四半世紀におよぶ伝統を持つ
カンパニーの秘蔵っ子
他のどのモデルよりもすらりと伸びたフロントフォーク、ショットガン型エキゾースト、チョップドスタイル、そしてホットロッドカスタムを表すフレイムス(炎)が描かれたフューエルタンク……。ハーレーダビッドソンのイメージソースをこれでもかと盛り込んだ渾身の一台、それがこのFXDWG ワイドグライドです。ハーレーのラインナップにワイドグライドという名が登場したのは今から35年前、1980年デビューのFXWGワイドグライドです。ちょうど1970年代初頭に登場し人気を博したFXモデル(現ダイナファミリーの前身)の流れを受け継ぐ一方、スポーティな走行性能を備えつつもチョッパーライクなスタイルを最大の魅力とするファクトリーカスタムモデルとして脚光を浴びました。一時期のカタログ落ちを経て復活、現在ハーレーダビッドソンの伝統を背負ったモデルとして君臨しています。
現行ラインナップにおけるカテゴリーはダイナ ファミリー。パワフルなビッグツインエンジンにスポーティな走行性能を兼ね備えた人気の高いカテゴリーで、今はカタログから消えていますが、同ファミリーを代表する人気モデルと言えばFXDL ダイナ・ローライダーが挙げられます。ほか、FXD スーパーグライドやFXDB ストリートボブなど、“小柄な日本人でも操れるスポーツクルーザー”がダイナ最大の魅力。しかしこのワイドグライドは、そんなダイナの本質を逸脱したところに魅力があるのです。
分かりやすく見るため、ワイドグライドとストリートボブの写真を重ねてみました。ご覧のとおり、エンジン/フレーム/その他ベーシックな部分は他のダイナモデルとまったく同じですが、ワイドグライドの全長はどれよりも長いのです。理由は、赤い丸をしたトップブリッジ(トリプルツリーとも)がワイドグライド専用の設計になっているから。フロントフォークおよびタイヤを前方に突き出すための仕様とされているのです。
なぜワイドグライドだけ特別仕様なのか、それは四半世紀におよぶワイドグライド本来の哲学がチョッパースタイルにあるから。“スポーティな走りが楽しめるビッグツイン”という基本理念を持つダイナにありながら、目指したのはロー&ロングの美しいスタイルを有するチョッパーフォルム。これにより、ホイールベース(前後ホイールの中心を直線で結んだ車体の長さ)は1,730mmと、以前紹介したFXSB ブレイクアウトよりも長いモデルラインナップ最長仕様とされています。
180mmという太いリアタイヤにフォワードコントロールというステップ位置など、走行性能を楽しむこととは真逆のスタイルを有するワイドグライド。大きな矛盾を内に秘めた希有なモデルなのですが、そうした相反する思想を「ハーレーダビッドソンとして、いかに融合させられるか」と、自らに課した命題に対してカンパニーが示した答えと言えるのかもしれません。
そして、このワイドグライドの本質は乗ってみてこそ理解できるものでもあるのです。それでは、次ページの実際に試乗してみた感想へと進みましょう。