I've always been called a professional opportunist, and in the future I'm open to anything.
「ワシはプロの投機家だから、将来何をやるかはわからんゾ」
I've always been called a professional opportunist 「ワシはプロの投機家である」
今回は、「墓場のダンサー」という異名をとる投資家が登場です。その名は、サミュエル・ゼル。不動産などを徹底的に安く買いたたき、それを高値で売って巨額の富を手にするのが得意技。つまりは、相場が下がれば下がるほど儲かるわけで、「墓場」のような市場環境で一人高笑いをする姿から名付けられたのがこのニックネームです。ちなみに、英語でいうと“grave dancer”で、“grave”は「墓場」なのでそのまんまですね。
表現として押さえておきたいのは、“professional opportunist”。「オポチュニスト」は日本語でも使われる時もあって、「日和見(ひよりみ)主義者」なんて訳されていて、マネーに関していうと「投機家」のようなイメージでしょうか。どちらの言葉も悪いニュアンスで使われますが、ゼル氏はあえて「プロの投機家」というひねった表現で自分の抜け目のなさを強調しています。
ゼル氏の投資、面白いですね。これまで紹介してきたウォーレン・バフェット氏やジム・ロジャーズ氏は大局観を持って投資に臨んでいましたが、ゼル氏はもう、短期で売り脱けようというイケイケ系。
でも…。と、投資をかじったことがある人なら思うかもしれませんね。「短期で儲けることって、ホントにできるの?」、と。
と言うのも、短期の売買で儲けを出すことは極めて難しいと一般的には言われているのです。だって、仮に大もうけできる話が転がっていたらどうなるとおもいます?そう、誰かがあっという間にその情報を利用してオイシイとこ取り。チャンスは瞬時に消えてしまいますね。「市場は効率的だ」なんて表現されますが、現代のように情報があっという間にやりとりされる環境においては、オイシイ儲け話なんてなかなかないのです。
では、「墓場のダンサー」は短期売買でどのようにして巨額の富を生み出しているのでしょう?
ポイントは、「読み」と「機動力」にありそうです。というのは、一見すると相反する手法に見えて、実はゼル氏もバフェット氏も同じ考えを共有しているはずで、それはこの連載のバックボーンとなる考え方、経済ダイヤモンドモデルに表される経済の動き。ただ、その見方が違っていて、バフェット氏は「長期的にはどの業界が栄えるかな」と見ているのに対し、ゼル氏は「短期的にはどこでダイヤモンドモデルにほころびが出て儲け話が転がり込んでくるかな」と見ているのではないでしょうか。
そして、儲け話が転がり込んでくるやいなや、ゼル氏は巨額の投資資金を準備して、一気にお金をつぎ込むのです。その額は、例えば2年ほど前の「シカゴ・トリビューン」の買収では1兆円に近い金額です。儲け話を見つけたとしても、それだけのお金を瞬時に動かせる機動力がないとなかなか儲けは得られないものなのでしょう。
ちなみに、この「シカゴ・トリビューン」はその後経営破綻してしまって、ゼル氏は苦境に陥ったとも言われています。さて、「墓場のダンサー」はいつまで踊り続けられるのでしょうか。
今回は、同じ経済ダイヤモンドモデルを使いながらも違う結論が引き出せることを見てきました。長期的・大局的な視点から価値の向上を図るバフェット氏と短期的に価格の上昇を狙うゼル氏。どちらが良いと言うことではなく、同じフレームワークでも使い道が異なる、ということを押さえておきたいですね。
そして、次回は、この二人の違いをうまく説明した、「あの」著名投資家が登場です。お楽しみに。