We’ve got a couple of air pockets
いくつかのエアポケットに落っこちちゃったみたいだ
We’ve got a couple of air pockets 「いくつかのエアポケットに落っこちちゃったみたいだ」
飛行機に乗った時、こんな経験ありませんか?それまで穏やかな飛行を続けていたのが、なんの前触れもなくキューッと急降下をして、胃がでんぐり返しをするような感覚におそわれる…。エアポケットと呼ばれる局地的な乱気流に巻き込まれた時に起こる現象ですが、まるで株価がエアポケットに陥ってしまったかのように急降下してしまった会社が今回のテーマ。それも、その会社のCEOの「たったひと言」がその引き金と言うのですから、恐ろしいではないですか。
その会社は、米国のハイテク企業、シスコシステムズ。トップのジョン・チェンバース氏は、アメリカでは知らない人がいないくらいの大物です。ところが、先日の決算発表でポロッと漏らした一言、“We’ve got a couple of air pockets”というのが大きな波紋を呼びます。もちろん、この場合は乱気流と言ってもビジネス上のそれ。シスコの大きな顧客である自治体やケーブルテレビの会社などが、設備投資にためらいを見せていることを指しています。ところが、これを聞いた投資家は、一斉にシスコの株を売りに走ります。その結果、株価はなんと17%も下落。グラフを見ると分かるのですが、本当に一瞬にして急降下で、まるで、株価がエアポケットにはまってしまったようなものです。
こんな話を聞くと、「その人って会社のトップとして大丈夫なの?」と能力に疑いを持つかもしれませんが、そんなことはありません。チェンバース氏は単に有名なだけでなく、実績もちゃんとあげているのです。移り変わりが激しいハイテク業界で15年以上にわたってトップ経営者を勤め、名実ともにシスコを世界有数の企業に育て上げました。実際に先日の決算発表の場でも、今年の8-10月期の業績は前年同期と比べて、売上で19%増、そして純利益に至っては、30%増!なのです。
「えっ、と言うことは、業績はよかったのに株価は大暴落しちゃったの?」
と不思議に思うかもしれませんが、まさにその通り。ここが株の面白いところで、株価というのは現時点での業績だけで決まるというものではありません。いや、むしろ、その会社の将来の成長性の方が、大きく株価を左右するぐらい。
つまりは、今は業績がたいしたことがなかったとしても、「将来はこんなにビッグになるぜ!」とバラ色の未来を語れるのであれば、株価はどんどん上がるものです。「市場が過熱している」とか、「株価が割高になっている」なんて表現を聞くこともあるかと思いますが、まさにそれ。株式市場において実力以上に評価されるというのは、よくあること。そう言われてみれば、日本でも「ネットバブル」なんて言われたころは、そんな会社がたくさんありました。
逆に言うと、たとえ今の業績がどんなによくても、将来の成長性に不安があるとそれだけで株価は下がってしまいます。今回紹介したシスコが陥った「エアポケット」は、投資家に夢を見せるのに失敗した、と言っても良いでしょう。
もちろん、投資家だってバカではないから、いつまでも夢を見ているわけではないんですけれどもね。経営者が語る「バラ色の未来」が、実際のところはほら話に近くてアテにならないと分かれば、株価は下落して落ち着くところに落ち着きます。でも、株価はその企業の実力以外のものでも決まっているところがあることは、投資家であれば肝に銘じておくべきでしょう。
この連載のバックボーンとなる考え方、「経済ダイヤモンドモデル」では、今回は株価にフォーカスがあてられました。個々の会社の株価が、その会社の実力だけでなく、どれだけ「バラ色の未来」を投資家に見せられることにあるかは本文で説明したとおりです。あわせて、金利や為替、そして物価という会社を取り巻く環境要因に大きく影響されることも理解しておきたいものです。