その巨体と存在感は圧倒的!
どのモーターサイクルメーカーにも、その象徴としてのフラッグシップモデルと呼ばれるものが存在します。ハーレーダビッドソンで言えば、この『FLHTK TC ウルトラリミテッド』がそれ。日本では小柄な人向け&手が届きやすい価格ということもあり、『XL1200X フォーティーエイト』の人気が高いですが、このウルトラを抜きにして今のハーレーダビッドソンは語れません。モーターサイクルは軽ければ軽いほど取り回しやすいわけですが、このウルトラは車両重量が412kgというスーパーヘビー級。それもそのはず、ご覧いただければ分かるとおり、フロントに設置されたヤッコカウルにはスピード&タコメーターのほか、音楽やラジオが聴ける最新のインフォテインメントシステム「BOOM! BOX 6.5」が内蔵され、リアにはサドルバッグにツアーパックと、何日間でも旅ができてしまう豪華装備で固められています。
このウルトラは、アメリカという広大な大陸を走破できるようにと開発された大陸横断型モーターサイクル。今でも西海岸のロサンゼルスから東海岸のニューヨークまで陸路で行けば、クルマでさえ1週間近くを要します。それをモーターサイクルでこなそうと思えば、必然的にこれだけの装備が必要になってくるのです。
100年以上におよぶハーレーダビッドソンの歴史を支えるウルトラが、2013年に“禁断”とも言えるブラッシュアップを敢行。「ドッドッド!」という、いわゆる三拍子と形容される独特の鼓動を生み出していた空冷ツインカムエンジンに水冷機能を備えた『ツインクールド ツインカム103エンジン』へと進化したのです。
走り込むほどにエンジンは熱くなるわけですが、水冷機能は高い冷却効果を持ち合わせているので、長距離を走る人には朗報とも言える進化。しかし、そこは他メーカーと一線を画するハーレーダビッドソン。「水冷機能を加えれば、ハーレー本来の鼓動感が失われ、ハーレーがハーレーではなくなってしまうのでは?」と、多くのハーレーオーナーが懸念を抱いていました。
ハーレーダビッドソンのエンジン水冷化は何年も前から噂になっており、創業110周年を迎えた2013年、ついにそのプロジェクトが我々の前に姿を現したのです。カンパニーはその発表に先駆け、アメリカ・デンバーに世界中のモーターサイクルジャーナリストを集めての発表会&試乗会を実施しました。そこにお呼びいただいた際の感想をまとめたいと思います。
感じ取った老舗メーカーの意地
イベント取材を含め9日間滞在したうち、『ツインクールド ウルトラ』に試乗したのは2日間。距離にすると400マイル(約650km)以上というアメリカならではのロングライドを体験させていただいたのですが、その感想をひと言で表すとすれば、「ハーレーダビッドソンの意地を見せつけられた」です。これ、おべんちゃらでもなんでもなく、本心からそう思わされました。まずは、水冷機能が加わったことによるエンジンの放熱性。数年前、ウルトラの旧モデル(空冷エンジン)で東京~神戸間を往復したことがあるのですが、10月という比較的涼しくなりだした時期にもかかわらずエンジンの熱さはエゲつないレベルでした(笑)。今回、それに負けず劣らずの長距離を走ったにもかかわらず、終わってみたときに「あれ? “エンジン熱い!”って一度も思わなかったな」という感想が残ったほど。これは正常進化と言っていいメリットだと思います。
鼓動感については、以前と遜色なし……と言いたいところですが、アメリカで感じた印象をそのまま日本に当てはめることはできないのです。というのも、ハーレーダビッドソンの全モデルは、日本に輸入される際、セッティングが大幅に変えられているから。いわゆる排ガス規制における日本とアメリカの基準が違うためで、ハーレーのエンジン本来のパワーを引き出すセッティングのままだと、日本における設定に合わないのです。
言うなれば、1日ご飯を3食食べるところを2食に減らされているようなもの。「じゃあ日本でハーレー本来の乗り味は楽しめないの?」ということになってしまいますが、購入後にインジェクションのセッティングを調整してくれるチューナーに依頼すれば、私がアメリカで体感したそれと同じ鼓動感を味わうことができるでしょう。
どうしても最新型エンジンに注目が集まってしまう新型ウルトラですが、私がお伝えしたいポイントはコレ、フレーム剛性が大幅にアップ、そしてブレーキングシステムが向上したこと。以前のモデルと乗り比べれば明白で、明らかにハンドリングが軽快になっているのです。ストップ&ゴーが多い日本の都心部や大渋滞の際は、その重さに辟易させられるウルトラですが、低速域や高速域のいずれにおいても、間違いなくグレードアップしています。
これ、いわゆるカンパニーのアジア市場への販売展開の一環でもあるのです。小柄な人種にとって、重量級のウルトラは取り回しにくく、いくら魅力的でも楽しく乗れないのでは購買欲が湧きません。そこを解消するため、小柄な人でも扱いやすいようにとフレーム剛性アップ、そしてブレーキングシステムの大幅向上へとつながったのです。これは日本人にとって朗報とも言えるポイントだと思います。
オリジナルエンジンが生み出す独特の鼓動感こそハーレーのアイデンティティ。しかし、世界の潮流に合わせた進化に取り組まねばならない大企業としての使命感もある。このジレンマに対して企業全体が一丸となってプロジェクトに取り組み、そうして生み出された渾身の1台。ビジュアルや鼓動感を損ねることなく機能を大幅アップさせたカンパニーの「どうだ!」と言わんばかりのパッション。これには、ただただ感動させられるばかりでした。
新しいフラッグシップ ウルトラとともに再び歴史を紡ぎ出したハーレーダビッドソン。本来あるべき姿を見失わず、未来を見据えて新しいものを取り入れるその姿勢に、深い感銘を抱いたアメリカ取材でした。