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老後に1億円が必要だが1億円はいらないという謎かけ

老後にいくら必要か、といえば「1億円が必要」です。しかし「1億円を準備しなくてもいい」のが本当です。そのカラクリ、説明しましょう。

山崎 俊輔

執筆者:山崎 俊輔

企業年金・401kガイド

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「老後に1億円」は本当で本当ではない

老後にいくら必要か、というとなんとなく「1億円?」という人が多いようです。いくつかの金融機関の広告では老後に1億円必要だと実際に数字を示しています。しかしカラクリがいくつかあるのも事実です。

広告をみて「ああそうなんだ、1億円備えなくちゃいけないのか!」と思う人はマネーハックの視点ではお人好しに過ぎます。むしろ「それは金融商品をたくさん買わせようとする金融機関のやり口じゃないのか?」と考えるくらいがいいのです。
 
「老後に1億円」は本当で本当ではない

「老後に1億円」は本当で本当ではない




確かに「1億円くらいは老後のコストとしてかかる」のは間違いありません。しかし「1億円も老後に向けて貯める必要がない」のも事実です。

……そういうと、なんだか禅問答のようですが、この不思議な謎かけの答えを考えてみましょう。
 

「毎月いくら」×「老後は何年」の数字次第でいくらでも老後の費用は増大する

老後にいくらかかるか、は「毎月の生活コスト」×「老後の期間」によって概算する簡単なかけ算です。しかし簡単なようで簡単ではありません。

○老後の期間
まず老後の長さですが、65歳を引退とするのが現在の標準年齢です。男性の65歳平均余命は19.6年、女性が24.4年となっています。今後引退年齢が引き上げられる可能性はありますが、これはむしろ老後の期間を短くするので準備額を減らすことになり、「老後の準備」についてはプラスです。

最近では100歳人生、とよく言われるようになりました。この場合35年の老後ということになります。長く見積もるほど老後の必要額も増える理屈です。

【老後の長さ 男性19.6年、女性24.4年、100歳までなら35年】

○老後の生活コスト
老後の生活コストはどう考えるべきでしょうか。よく広告で用いられるのは、生命保険文化センターの「生活保障に関する調査」です。最新の平成28年度調査によれば、老後の最低日常生活費が平均で月22.0万円、老後のゆとりのための上乗せ額が月12.8万円で合計34.8万円となります。30歳代から40歳代の月給のイメージでしょうか。

国の調査では家計調査年報(総務省)があります。高齢夫婦無職世帯(いわゆる年金生活世帯)の1カ月の生活コストは26.4万円です。こちらは会社員か自営業者か現役世代の働き方によらず夫婦の年金生活世帯を見ているとはいえ、現実はずいぶん下がることが分かります。

毎月の生活コストも高めに設定するほど老後に必要な金額もアップします。

【老後の生活コスト ゆとりあり月34.8万円、現実月26.4万円】
 

1億4000万円から6000万円まで老後の予算は幅広い

まず、一番高くなるよう数字を組みあわせると老後のお金はこうです。

【老後の生活コスト ゆとりあり月34.8万円】×【老後の長さ 100歳までなら35年】=1億4616万円

100歳ではなく、女性の老後の期間を想定した場合はこうです(生活コストを変えず)。

【老後の生活コスト ゆとりあり月34.8万円】×【老後の長さ 女性24.4年】=1億189万円

反して、もっとも低い組み合わせを考えるとこうなりました。現実の生活コストと男性の老後の期間です。

【老後の生活コスト 現実月26.4万円】×【老後の長さ 男性19.6年】=6209万円

生活コストを同じにして、100歳を想定した場合はこうです。

【老後の生活コスト 現実月26.4万円】×【老後の長さ 100歳まで35年】=1億1088万円

どの数字を使うかによってずいぶん必要な老後の金額も変わることが分かります。しかし、1億円というのは「少し盛っている」数字である一方で、普通に暮らしていても「長生き」をすれば十分ありうる、ということが分かります。
 

国からもらえる年金額を考えていない

しかし、こうした老後の「必要額」は基本的に国からもらえる年金額を外しているところに注意が必要です。

日本人は基本的に公的年金制度を信じていないので(実際にはあなたの父母、祖父母はちゃんともらい続けているのだが)、国の年金をゼロにすることで、「老後にたくさんお金が必要=もっと金融商品を契約して備える必要」というセールストークがやりやすくなる仕組みです。

現在の国のモデルでも夫婦(会社員の夫と専業主婦の妻)で月22.1万円の年金としています。

老後の長さ 男性19.6年 5198万円
老後の長さ 女性24.4年 6471万円
老後の長さ 100歳まで35年 9282万円


が国からもらえることを考えると「1億円かかる老後」は怖くないことが分かります。実際の老後の生活コストと差し引きしてみると、1000~2000万円の不足、ということになりました。

「1億必要」でも「実際には1億円いらない(国からもらう年金が差し引きできる)」ので、実際の老後の備えはぐっと小さくなるのです。
 

基本的な生活コストは何十年長生きをしてももらえる 現実的な老後に備える金額を設定しよう

老後の豊かさへの備えは3000万円くらいとよく言われますが実はそのくらいで基本的な備えは足ります。「1億かかるが1億はいらない」のカラクリは国の年金制度にあったのです。

ちなみに国の年金制度は15%程度の水準カットを予定していますからこれくらいは自分で備える額を増やしておくとさらに安心です。しかし、これ以上年金水準をカットすると、国が約束した所得代替率50%を切る可能性があり、無制限な給付カットが連続することはないでしょう。

もちろん、老後のお金が多くて困る、ということはありませんので、3000万円以上貯められるのなら、貯めておくといいでしょう。少なくとも1億円の数字に焦らされておかしな金融商品を契約する必要はないのです。

死ぬまでずっと払ってもらえる公的年金があるからこそ、「1億かかるが1億はいらない」が成り立つ、ということは覚えておくといいでしょう。今払っている保険料は決してムダにはならない、というわけです。
 
※記事内容は執筆時点のものです。最新の内容をご確認ください。

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