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【プロ野球】飛ぶボールを検証する(3ページ目)

ここ何年か、日本のプロ野球では大味なゲームが多くなった。以前よりもホームランが飛び交い、投手陣はいとも簡単に崩壊する。その大きな要因とされる『飛ぶボール』について検証する。

執筆者:コモエスタ 坂本

『飛ぶボール』のカラクリ

一つは、ミズノ球の反発係数が合格値に対して高めギリギリ(0.44近辺)にあるという点。品質安定性というコントロールに自信があるからこそ、高めいっぱいの速球が投げられるのではないかということだ。

そしてもう一つは、耐久性と重要な関係がある、ボールの復元力だ。ボールはバットで弾き返された瞬間、大きく変形する。それを元の形に戻す力が復元力で、この復元力が高ければ高いほど、ボールはいつまでも変形せずに寿命が伸びる。そして、ミズノ球の復元力が高いと思えるのは、先の「失速すると思った打球が伸びる」といった傍証にある。反発係数の数値はあくまで初速度だが、復元力が高いほど、終速度の減衰が抑制できると考えられるからだ。

ゴルフボールの進化を考えてもらえばわかると思うが、メーカー各社の開発競争で、ゴルフボールの性能は格段の進歩を遂げた。飛距離、コントロール(方向安定性)、ボールの止まりなど、協会ルールに則りながらも果てしない技術競争を続けているのである。野球のボールとゴルフボールとでは、ボールの要素(素材、形状など)が違う点も大きいが、野球ボールの開発各社も、どういう工夫をすればボールの飛び方が変わるかはかなり理解していると思える(機密事項なので口が堅いが)。色々な意味で需要があってこその『飛ぶボール』開発なのだろう。

『飛ぶボール』の功罪-功の面から

コアな野球ファンにとっては、「罪」の部分ばかり語られがちな『飛ぶボール』だが、「功」の面もあることをまず書いておこう。まず、野球の華とも言えるホームランが増え、点がたくさん入り、野球がわかりやすくなる。より初心者向きのゲームが増えるということだ。

この方針を公言し、積極的に採用したリーグもある。1997年の台湾で、それまでの中華リーグと対立して新しく設立された台湾リーグがそれだ。当時は『飛ぶボール』の代名詞と言えば、現在のミズノ球ではなく、サンアップ球であった。台湾リーグは『強力野球』 を謳い文句に、外国人4人制を採用し(事実、開幕試合では1番から4番までが外国人であった)、そして『飛ぶボール』であるサンアップ球をリーグ的に採用したのだ。

明言こそしていないが、パ・リーグも実はその線を狙っていたと思える。10年前から、パ・リーグ6球団全てが併用を含めてミズノ球を使用しており、また併用からミズノ球単独使用へ移り変わるという傾向もはっきりしている。そのおかげで西武カブレラ・近鉄ローズのホームラン日本記録競争も盛り上がったと言えるだろう。そして、セ・リーグもその後を追いつつあるのだ(今年の中日は例外だが)。

『飛ぶボール』の功罪-罪の面から

「罪」の面を挙げればキリがない。野球がホームランや長打頼りの大味なものになる。社会人野球が金属バットだった時代もそうだったが、何点取ってもセーフティリードではない。ちゃんとしたバッティングでなくてもスタンドインするということで、バッターの技術が低下し、単なるパワーヒッター・フライヒッターが持てはやされることになる。投手の駒数がより必要になる。フライアウト狙いの高めで勝負できなくなる。さらに、打球速度が上がるという点で、特に投手が危険にさらされる度合いが増したということもある。そして、最も重要なのは、今でも相当間延びしている試合時間がより長くなる可能性が高いということである。

7/25の巨人-横浜戦だが、両軍合わせてなんと11ホームランが飛び交い、延長11回裏、金城の10号サヨナラ2ランで、横浜が11-9とサヨナラ勝ちをおさめた。4時間を超える熱戦と言えば聞こえがいいが、実際は両軍合計得点20点のうち17点がホームランによるもので、『飛ぶボール』による投手崩壊の空中戦と言っていいだろう。たまにはいいのかもしれないが、『飛ぶボール』時代になってから、あまりにこういう類の試合が頻発しているのだ。

そして『飛ぶボール』の罪の面の最後は、国際試合における国際球とのアンマッチだ。オリンピック壮行試合や本大会を見ればわかると思うが、日本のプロ野球ではあれだけホームランを打っている選手たちが、ぱたっとホームランが打てなくなるのは承知も承知だろう。日本プロ野球は、その国際化という点でも、ローカルルールを改める必要がある。

『飛ぶボール』もまさしくその一つだ。ボール自体の製作技術は進歩しているのに、公認球のテスト基準はもう23年も変わっていない。こんなところにも、日本プロ野球の守旧的体質が垣間見えてしまうのだ。


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