総延長760mの回廊はまるでひとつの「歴史美術館」のよう
アンコール・ワットは、東南アジア地域で最大のヒンドゥー教の寺院で、3つの回廊を基本としています。この巨大な構造物に最初に入る「第一回廊」は、東西200m、南北180mの長方形の廻廊となっています。ラテライトによって作られた周壁には精緻なレリーフが全面にわたって施されており、回廊全体が絵巻物を築き上げています。
西面には、古代インドの叙事詩の『マハーバーラタ』や『ラーマーヤナ』の説話が、刻み込まれています。南側には、『マハーバーラタ』の中の一節、パーンタヴァ族とカウラヴァ族との戦闘の様子がリアルに描かれ、北側には『ラーマーヤナ』の物語が展開し、最後のクライマックスは、猿を伴ったラーマ王子と魔王ラーヴァナのランカー島での戦いが描かれています。
次の北面から東面の北側の壁には、ヒンドゥー教に関するエピソードがつながります。不老不死の妙薬「アムリタ」を争奪する神々や阿修羅、ヒンドゥー教の三大神ヴィシュヌ神の化身、クリシュナと怪物バーナの戦い、ヴィシュヌ神と阿修羅の戦闘などが、エキゾチックなヒンドゥー教の世界に誘い込みます。
そして、東面の南側には、アンコール・ワットの第一回廊を代表する「乳海攪拌」の図が現れます。迫力に満ち溢れたヒンドゥー教での天地創世神話には、永遠の生命を求める人間の切ない希望が見え隠れしています。
さらに、南面の東側に行くと、もう一つの代表作「天国と地獄」の図が登場します。3段に分かれる壁面の中央には、閻魔大王と裁きを待つ人々が並び、上段は天国、下段は地獄の様子が描出されています。地獄の世界には、舌抜き、火責め、針責め、ムチ打ちなどの様子が描写され、見ていると痛々しさがこみあげてきます。
最後の南面の西側は、「歴史回廊」と呼ばれており、アンコール・ワットを建造したスールヤヴァルマン2世や、王師、大臣、将軍、兵士などが行幸している姿が彫られています。
総延長760mの回廊は、歴史美術館を築き上げているようです。
■アンコールワット
住所:Angkor Archaeological Park, Siem Reap, Cambodia
営業時間:終日
定休日:年中無休
ホームページ:アンコールワット
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