サエキけんぞうさん「今、機能する音楽としてのニューウェイヴ」
ガイド:お久しぶりです、サエキけんぞうさん。2008年にクロード・フランソワのトリビュート『CLO CLO MADE IN JAPAN』のリリースの際にご登場いただきましたが、それ以来ですね。
サエキけんぞう氏と対談
サエキ:
3年もたってしまいました。日仏同時発売の『CLOCLO MADE IN JAPAN』プロモーションでは、フランスのプライムタイムのTV番組や、フランスのみのもんたとよばれるコエ氏の朝生放送ラジオに出演しました。フランスでは「陽のあたる月曜日」のポリムーグ氏によるエレクトロな編曲が受けたようで、やはりテクノな国だと思いました。
ガイド:
今回は、「ニューウェイヴほぼ30周年」という企画というか祭に関する最初のインタヴューとしてお話を伺っていきます。今回の企画は、どんなきっかけで始めようと?「ニューウェイヴほぼ30周年」というともうリアルタイムで聴いていた人達は40代か50代あたり。いや、30年ってこんなに早いんだと……。僕はサエキさんと同世代ですが、これはやはり同世代だけではなくもっと若い世代にもニューウェイヴを聴いてほしいとのメッセージとも取れますが。
サエキ:
懐メロではなく、今、機能する音楽としてニューウェイヴを聴いていただきたいのです。それには理由があります。1980年を中心としたニューウェイヴは、MIDIがまだできていません。同期について、MC8と4などで行っていたコンピュータ音楽は、MIDI登場後のものとは全く別ものです。MIDIの普及は1983~4年頃ですが、それからは、生音のシミュレーションが本格化し、プロのコンピュータ編曲は、物凄くおおざっぱにいえば、単なるバンド音楽の再現的な役割に大幅にシフトしていくことになります。ここで、生音と対峙する概念としてあったパルシーなテクノという音存在がぼやけてしまうのです。
その代わりに、高度にパーカッシヴなハウスやデトロイトテクノなどのフロア(テクノ)音楽が現れます。TB303の活用など、ここではテクノ音の大きな飛躍もします。同期音に対する新たなビジョンも生まれます。
しかし、手作り度が高い同期系音とアナログシンセのハーモニーが主軸だった、元祖テクノポップとニューウェイヴは、フロア・クラブ系音楽とは全く別の魅力と方向性を持っていたと、僕は考えます。
MIDIの登場が、ニューウェイヴを、一度、殺したといえるでしょうか?しかし、そのMIDIを超えて、ソフトシンセと録音ソフトで何もかもが作られてしまう21世紀になり、ニューウェイヴとテクノポップが持っていた可能性が、ようやく透けて見えてきたのではないでしょうか?