the rules have been changed in the middle of the game
ゲームの途中でルールは変更されたのだ
the rules have been changed in the middle of the game 「ゲームの途中でルールは変更されたのだ」
年明けに「新年の抱負」をまとめる人も多いですよね?今年はジム通いを続けるぞ、とか、ダイエットするぞとか目標を立てることです。これは政治の世界も同じで、オバマ大統領が「今年の抱負」とでも言うべき「一般教書演説」を行いました。
今回はその中のワンフレーズで、“the rules have been changed in the middle of the game”というもの。「ルール(rule)」も「ゲーム(game)」もスポーツに関連する用語ですから、なんとなくイメージがつかめるのではないでしょうか?直訳するならば「ゲームの途中でルールが変更された」となりますが、世界経済に当てはめるならば、リーマンショック以前と以後では情勢がすっかり変わってしまったことを、直感に訴えかける表現をしています。
これを踏まえて、オバマ大統領は演説の中で、「規制よりも企業の競争力強化を狙う」、「国家の赤字の削減を目指す」、「雇用の拡大を目指す」を「今年の抱負」として掲げました。さあ、ここからが投資家にとって大事なところ。オバマ大統領のこの抱負は、市場にはどのように受け止められたでしょうか?株価は、上がった?下がった?
一般教書演説は25日の夜に発表されたので、その翌日、26日株価の動きを見てみましょう。日経平均のアメリカ版とでも言うべき「ダウジョーンズ指数」は8.25ポイントの上昇……と聞くと、「お、好評だったんだな」と思うかもしれませんが、上昇幅で考えると、わずか0.07%に過ぎません。11,977.19ポイントから11,985.44に上昇ですから、実際のところはほぼ値段が変わらず、ということで、オバマ大統領の演説は、市場関係者からはほとんど無視された、というのが実情です。
実は、昨年までのオバマ政権の経済政策は、金融を初めとした産業界に規制をかけて、二度とリーマンショックのような惨事が起こらないことを狙っていました。ところが、先ほども書いたとおり、「今年の抱負」演説の中で「規制よりも企業の競争力強化を狙う」ことを明確に謳っており、いわばこれまでのスタンスからの一大転換。いわば、「ルールが変わったから、プレースタイルも変えよう!」宣言です。ところが、せっかくのメッセージが市場関係者に無視されてしまったのはなぜ?
と言うのを解くカギが、「期待値」という考え方。実は、株価というのは演説の内容や新たなニュースをダイレクトに反映するものではありません。ポイントは、新たな情報が人々の持っている「期待値」をどの程度上回っているか、なのです。
今回のオバマ大統領の演説の場合、「規制から競争力へ」というのは事前に漏れ伝わって聞こえており、すでに市場関係者の期待値は高くなっていました。結果として、演説前から株価も上昇基調。事実、26日の前1週間ほど遡るとダウジョーンズ指数は160ポイント以上値上がりしています。そこにオバマ大統領の演説。多くの人が想像した内容を超えるものではなく、期待値を上回るインパクトがなかったので、株価に対する影響はほぼゼロ。だって、株価はもう期待値を織り込んで値上がりしてしまっているわけですからね。
今後も投資先のチェックにあたっては、「人々の期待値はなんだろう?」と考えて、その期待値 vs. 実際のニュースで考えるクセをつけておくと良いと思います。ただ、時には期待が大きく裏切られることもあることは、キモに銘じておきましょう。そう、まるで、「試合の途中でルールが変わる(the rules have been changed in the middle of the game)」かのように、過去の期待値がまったく通用しない変化が起こるのが、市場というものなのです。
この連載のバックボーンとなる考え方、「経済ダイヤモンドモデル」は、本文中に解説した期待値の形成にも使われています。市場関係者の頭の中にはこのモデルが入っていて、たとえば金利が下がった、という一つの情報を聞いた時、「これが株価に与える影響は…、物価に与える影響は…」と、連想ゲームのように先読みしているのです。