防災/防災関連情報

武富士放火事件 タクシー運転手を逮捕 301日間の軌跡

平成13年5月に発生した、「武富士」弘前支店の強盗放火殺人事件の犯人が逮捕されました。数多くの模倣犯を生み出したこの事件は、放火への無防備さを浮き彫りにしました。

執筆者:荒井 健一


青森県弘前市の消費者金融「武富士」弘前支店に平成13年5月8日の火曜日、強盗目的の為に男が押し入りガソリンをまいて火を付け、5人の命を瞬時に奪ったのです。他にも4人に怪我をさせた許し難い「強盗殺人・放火事件」でしたが、ついに平成14年3月4日の午前1時18分に犯人が逮捕されました。

犯人は、浪岡町浪岡稲村のタクシー運転手小林光弘(43)で、警察の地道な捜査で逮捕に至りました。
あまりにも少ない物証は捜査陣を悩ますものとなっていましたが、生存者の方々による犯人の情報は非常に心強いものでした。

捜査本部は最大で1日270人、昨年夏から約160人、今年初めから逮捕されるまでは130人の態勢で捜査にあたっており、延べ52000人の捜査員が、少ない情報を頼りに走り回りました。現場の防犯ビデオは焼失、消火活動により遺留品や足取りも消えてしまい困難な捜査を強いられました。

従業員の方による2分あまりの110番通報には犯人の声が混じっており、犯人の声を解析する事にも成功しました。
「武富士弘前支店です。今、ガソリンみたいなのをまかれ、火を付けられた…」
という内容の中、従業員の方々の悲鳴に混じり犯人が金を要求する声。このテープの解析と、怪我をされた従業員の方々の証言で一致した「言葉に津軽弁のなまりがある」が重視されました。

小林容疑者は午前10時45分頃に押し入り、午前10時52分頃には逃走していたと見られていますが、弘前署は約13分後には主要道路など津軽地方を中心とした県内47カ所に緊急配備を敷いていたのです。同時に全署員を非常招集し、駅とバスターミナルににも張り込み、タクシー、医療機関などに連絡していたにも関わらず、この包囲網に掛かることはありませんでした。

小林容疑者は犯行後18キロ離れた自宅まで、抜け道を使い逃走していました。あらかじめ抜け道を逃走経路に決めていた計画性が浮上しており、タクシー運転手になる前は、弘前市内も配送するトラックの運転手もしていたなど道路を熟知していた事、犯行現場から容疑者の自宅までは抜け道が多かったことなども包囲網突破の一因でしょう。

目撃情報から、逃走に使ったとみられる緑色の軽ワンボックスカーが浮かび上がり、スバル製「サンバー・ディアス・クラシック」のほか、ホンダ製「バモス」も加わり県内全域の約2万7000台を追跡調査。小林容疑者は深緑色のサンバー・ディアスを所有し、通勤にも使用していたのです。

プライバシーの保護も大きな壁でした。消費者金融からは有力情報になり得る債務者など、すべての顧客リスト提供が受けられず怨恨関連の捜査に影響をきたしていました。難しい問題だけに、警察との連携についてを教訓として考え、あってはならない「もしも」に備えて欲しいと思います。

火はすぐに店内に燃え広がり、従業員9人のうち5人が逃げ遅れて亡くなりましたが、店長ら4人は、近くの人によってかけられた梯子を使うなどして脱出しました。この避難方法にも問題が残るでしょう。二方向避難の確保、避難訓練などをきちんと行い、避難器具の設置と使用方法の熟知は絶対に行って欲しいと思います。

事件後、銀行や金融機関での消防設備への関心はかなり高まり、いつの間にか消火器が倍近くに増えていた店舗も珍しくありませんでした。しかし、設置するだけでなく先にも挙げた「避難訓練」などを行い、設備全体の使用を目的とした勉強会のような形にしなければ、実際には役に立たない可能性があります。

この事件の後は、全国で模倣犯が急増しました。犯罪者にとって、放火という手口で脅す方法は「有効な手」に写ってしまったのでしょう。ただ、この事件の今後によってはかなりの「予備軍」に心理的な効果が出るのではないでしょうか? 今後は事件の公判などにも注目していきたいと思います。
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