糖尿病/糖尿病の経口薬・インスリン

改めて、インクレチンとは?

2011年にほぼ出揃ったインクレチン関連薬は、経口薬とインスリンをつなぐ薬として医師や糖尿病患者から大きな期待を寄せられています。従来の薬とは全く作用機序が異なるものですから、改めてよく理解しておきましょう。

執筆者:河合 勝幸

ビクトーザ

ビクトーザ。1本で2~3週間分。薬価9,960円、もちろん健康保険が適用されます

2011年にほぼ出揃ったインクレチン関連薬は、経口薬とインスリンをつなぐ薬として医師や糖尿病患者から大きな期待を寄せられています。従来の薬とは全く作用機序が異なるものですから、改めてよく理解しておきましょう。

低血糖は生命の危険に直接結びつきますから、体は血糖値を上げるホルモンとしてグルカゴンなどを色々用意してあります。
しかし、ごろ寝しながら食物だけはいくらでもあるような環境は自然界にはありませんから、食物を食べて上昇した血糖を下げるホルモンはインスリン一つで十分です。ヒトも鳥も魚も、インスリンだけです。

2型糖尿病というのは、このインスリンを分泌する膵島のベータ細胞が十分に機能しない、あるいはインスリンが標的である筋肉細胞などに作用不全(インスリン抵抗性)である、あるいはその両方によって高血糖が続く状態です。
そのため、インスリン分泌を強める薬やインスリンがよく効くようになる薬を飲んだり、インスリン製剤で不足分を補う治療が主でした。
ところがベータ細胞のインスリン分泌には、もうひとつの臓器が大きく関わっているのです。それがです。

インクレチン効果とは

胃で塩酸によって消化が始まった食物が、十二指腸に入った途端にアルカリ性の膵液が分泌されて腸内が中和されることから、20世紀初めに英国のベイリスとスターリングがホルモン(この場合はセクレチン)の概念を発見したのは有名な話です。

体の特定の部分で作られた化学物質が血液によって全身をめぐって、そこから遠く離れた特定の部分に運ばれて、そこの機能を調節することから、その情報のメッセンジャー物質はホルモンと名づけました。
現代の言葉で言えば、胃酸(塩酸)が十二指腸のS細胞に感知されるとセクレチンが分泌されて、それが膵臓に作用して膵液を放出させるのです。

後にブタの十二指腸粘膜抽出物の液体を糖尿病患者に投与すると血糖低下作用があることが発見され、そのホルモン様物質がインクレチン(INCRETIN)、すなわち、INtestine seCRETion INsulin(小腸より分泌されるインスリン様物質)と命名されました。
1932年のことです。どんな物質かは不明でした。

やっと1960年代になって、ごく微量の血液中のインスリン濃度が測定できるようになると、同じ量のブドウ糖を静脈内に注入した場合よりも、経口的に投与したときの方がより多くのインスリンが分泌されることが分かりました。
すなわち、食物が消化管を通過する際にインクレチンが分泌されて、それが膵臓のインスリン分泌を促進していることが証明されたのです。
これがインクレチン効果です。

さて、膵島のベータ細胞は血糖値が100mg/dlを超えるとブドウ糖がGLUT2によって細胞内に輸送されてインスリンが分泌されます。血糖値が144mg/dlになるとベータ細胞はインスリン分泌能力の半分を稼働させてインスリンを放出しますから、健常者では食後の血糖値が140mg/dlを超えることはめったにありません。

食事をした後にインスリンが10単位分泌されたとすると、どの位が血糖上昇によるものか、どの位がインクレチン効果によるものかと言うと、なんと50/50ずつなのだそうです。いかにインクレチン効果が大きいのか分かりますね。
ところが2型糖尿病になるとインクレチンの寄与率が10~20%に鈍化してしまいます。
これではインスリンが不足するのも当然です。これが2型糖尿病の原因なのか、結果なのかは、まだはっきりとはしていません。
理由はともかくとして、自前のインクレチンの力を強めようとするのがDPP-4阻害剤で、不足気味のGLP-1を注射して補おうとするのがGLP-1受容体作動薬です。

これまでにGIPGLP-1という2つのホルモンが「インクレチン」として機能していることが確認されています。
その内のGIPは「グルコースの存在下にインスリンを出させるペプチド」という意味のホルモンで、上部小腸にあるK細胞から分泌されます。これは2型糖尿病になっても分泌することは確認されていますが、なぜか2型糖尿病になるとインクレチン効果が見られないのです。

という訳で糖尿病治療薬としてはGLP-1が対象となりました。GLP-1は「グルカゴン様ペプチド-1」という意味です。
グルカゴンというのは血糖を上げるホルモンですがGLP-1は下げるホルモンです。GLP-1もGIPもいずれもグルカゴンファミリーに属している、類似したアミノ酸配列を持つホルモンです。
誤解しないようにしましょう。
2011年度末ではDPP-4阻害薬が5種類、GLP-1受容体作動薬が2種類発売されています。
現在、後者の一日2回注射のバイエッタは週一回注射で済むタイプをテスト中ですし、一日1回注射のビクトーザは3日に1回の注射で済むタイプをテスト中です。新規参入のメーカーも1~2週間有効のGLP-1受容体作動薬をテスト中と伝えられています。
まだ詳細は不明ですが、小さなシリンダーに詰めたバイエッタを皮下脂肪に埋めて、まるまる一年間は薬が効いているようにする計画もあるようです。
GLP-1受容体作動薬は血糖値を下げるだけでなく、減量効果も大きいので、更に使いやすいように進化すると思います。

インクレチンはインスリン分泌を強めるだけでなく、いろいろな生理作用がありますから、各々の記事をご覧ください。

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