捨てられたギター
ガイド:はじめまして。鉄雄さん、それとも本名の添田雄介さんでお呼びした方がいいでしょうか?
鉄雄:
初めまして。このたびは鉄雄で結構です。
ガイド:
既に、「MUDDY WORLD」と「俺はこんなもんじゃない(OWKMJ)」というバンドで活動をされていますが、音楽活動をするきっかけは何だったのでしょうか?
Finery Of The Storm (amazon.co.jp)
鉄雄:
中学生の頃、実家のマンションのごみ集積所にアコースティックギターが捨てられており、それを拾ったのがきっかけです。当時も音楽は好きでしたがそれはあまり関係なく、何よりもまず「楽器」を手に入れたこと、これがあれば俺も何かがつくれるかもしれない、と思える「手段」を手に入れた、ということが大きかったです。
ガイド:
捨てられたギターと運命的な出会いだったんですね。
今回、ソロ活動をやっていこうと考えた理由は?
鉄雄:
もともとバンドをやる前はひとりで宅録をしたりしていました。しかし、ひとりではライヴが思うようにできなかったり、曲を作っても雰囲気がバラバラで、どうやってそれをまとめてひとりで一貫性を持って打ち出せばいいのかわからないでいました。そうこうしているうちにインストバンド(MUDDY WORLD)を組んだら面白くなり、音楽的なアイデアはほとんどバンドにつぎ込むようになりました。なのでしばらくソロは、バンドとは別で自分だけが聴く「まかない」のようなつもりで作っていたのですが、ある時電子音と激しいリズム、そこに歌が乗る、という現在の鉄雄のスタイルに近い曲ができて、これはいいんじゃないか、やることをこれに絞って突き詰めていけば、一貫性を持ったソロができるんじゃないかと考え、挑戦しました。
鉄雄というもう一つの人格
ガイド:名義は「鉄雄」、アルバム表題は「Fe」と「鉄」へのこだわりを感じますが、これには何かストーリーがあるのでしょうか?
Fe (amazon.co.jp)
鉄雄:
特に「鉄」に思い入れはなかったのですが、鉄雄という名義をつけて曲や歌詞を書きライヴをしていくうちに、逆に自分がどんどん「鉄」のイメージに引っ張られていきました。自分で考えたはずなのですが第三者の鉄雄が勝手にそうしたような感じがあり、自分でも困惑しています。
ガイド:
まるで、鉄雄がもう一つの人格を生み出したようですね。
音楽性という意味で、バンドとは一見かなり離れた打ち込みによるテクノポップ的展開になっていますが、これは鉄雄さんの音楽ルーツとどこかでリンクしているのでしょうか?
鉄雄:
僕の音楽ルーツはとても断片的で、いろんな好きなものの寄せ集めです。「コレを聴いて音楽に目覚めた!」と言える、はっきりした「ご本尊」みたいなものがないのです。鉄雄をやるにあたっては、音楽を意識的に聴きバンドを始めるさらに前、それこそ中学生の頃ぐらいに「切なくて独特で、しかもひとりぼっちでカッコいい!」などと思って聴いていた、CHARA、戸川純、シンディー・ローパーのような人たちのことや、大好きだったゲーム音楽やCM音楽などを思い出していました。
大人になりバンドを組み、すっかりインストバンドのマナーに浸っていましたが、そういえば俺昔からこういうの好きだったよなと、寄せ集めで埋まった部屋を過去から今へと掘り返していく感じでした。そうしてひとりきりの感覚を思い出していくのと、バンドとは違うものをやろうとした意思が鉄雄の基盤になっている気がします。