東大・柳川教授が提唱する!40歳定年制の本当の意味
40歳定年制の本当の意味とは?
――以前より、「40歳定年制」という新たな枠組みが必要だと提言していらっしゃいます。ですが、定年という言葉のインパクトから“40歳で自分の仕事がなくなる?”“事実上のリストラ宣告なのでは?”と様々な憶測を呼びました。あらためて、その意図を教えてください。
柳川範之教授 「40歳定年制」というと、40歳でリタイアという風に思われがちなのですが、決してそうことではなく、“この先75歳くらいまで生き生きと働くために、40歳でいったん区切りをつけようよ”というものです。今、平均寿命が延びていて、人生90年時代といわれていますよね。なおかつ、70代80代でも非常に元気な方が多い。
昔は60歳、あるいは55歳くらいで定年の準備が始まるところも多かったため、40代以降はそれまでの蓄積で乗り切ることが十分できたわけです。ですが、75歳くらいまで元気で働くということを考えた場合、40歳でも、その先30年、35年という長い期間がある。ですから、この先どう働き、どんな風に生きていきたいかをもう一度真剣に考える時間を設けよう、というわけです。サーキットでいえば、ピットストップといったところでしょうか。エンジン補給をして、その先の生き方、働き方をあらためて考える。「40歳定年制」は、そういう節目を40歳くらいで作ることが必要ではないかという意味なんです。
――この先、ずっと前向きに働いていくために、いったんブレイクをとってキャリアを見つめ直し、自分をリニューアルするといった意味なのですね。40代は、“組織のお荷物になる人”と“そこから飛躍する人”の差が顕著になる気がします。リストラにおびえて過ごすよりも、学び直して自分を強化するほうがいいのは明らかですね。
柳川教授 色んな形で頭の切り替えをすることで、そこからまた新しい気持ちでその先の30年くらい過ごすことが出来ると思います。
――とはいえ、欧米だと、“歳を重ねても自発的にキャリアアップをして、自分の価値をあげる”というスタイルが根付いていると思いますが、なかなか日本ではそういった習慣やマインドを持ち合わせていないケースも多いのではないでしょうか。実際、「40代定年制」の反響は、いかがでしたでしょうか?
柳川教授 おっしゃる通り、マインドの問題は大きいですね。“意図は分かるけれど、そんなこと言われても…”と、戸惑いや拒否感もあった。ただ、以前お話ししたような環境変化のスピードを考えると、今後はそうせざるを得ないのではないかと考えています。新しいインプットをすることに否定的な人は、どこかで“自分は過去の遺産で食っていくんだ”という意識があるから踏み出せないのではないでしょうか。
「40歳定年制」は、国の会議で提唱した政策的な提言です。今後、少子化、高齢化が進み、労働人口は確実に減っていきます。日本経済を成長させるためにも、労働人口を増やすこと、そして労働力を強化するために、一人ひとりの生産性を高める必要があります。強制的にリタイアさせることが目的ではなく、学び直して再構築の機会を得ることで、転職するもよし、あるいは、そのまま今の会社と再度雇用契約を結ぶことも可能です。できれば1年くらいいったんお休みをして、スキルアップなりマインドチェンジができる期間をもうける。そのあたりのフォローを国の政策で行っていこうというわけです。
――現在、どの程度まで進んでいるのですか?
柳川教授 少しずつですが、進展しています。今、教育再生会議では、中高年の学び直しなどのスキルアップについて進めている最中です。教育の仕組みを変えて、大学も社会人が学べるような講座をたくさん作ってスキルアップの受け皿になるようにしていきましょうという流れが出てきています。ただ、財政の厳しい折、予算の問題もあってなかなかダイナミックには進まないというもどかしさもありますが。
――リフレッシュ休暇をとって学びなおすことで40代を伸び盛りの時期にすることは、それ以降の人生にとって大きな意味を持つと思います。実際に、そのくらいの年代の人たちがビジネススクールなどで学び直しをするケースは増えているのでしょうか。
柳川教授 増えていると思いますね。たとえ、大学やビジネススクールに通うことが難しくても、今はネットでの教育講座も盛んですから、そういうものを使って学ぶこともできる。今後、学びの環境や機会が増え、状況もどんどん変わっていくと思いますよ。
★次に、40歳定年時代をサバイバルする方法をおうかがいします!
教えてくれたのは……
柳川 範之(やながわ のりゆき)さん
取材・文/西尾英子