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J1リーグのクラブで費用対効果に優れるのは?

プロスポーツの評価基準のひとつに、費用対効果があるのは間違いない。予算に見合った成績を残せたのかどうかは、そのチームの戦いを見極める大切な要素になる。2015年のJ1リーグの順位と費用対効果の関係を整理してみよう。

戸塚 啓

執筆者:戸塚 啓

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人件費が10位で年間最多勝点を記録したのは?

J1リーグは今シーズンから2ステージ制を採用された。現在行われているチャンピオンシップで年間王者が決定するが、ここでは今シーズンの年間順位をもとに、各チームの費用対効果を調べてみる。

最初にチームの人件費は整理する。2015年度の決算は公表されていないため、最新のものとして2014年度決算から人件費を抜き出す。

1位)柏レイソル=20億5900万円
2位)浦和レッズ=20億5400万円
3位)名古屋グランパス=20億5300万円
4位)ガンバ大阪=18億1500万円
5位)横浜F・マリノス=17億6500万円
6位)FC東京=17億900万円
7位)鹿島アントラーズ=15億6200万円
8位)川崎フロンターレ=15億4600万円
9位)清水エスパルス=13億5400万円
10位)サンフレッチェ広島=13億4900万円
11位)ヴィッセル神戸=13億4800万円
12位)サガン鳥栖=11億7600万円
13位)ベガルタ仙台=11億4100万円
14位)アルビレックス新潟=10億8500万円
15位)ヴァンフォーレ甲府=7億5900万円
16位)モンテディオ山形=4億6300万円
17位)湘南ベルマーレ=4億5200万円
18位)松本山雅FC=4億4300万円

次に、2015年の年間順位を確認する。チーム名のあとのカッコ内の数字は、上記の人件費の順位だ。

1位)サンフレッチェ広島(10)
2位)浦和レッズ(2)
3位)ガンバ大阪(4)
4位)FC東京(6)
5位)鹿島アントラーズ(7)
6位)川崎フロンターレ(8)
7位)横浜F・マリノス(5)
8位)湘南ベルマーレ(17)
9位)名古屋グランパス(3)
10位)柏レイソル(1)
11位)サガン鳥栖(12)
12位)ヴィッセル神戸(11)
13位)ヴァンフォーレ甲府(15)
14位)ベガルタ仙台(13)
15位)アルビレックス新潟(14)
16位)松本山雅FC(18)
17位)清水エスパルス(9)
18位)モンテディオ山形(16)

全体的な印象としては、各チームの人件費と順位に関連性が見られる。

年間勝点が「50」以上の上位7チームは、相応の人件費を注いでいる。他方、年間勝点が「40」に届かなかった12位以下のチームは、人件費でも中位から下位だ。

そのなかで、ふたつのチームが目を引く。サンフレッチェ広島湘南ベルマーレだ。

まずは広島だ。

今シーズン開幕前の補強状況を振り返ると、J1リーグで10位だった2014年から大幅に人件費が増えたとは考えにくい。累積赤字の解消とその後の経営安定のために、過去数年は補強を自重してきた経緯があるからだ。2015年シーズンも石原直樹(31歳)、高萩洋次郎(29歳)、ファン・ソッコ(26歳)らの主力選手が移籍したが、彼らを上回る即戦力は補強しなかった。

リーグ戦で8位に終わった2014年から、戦力的にはマイナスのスタートと言っても良かっただろう。ところが、リーグ戦23勝5分6敗の成績を弾き出し、年間最多勝点を記録したのだ。


広島と湘南の共通点

広島の成功は、継続性がもたらしたものだろう。

現在は浦和レッズを率いるミハイロ・ペトロヴィッチ元監督(58歳)のサッカーを、2012年から指揮官に指名された森保一監督(47歳)が進化させた結果である。チャンピオンシップの行方は12月5日の決勝戦第2試合を待たなければいけないが、2012年、13年の優勝に続く今シーズンの結果は、チームの成熟度の高さを示すものだ。

湘南は2014年シーズンをJ2で戦っていた。J1へ復帰した今年は人件費が増えているはずだが、広島と同様に大型補強を敢行したわけではない。選手の入れ替わりは激しかったものの、チームの骨格はJ2当時と変わらなかった。ゴールキーパー秋元陽太(28歳)、ディフェンダー遠藤航(22歳)、ミッドフィールダー永木亮太(27歳)、菊池大介(24歳)らは、昨年から中心選手としてプレーしている選手たちだ。

湘南にも「継続性」という表現が当てはまる。チームを率いるチョウ・キジェ監督(46歳)は、2012年にヘッドコーチから昇格し、就任4年目を迎えた。選手の変動はあってもチームのスタイルに揺らぎはなく、自分たちのサッカーを磨き上げてきたことで、J2の優勝チーム──言い換えれば、J1の19位──からJ1の年間8位に躍進した。しかも、2014年の人件費はリーグで2番目に少なかった! 

人件費と順位に乖離のあったチームとしては、柏レイソル、名古屋グランパスがあげられる。柏はアジアチャンピオンズリーグで準々決勝まで進出し、その代償としてスケジュールが厳しくなった。名古屋はケガ人の続出に苦しめられた。それぞれに事情はあったものの、柏はリーグでもっとも多くの人件費を投じたクラブで、名古屋は同3位である。リーグ戦の中位では、評価も低くならざるを得ない。

14年度の人件費がリーグ9位の清水は、ナイジェリア代表経験のあるピーター・ウタカ(31歳)、ミッチェル・デゥーク(24歳)の両フォワードをシーズン開幕前に獲得した。しかし、第1ステージは3勝4分10敗で最下位に終わった。8月には川崎フロンターレなどで実績のあるチョン・テセ(31歳)を補強したものの、第2ステージでも2勝しかあげられなかった。

その結果、年間17位でのJ2降格が決定してしまったのである。クラブ史上初の下部リーグ転落となった。

人件費を上回る成果を残したクラブがいれば、その裏返しとして不本意なシーズンに終わるクラブがある。いずれにせよ、チームの人件費がそのまま順位に反映されたら、リーグ戦の興味を削いでしまう。

欧州各国リーグに目を移せば、イングランド・プレミアリーグでレスター・シティが奮闘している。日本代表フォワード岡崎慎司(29歳)が所属するこのクラブは、選手の市場価値ではプレミアリーグ22チームで下位に属する。それでも、今シーズンはリーグ戦で首位争いを演じている。ビッグクラブと呼ばれる予算規模の多いクラブは、レスターの頑張りに触発され、リーグ全体が盛り上がっていく。

各クラブの懐事情から成績を判断するという視線が、日本のサッカーにはもっとあっていい。クラブの年間予算や選手の年俸などを材料とした報道は、サッカーファン以外の人にも分かりやすい。人気回復の刺激剤にもなるのではないか。お金がすべてではないが、お金が重要なのは間違いないからである。
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