お稽古マニアのナニワママ
大阪ど真ん中の洋品店の娘として育ったヨウコさん(40)は、根っからのナニワ節オンナであると自覚している。4人兄弟の2番目。小学校から高校まで、自宅から徒歩圏内の地元校に通い、ごくフツウの少女時代を過ごしてきた。4人も子どもがいたから、親は習い事などをさせる余裕がなく、ヨウコさんはピアノが弾ける友達はみな「お嬢さん」と思って育ったという。
大阪の短大に入って、ヨウコさんはカルチャーショックを受ける。女子学生たちがみな、雑誌の中から飛び出てきたようにキレイな格好をして歩いている。聞いたことはあるが見たことのないブランド品をあちこち身に着け、キャンパスではヴィトンのモノグラムバッグが溢れていた。
アルバイトで稼いだお金をつぎ込み、ヨウコさんもブランド物を身に着けるようになる。もともと華やかな顔立ちのヨウコさん、社会人になって自分の自由になるお金を手にすると、ブランド好きは加速した。バブルに乗って派手に遊び、知り合いに紹介された神奈川在住の開業歯科医と結婚した。
生まれた一人息子は、当然のように跡取りとして期待される。夫も、夫の両親も息子を溺愛。嫁としては、この息子の教育に重い責任を持つこととなる。歯科医の世界には、ヨウコさんの育った環境とは全く違う派手さがあり、ヨウコさんは周りを見ながら適応しなければならない。「成功する男に育てなければ」。高級服を身にまとい、学業も芸術もスポーツも仕事も会話も一流。そのためには頭脳と体力が必要、と考えた。
1歳半からモンテソーリの幼児教室に通い、有名幼稚園を受験して入園した。息子にさせる習い事は、すべて「頭脳と体力の向上にいいかどうか」が基準となる。音感をはぐくみ、手先を使うことで頭脳を刺激するバイオリンを習わせ、毎日つきっきりで練習させる。体力づくりにはスイミング、敏捷さを身に着けるためにサッカー。どちらも、引退した有名選手が指導するような教室に入会した。
歯科医仲間のすすめで、静岡の乗馬クラブが主催する乗馬キャンプにも参加させた。子どもたちのオートバイレースにも参加した。視力検査で視力が下がったと言われれば、100万円かけて視力矯正のプログラムに通った。「成功する男は、なんでも一通りできないと」。自分が、小さいときに習い事をさせてもらえなかったから、息子に少しでも良いと思ったことは、本人の意向はともかくとして、必ず手を出してみる。
ある日、自分の前ではいつも聞き分けがよい「おりこうさん」の息子が、幼稚園で友達と交われないでいるという話を、先生から聞いた。「お母さんを通してでなければ、人間関係が結べないのかもしれません」。引っ込み思案では、成功する男にはなれないではないか、とヨウコさんは困った。コミュニケーション能力を高めるには、何の教室に通わせたらいいのだろう?ヨウコさんは、いま真剣に探している。
子育てで親のコンプレックスは解消されるのか?
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| 子どもを振り回していませんか |
親が、自分のコンプレックスを自分の子どもで解消しようとすることの危険性は、以前から指摘されている。たとえば芸能界に憧れていた親が、自分の子どもを芸能界に入れることで、その業界の空気を吸い、自分が芸能人になったような錯覚を起こす。親と子の自我の境界がなくなり、子どもの失敗や成功が親のものと直結してしまい、極端な賞賛と叱責で、子どもを振り回してしまう。
子ども自身の自我の確立が阻害されるだけでなく、親もまた、自分の生きがいと子どもの成功を取り違えているために、子どもが親離れしたときには空虚な親子関係だけが残されてしまうのである。
親が極端なお稽古に走るのは、子どもを自分の言いなりにし、支配していることの現われ。正常な親離れ、子離れができなくなれば、子どものために良かれと思うことも、結局子どもの人生を台無しにしかねない危険もあるということだ。子どもを育てる、という視点よりは、子どもが自分から育つのをサポートする、それくらいの姿勢がちょうどいいのかもしれない。
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