女性の転職/女性の再就職・職場復帰

子育てしながら映像翻訳のプロに 後編(3ページ目)

前編では、井ノ迫さんが、いかに翻訳の勉強をしてきたかをうかがいました。後編では、プロデビューを果たしてから現在にいたるまでのお話です。

執筆者:川崎 あゆみ

井ノ迫さん
絶対必要な条件でなければ、本人の努力でレベルアップをはかるのは、可能。それを体現したのが井ノ迫さん。

映像翻訳者になるために必要なこと


川崎:
前編で、クラスで一緒に学んだ方たちとは、積み重ねてきたものが違うと思われたとおっしゃっていましたが、海外に住んだ経験は、全くないのですか?なくて、困るということはありますか?

井ノ迫:
旅行はありますが、長期滞在経験は、一度もありません。海外での生活経験があったほうが、有利だと思うのですが、なくてもやろうと思えば、必ず道はつながると思います。英語から日本語に訳す場合は、英語よりも日本語重視ですから。もちろん、十分な英語力は必要最低限なんですが、それよりも日本語を伝えるのが仕事なので、日本語がいい加減だと仕事にならないんです。

高い英語力があるにこしたことは、ありませんが、文法力は、もしかしたらそこまで高いものは必要ないかもしれません。インタビューものでも、キャスターは別として、ネイティブでも、きちんと文法に乗っ取って話す人は、あまりいないですし。話していることを文字に起こしてみても、全然脈絡はないけど、全体で見て、「こうだ!」ってつかむ力の方が大事なようが気がしますね。

川崎:
教養を身につけたいというところから、スタートしてプロになった。今までを振り返って、気持ちの変化などに気づくことはありますか?

井ノ迫:
気持ちの変化は、特にないですね。もう思い立ったところから、今に向かってきている気がします。生活環境や周りが変わろうとも、自分自身や自分に思いは、変わりませんし。例えば、そんなの絶対にやめなさいと言う人がいるとしても、それは私の気持ちを変える原因にならないですね。

川崎:
井ノ迫さんて、ブレがない方ですよね。

井ノ迫:
そうなんです。最初に絶対にコレと決めたら、絶対なんです。子どもは生まれましたけれど、生まれたから、あきらめて子育てに専念しようとかは、一度もありませんでした。翻訳の勉強を始めるときにも、みなさん、ある程度まではやろうと思って実際にやるんですけど、ちょっと事情があってお休みするわとかね。 受講生は、仕事の合間に来ている人、本業としてやっていきたいとまでは考えていない人、ちょっとのぞいてみようかなという人、本格的にプロになりたい人など、学校に通ってくる人は、さまざまだったので、生徒の中でも温度差はありましたね。

川崎:
「プロになりたい!」という人たちは、みんな思いを叶えていますか?

井ノ迫:
仲良くしている人が4人いるんですが、みんなプロになっていますね。みんな、当たり前のように仕事をもらい、当たり前のように仕事をしていますよ。それが普通っていうか、そのために入ったんだし。という感じでしょうか。

プロの翻訳者として仕事をするということ


川崎:
今後は、映画の字幕をしたいとか、そういう希望はありますか?

井ノ迫:
映画には限らず、いろいろな仕事をしていきたいですね。映画って映像翻訳の頂点のように思われがちですが、実はそうではないんですよ。スクリーンに名前が出ることは、モチベーションとしては大きいですが、私は映画にはこだわっていません。

川崎:
映像翻訳者になりたい人は、たくさんいると思うのですが、人数的には、もう充足している状況ですか?

井ノ迫:
いえいえ、まだまだ数が足りません。おっしゃるようになりたい人は多いけど、プロになれる人は、まだまだ少ないのが実情です。それにたとえ、プロでデビューして、最初の1つ2つは仕事をもらえても、その後、続いていかない人が、とても多いようですよ。フリーで食べていくには、途切れることなく、お仕事をいただいていくことが大切じゃないでしょうか。

井ノ迫さん
「社会に認められたいという気持ちは、誰にもあるはず。それを押し殺しては、もったいない」

これから何かを始めたいミセスたちへのメッセージ


子どもを預けてまでスクールに通うなんてかわいそうと言われたこともありましたが、あまりそれにとらわれていると何もできなくなってしまいます。「もし、何かやりたい!」と思うなら、周りの声を気にせずに一歩を踏み出して欲しいですね。

やはり結婚しても、出産しても社会でやって認められたい気持ちは、誰にでもあると思うんです。うううん、絶対あるはず。その気持ちを殺してしまうのは、あまりにももったいないと思うんです。それに働くきっかけは、小さなことでいいと思うんです。

例えば、映画が好きなら月に1,2本観る映画代だけでも稼いでみようとかね。友人に小さな子どもを連れてポスティングの仕事をしている人がいるんですが、彼女いわく「ママ友だちとのランチ代を稼ぎたいから」と言うんですよ。「金額にしたら、微々たるものだけど、それは自分で稼ぎたい」と。「子どもが小さいし、預けてまでは働けないけど、せめてそれぐらいは」ってね。そこから始める、働くことへのとっかかりは、それでいいと思うんですよね。

前編はこちら

井ノ迫さん
知性とやわらかさをまとった井ノ迫さんは、透明感のあるとっても素敵な女性でした。


今月中旬、表参道のカフェで1時間ほどお話をうかがいました。実は、5年ほど前に「こんな風にプロを目指してがんばっている人がいるんだよ」と知人から聞かされていたのですが、まさか本当にプロデビューを果たされるとは、正直驚きました。

私も、翻訳と通訳者養成機関で学んだことがあるのでわかるのですが、プロになるまでの道は、相当厳しいものです。井ノ迫さんもおっしゃっていましたが、クラスには、帰国子女とか海外在住経験のある方が大勢いて、「英語が好き」レベルでは到底太刀打ちできません。だから、最初からあきらめてしまう人が本当に多いのです。「私には、無理」って。

でも、井ノ迫さんのお話をうかがっていて、「あきらめる人は、プロになるための思いが足りないのだな」と思いました。これは、どんな仕事に就くときでも同じだと思います。多少の障害や、あるいは不足していることも、「絶対に働く」という気持ちを持つことで、必ず道は開けると、あらためて気づかせていただきました。

最後にこうお話くださいました。
「私は、今の自分が一番好きなんです。若い子がうらやましいとか、20代の頃に戻りたいなんて思ったことは、ありません。仕事的にも自分では、まだまだこれからと思っています。40代、50代も仕事をしていても、これで満足っていう状態になっていない気がしますね。」

年を取るのではなく、年齢を重ねるってこういうことではないのかなって思います。井ノ迫さんのがんばりは、もちろん私にも心地良い刺激となりました。なりたいもの、やりたいことがある方、がんばりましょう!

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