婦人病・女性の病気/女性に多い病気・初期症状

妊娠・出産で変わる女性の病気リスク

【医師が解説】妊娠・出産の選択はそれぞれですが、産む人・産まない人で病気のリスクが変わることがあります。原因は女性ホルモンの影響によるものも。妊娠・出産経験がある人、妊娠・出産経験がない人それぞれが気をつけたい病気について解説します。

山田 恵子

執筆者:山田 恵子

医師 / 女性の健康ガイド

妊娠・出産経験の有無で変わる女性の病気リスク

妊娠・出産で変わる女性の病気リスク

子どもを産む人と産まない人では病気のリスクが変わります。

子どもを産む、産まないは個人の選択ですが、妊娠・出産経験の有無で変わる病気リスクがあります。今回は妊娠・出産経験で変わる病気について、見てみましょう。

<目次>  

PMS(月経前症候群)……出産経験の有無で症状が変わることも

出産前後で症状が変わる病気があります!

出産前後で症状が変わる病気があります!

PMS(月経前症候群)は出産前後で症状が変わることが知られています。

出産経験のない人は「下腹部痛、頭痛、肩こり、乳房が張る・痛い」といった身体的な症状の訴えが強いのですが、出産を経験したことがある人では「アレルギー、イライラする、怒りやすい、攻撃的になる、自分をつまらない人間だと思う、健康管理ができない、家族に暴言をはいてしまう」など、精神的・社会的な症状が目立つようです。

原因は女性ホルモンの影響だといわれていますが、はっきりしません。PMSの対処法はいろいろありますが、一番の対処法は「自分をPMSだと認識すること」だといわれています。もし、いつも月経前にこういった症状に思い当たるようでしたら、PMSかどうかチェックしてみましょう。(自宅でできるPMS対策~生活編 PMSチェック表
 

エストロゲン依存性……産まない人のリスクが上がる病気

女性の体には女性ホルモンというホルモンがあり、妊娠、出産、月経などをコントロールしています。詳しくは「月経不順の原因にもなるホルモンバランスの崩れとは」もあわせてご覧ください。

そして女性ホルモンにはプロゲステロン(黄体ホルモン)、エストロゲン(卵胞ホルモン)の2つがあります。この2つのホルモンが上手く組み合わさって、月経周期や妊娠が成立します。「エストロゲン依存性」の病気というのは、「エストロゲンだけが高い状態だと進行してしまう病気」ということです。そして、月経周期の一時期にエストロゲンだけが高い状態の時があるので、つまり、生涯に経験する月経の回数が多い=妊娠、出産回数の少ない人ほどエストロゲンだけにさらされている時間が多くなるということになります(妊娠中は、エストロゲン、プロゲステロン両方が高い状態になります)。

ちなみにこう書くとエストロゲンが悪者のようですが、エストロゲンには強い抗酸化作用があり、動脈硬化を防いだりしていますし、骨をもろくしない作用もあります。食欲を抑制し、天然のダイエット作用もあるといわれていたりもします(排卵前に食欲が減る方、わりといらっしゃると思います)。色々な作用があるのですね。
 

出産経験がない人の方がリスクが高い病気1:乳がん

年々増加する乳がん

年々増加する乳がん

年間1万人が命を落とすとされている乳がん。その数は年々増加中です。エストロゲンにさらされている期間が長いと乳がんのリスクが上がるといわれています。つまり、妊娠・出産回数が無い、少ない人や、初潮年齢が早い人などは注意してくださいね。

その他、乳がんになりやすい人は「肥満」「家族に乳がんの人がいる」などといわれています。

早期発見、早期治療が大事です。例えば、ごく早期に発見できれば、なんとほぼ95%が治る可能性があるともいわれています。30歳を過ぎたら定期検診を心がけましょう。乳がんの発生は20歳過ぎから認められ、年を追うごとにだんだん増加し、40歳代後半から50歳代前半にピークを迎えます。
 

出産経験がない人の方がリスクが高い病気2:子宮体がん

『子宮体部』に発生するがんです
「子宮体部」に発生するがんです
ややこしいのですが、子宮がんには2種類あり、妊娠、出産していないひとがかかりやすいのが「子宮体がん」です(下の図の「体部」というところに発生します)。50~60歳代の方に多く発症します。

典型的な症状としては「閉経しているのに、ちょっとだけど、だらだらと不正出血がある。しかもオリモノに膿が混じっているような気がする……」という感じです。詳しくは「子宮がんは2種類……子宮頚がん・子宮体がんの違い」をご覧ください。

乳がんと子宮体がんのリスクファクターは似ており、エストロゲン依存性のがんなので、エストロゲンにさらされている期間が長いほどキケンが高くなります。以前は子宮がんの10%くらいといわれていましたが、近年は増加傾向にあります。また、「妊娠・出産経験がない人」「肥満・糖尿病・高脂血症の人」も危険率が上がります。
 

出産経験がない人の方がリスクが高い病気3:子宮内膜症

子宮内膜症も増加中
子宮内膜症も増加中
子宮内膜症は「子宮内膜という子宮の内腔を覆っている赤ちゃんのためのベッドとなる膜が、子宮の中以外で増えてしまう病気」です。

これもまたエストロゲン依存性の病気です。月経がある数が多ければ多いほど(つまり妊娠・出産が減り、初潮年齢が早くなるほど)発育してしまいます。

年々ひどくなる生理痛」や「性交痛」「不妊」が特徴です。詳しくは「チョコレート嚢腫(チョコレートのう腫)とは」をご覧ください。
 

出産経験がない人の方がリスクが高い病気4:子宮筋腫

子宮筋腫は子宮にできる”コブ”です
子宮筋腫は子宮にできる“コブ”です
子宮筋腫というのは、簡単に言ってしまうと「子宮の内外にできる良性のコブ(=腫瘍)」です。良性なので命にはかかわりませんのでひとまずご安心を。

ただし、本来ならないものがあるので「ひどい月経痛」「月経血の量が多い」「貧血」などの症状を引き起こします。

子宮筋腫もエストロゲン依存性なので、妊娠、出産の回数が減っている現在、患者さんの数も増加していており、なんと、30歳代女性の4人に1人が子宮筋腫をもっているといわれています。

治療には大きく分けると手術をしない方法(経過観察、ホルモン療法)と手術がありますが、ケース・バイ・ケースなのでお医者さんとよく相談してくださいね。
 

出産経験がない人の方がリスクが高い病気番外編:卵巣がん

実は卵巣がんのリスクははっきりしていません。ただ、遺伝が関係しているといわれているので、家族で卵巣がんの人がいる方は要注意。

また、40~60歳くらいで最も多く発症しますが、10歳代から高齢の方まで可能性があります。年々増加しており、排卵の回数が多い(妊娠・出産の経験がない、少ない女性)ほど発生率が高いという説もあります。
 

出産経験がある人の方がリスクが高い病気1:子宮頚がん

『子宮頚がん』は子宮の入り口に発生する癌です
「子宮頚がん」は子宮の入り口に発生するがんです
右の図を御覧下さい。子宮の入り口の部分にできるのが子宮「頚」がんです。

子宮頚がんを引き起こす原因にヒトパピローマウイルス(HPV)という“イボ”をつくるウイルスの一種がかかわっている可能性が高く、性交渉で感染するといわれています。ですから、年齢に関わらず性体験のある人はこの病気を頭に置いておいて下さいね。40歳代に最も多く発症します。

子宮頚がんは「出産回数が多い」ほうがなりやすいのが特徴です。あとは「性体験の回数が多い」ことも危険因子になります。

最初は無症状のことも多いのですが、少し進行すると「生理ではないときに不正出血があって、特に性行為の時に出血する……。こころなしか、最近おりものに血や膿が混じっているような……」という症状が典型的です。

がんを発見するためにはめん棒やブラシで子宮頚部を軽くこすって、がん細胞がいないかどうかたしかめる「細胞診」という検査があります。簡単な検査なので1年に1回は受けましょう。受診科は産婦人科です。
 

出産経験がある人の方がリスクが高い病気2:腹圧性尿失禁

なんとお産経験者の4割が体験!

なんとお産経験者の4割が体験!

腹圧性尿失禁は、せきやくしゃみ、大笑い、走るなどのちょっとした動作で、少しずつ尿がもれてしまう病気です。スポーツの時にちょっともれる程度の軽症の方から、オムツを当てないといけないほどひどい方までいらっしゃいます。

年齢が上がるにつれ、尿漏れの経験がある方は増えてゆくのですが、出産経験のない女性に比べ、出産経験がある女性の方が尿漏れの頻度が上がることが知られています。お産で、尿道の周りの筋肉や骨盤の底の筋肉や靭帯などが緩むことが主な原因といわれています。更年期になると、ホルモンの関係で頻尿傾向になり、ますます症状が悪化してしまうことが多いようです。

軽症の場合は骨盤の底の筋肉を鍛える体操や、薬で対処します。重症になってくると手術を行うこともありますので、泌尿器科のお医者さんとよくご相談してくださいね。
 

出産経験がある人の方がリスクが高い病気3:子宮脱

子宮が腟の下の方へさがって腟から出っ張ってくる病気です。骨盤の底を支えている筋肉や靭帯が緩むことによって起こるため、妊娠、出産、分娩回数が多いほど起こりやすく立ち仕事、重い荷物を持ち上げる、年齢(歳をとるほど筋肉や組織が弱くなるので)などでリスクが増えてしまいます。

膀胱瘤(膀胱が腟に出ること)、直腸瘤(直腸が腟に出ること)、なども子宮脱と一緒に起こることがしばしばあります。全て骨盤を支える筋肉や組織が弱くなることによるので、まとめて「骨盤臓器脱」と呼ばれることも多いです。

初期なら体操で対処できることもありますが、重症の方では手術になることもあります。
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