約2000億円の企業年金が消えた?どうして?
AIJ投資顧問会社株式会社という運用会社が、企業年金から預かっていた資産約2000億円のほとんどをなくしてしまったという報道で大騒ぎになっています。なぜ見抜けなかったのか、企業年金はどうして運用を任せてしまったのか、今後はどうなるのか、よく分からないことも多いニュースです。今回のニュースについて、「任せた企業年金担当者は悪くない(可能性が高い)」、「ほとんどの企業では影響がない(可能性が高い)」、「AIJの社員が横領したわけではない(可能性が高い)」といったら、ほとんどの人が驚くかもしれません。
もともと企業年金運用は個人が分かりにくい分野のひとつです。例えば「AIJ投資顧問会社の責任」と「運用を委託した企業年金側の責任」は整理して考える必要があります。Q&A形式で、今回の問題を、執筆時点の情報の範囲でまとめてみます。
Q1)この「投資顧問」というのは何?
A1)投資顧問会社とは投資の助言、投資の一任を行う金融業者のひとつです。企業年金運用や公的年金運用においては、信託銀行に預けられた資産について、投資顧問が売買の内容等を指示し、運用が行うことができます。投資顧問会社はその専門的な知見を活かして、特定の投資対象や運用テーマで投資を行うことが持ち味です。「投資顧問会社がリスクの高い運用を行うことが悪いわけではありません」。どこの投資顧問に運用委託をするかどうか、いくら委託をするかは各企業年金ごとに決定します。
Q2)今回の被害2000億円というのはどれくらいの規模?
A2)2000億円という規模は、企業年金全体からすれば大きなものでありません。国の年金運用は約100兆円、企業年金運用は全国で累計73兆円あります(2011年3月末)。つまり企業年金全体からすれば0.3%にも満たない金額です。ただし、個々の企業年金においては被害ゼロのところと、被害多数のところがあります。報道によれば1企業年金あたり50億円までしか運用を受けていないとしており、「企業年金全額がなくなるようなことはありません」。
Q3)自分の会社の企業年金は大丈夫か?
A3)あなたの会社が企業年金をやっていれば、AIJ投資顧問に運用を委託していた可能性があります。昨年9月時点では124の企業年金が委託していたとされます(2月1日時点で厚生年金基金が581、確定給付企業年金が12,297件)。確率としてはあまり高くなさそうですが、厚生年金基金をメインターゲットとして営業していたとの話もあり、業界団体で設立し、中小企業が多く加盟する厚生年金基金では、影響が大きそうです。委託の有無、被害の状況については社内のニュースや基金の広報誌等で情報開示がされると思われます。急いで確認したい場合は、会社を通じて総合型の厚生年金基金事務局に問い合わせる、労働組合を通じて企業年金基金に問い合わせる、等の方法が考えられます。
Q4)なぜこのような消失が生じたのか?
A4)今回の問題は、誰かが不正に引き出したというわけではなく、運用で失敗しているにもかかわらず、帳簿上は運用が好調であることを装っていたことに本質があるようです。仕組み上、投資顧問会社は信託銀行にある顧客のお金を直接触れないのですが(報酬は別途受け取る)、外部の私募投信を買わせることで、実際の資産が目減りしていることが分かりにくい仕組みであったとみられます(AIJ投資顧問以外の金融機関が不正を認識していたかは今後の調査による)。これは運用業界の信用を損なう重大な不正行為です。「今回のケースは、運用においてありうるやむを得ない損失ではなく、1投資顧問会社の明らかな損失隠しです」。
Q5)このようなリスクの高い運用を行うべきではないのでは?
A5)AIJ投資顧問会社が運用を行っていたと説明していた投資手法は、確かにリスクが高いものの運用法法として不適切なものではありません。他社においても同様の手法で運用を行うところがあります。高いリスクを取るか取らないかも、各企業年金ごとに自由に決定できます。ただし、大きく元本割れする可能性がある商品については、その可能性を理解してもらった上で、その元本割れそのものが生じたときはきちんと顧客に事実として開示することが大原則です。AIJ投資顧問会社は、信託銀行や企業年金運用の担当者に、虚偽の運用報告を行っていたと考えられます。これは「高いリスクを取っていいかどうかとは別の次元の問題」です。明らかな不法行為です。