、14歳、8歳になった。ただ、なかなか離婚を夫に告げられないのは、夫が自分の子だけ連れて出て行けと言いそうだからだ。せめて下の子も連れていきたいと思うし、長男は長女を慮るやさしい子で、ふたりはとても仲がいい。だからやはり3人連れていきたい。ユリカさんの心は揺れる。遺産の数千万円で子どもたちを大学まで出してやれるかどうかも不安が残る。

「今年になって私、がんが発覚しました。早期発見だったからおおごとにはなっていませんが、治療をしながら仕事をしている状態。これも夫には言っていません。こんなに夫に言えないことばかりあるのに夫婦でいるのもヘンですよね」

いろいろなことが一気に降りかかってきて、正直、どうしたらいいかわからない。ユリカさんは不安そうな表情でそう訴えた。
 

教えてくれたのは……
亀山早苗

 


亀山 早苗さん

フリーライター。明治大学文学部演劇学専攻卒業。男女の人間模様を中心に20年以上にわたって取材を重ね、女性の生き方についての問題提起を続けている。恋愛や結婚・離婚、性の問題、貧困、ひきこもりなど幅広く執筆。趣味はくまモンの追っかけ、落語、講談、浪曲、歌舞伎、オペラなど古典芸能鑑賞。All About 恋愛ガイド。
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