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遺族年金が縮小されると困るのはどんな妻?50歳以下の女性に影響がある?年金改正をチェック

社会保障審議会(年金部会)で7月30日に年金法改正の中で遺族年金の改正について話し合われました。将来的に遺族厚生年金に上乗せされる中高齢寡婦加算をなくしたり、遺族厚生年金を5年間の有期給付にするなど、男女差をなくす方向で検討されています。家計や年金スケジュールにどんな影響があるのでしょうか?

拝野 洋子

執筆者:拝野 洋子

ファイナンシャルプランナー・社会保険労務士 / 年金・社会保障ガイド

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社会保障審議会(年金部会)で7月30日に年金法改正の中で遺族年金の改正について話し合われました。将来的に遺族厚生年金に上乗せされる中高齢寡婦加算をなくしたり、遺族厚生年金を5年間の有期給付にするなど、男女差をなくす方向で検討されています。家計や年金スケジュールにどんな影響があるのでしょうか?私は今回の遺族年金の縮小が、特に子育てをする女性たちにとって不利な改正になるのではないかと心配をしています。

今回は遺族年金の改正内容について、解説していきます。
 

「中高齢寡婦加算」「遺族厚生年金」「寡婦年金」の3つが縮小の対象

そもそも遺族年金とは何でしょうか?配偶者が亡くなった時にもらえる給付について現行ではどうなっているかを確認してみましょう。

遺族年金には18歳最初の年度末(1、2級の障害がある場合は20歳)までの子どもを持つ配偶者が受給する「遺族基礎年金」と在職中に会社員が死亡したとき等に生計を維持されていた配偶者が受給する「遺族厚生年金」があります。遺族年金は、年金保険料を支払う20代から50代にとっては保険のような役割も果たしています。

年金法改正でこの遺族年金が、縮小される方向で議論されているのです。
厚生労働省の資料より、見直しの概要

厚生労働省の資料より、見直しの概要

具体的には「中高齢寡婦加算」「遺族厚生年金」「寡婦年金」の3つが縮小の対象となります。
 

①遺族厚生年金に上乗せされる「中高齢寡婦加算」は男女格差と縮小対象に?

遺族厚生年金には、夫が亡くなった妻にのみ遺族厚生年金に「中高齢寡婦加算」が上乗せされるという制度があります。

現在は亡くなった夫が在職中に死亡したり、20年以上の厚生年金期間がある等の条件を満たすと、妻がもらえる遺族厚生年金に40歳以降65歳まで「中高齢寡婦加算」が上乗せされ、妻が65歳以降は自身の老齢厚生年金と差額の遺族厚生年金が支給されています。

今回の年金法改正議論では子どものいない妻が夫に先立たれた場合の「中高齢寡婦加算」が男女格差だと縮小対象となっています。年金法上の「子ども」とは「18歳最初の年度末(高校生)または障害1、2級で20歳まで」なので、子どもを育て終わった40代・50代の妻も「子どものいない人」という位置づけになります。

そもそも遺族厚生年金は、妻が30歳未満で、子どもがいない場合は5年間のみの有期給付(期限のある給付)であり、子どものいない55歳未満の夫は受給権自体ありません。

会社員の妻が相手に先立たれたときに限って夫の死亡時妻が40歳以上であれば、中高齢寡婦加算がつくことを不公平という意見も出ていました。したがって中高齢寡婦加算が縮小・廃止されることが議論されています。

【関連記事をチェック】
遺族厚生年金に加算される中高齢寡婦加算とは?将来的に縮小される?
 

②遺族厚生年金の本体が5年の期限がある給付になってしまう?

最近になって、中高齢寡婦加算だけでなく、子どものいない配偶者(高校卒業以上または20歳以上で障害等級1、2級の子どもがいる人も含む)に支給される遺族厚生年金の本体(配偶者の老齢厚生年金の4分の3)が25年ほどの期間をかけて5年間の有期給付(5年間という期限がある給付)にされる可能性がでてきました。

そして遺族厚生年金が有期給付になる代わりに、65歳以降の老齢厚生年金に死亡した配偶者の老齢厚生年金分のうち一部を上乗せする案がでています。
死亡時年金分割

夫が死亡時、老齢厚生年金の一部を分割し、妻の65歳以降の老齢厚生年金に上乗せする案も!

それから、現在は「年収850万円以上の方は死亡者に生計維持をされていない」として遺族厚生年金を請求できなかったのですが、この年収要件の撤廃が検討されています。
 

③自営業などが加入する国民年金の独自給付、寡婦年金はなくなる可能性が?

国民年金のみ加入の方は厚生年金加入者と比較して、老後の年金が少なく、配偶者に先立たれたときも高校生までの子がいる方が遺族基礎年金を受給するのみ、子の無い配偶者に対して遺族基礎年金はありません。

寡婦年金とは、老齢基礎年金を受給していなかった夫が死亡したときに10年以上結婚期間のある妻が60歳から65歳まで、夫の老齢基礎年金の3/4を受給できる国民年金制度独自の妻限定の年金です。この寡婦年金の廃止が検討されています。

婚姻期間がどんなに長くても、子の無い妻が国民年金期間の長い夫と死別した場合、将来的に死亡一時金しか受給できなくなってしまう可能性があります(資料P40)。真面目に長期間国民年金保険料を支払っていた人ほど、早く亡くなると遺族にほんの少ししか給付金を残せないということになり、保険料支払い意欲を削がないか心配になります。

以上の3つが、今回の遺族年金の改正の方向性になります。この改正が実施された場合、大黒柱を亡くした人は、家計に深刻なダメージを受ける可能性があると思っています。その理由を以下で説明します。
 

遺族年金の縮小されたときの年金スケジュールはこう変わる

遺族年金の改正が、実際に行われた場合、どんな年金スケジュールになるのでしょうか?

会社員の夫が死亡した人を想定します。夫が亡くなったときに妻は30歳、末子が7歳である場合、もらえる遺族年金と65歳以降の老齢厚生年金は以下の図のようになってしまいます。
遺族厚生年金が縮小された場合の年金受取りスケジュール

遺族厚生年金が縮小された場合の年金受取りスケジュール

30歳で夫を亡くした妻が、遺族厚生年金を受給できるのは、妻が46歳までです(7歳の末子が18歳になる年の年度末までの11年間+有期年金5年分)。遺族基礎年金をもらえるのは末子が18歳になる年の年度末までなので妻41歳まで受給できます。46歳以降から、もらえるはずの「遺族厚生年金本体と上乗せされる中高齢寡婦加算」が、もし廃止されてしまったら、妻は46歳~65歳になるまでの期間は遺族年金をもらうことができません。

65歳からは自分の老齢厚生年金・老齢基礎年金がもらえ、自分の老齢厚生年金に夫死亡時の分割分が上乗せされることになっています。
 

早くに複数の子どもを産み、配偶者に先立たれた人の家計は厳しくなる

遺族厚生年金の金額自体は今より25%増、配偶者の死亡時に老齢厚生年金分を分割し、65歳以降の老齢厚生年金に上乗せ(再婚しても、増額分はなくならない)が検討されています。

より晩婚化は進んでいるでしょうが、早くに複数の子どもを産み、配偶者に先立たれた方にとっては、遺族厚生年金の有期給付が終了後、老齢厚生年金までの期間が長いため、現在よりハードな年金スケジュールになり、厳しい家計になってしまうことが予想されます。

「子どもが18歳になる年の年度末に達して『年金法上の子どもがいない配偶者』になった後の遺族厚生年金について検討の必要性を訴える意見」もでています。(資料p37)

子どもが成長して年金法上の子どもがいなくなった妻や、さまざまな事情により、子どもがいない方への配慮を欠いた遺族年金の縮小にならないよう、今後の年金法改正はじっくり見極めていかなければならないでしょう。

遺族年金縮小は25年かけて行うため、影響があるのは現在の40歳以下の女性?

遺族年金を現在受給している方(若くして夫に先立たれた方や60歳以上の方)は変更はありません。そして、この年金改正を実施する場合は、約25年かけて行う予定とのことです。

つまり「遺族年金の有期給付化」で実質的に影響があるのは「将来夫に先立たれる可能性のある」現在、40歳以下の女性です。

年金部会の令和6年7月30日付の資料から、遺族年金について社会の変化に合わせて制度を見直すための意見の1つを紹介します。

「現在20代後半の女性の約6割が正規雇用者であり、その比率を保ったまま30代、40代を迎えると考えられる。……例えば、今の20代、30代が40歳以上になったとき、中高齢寡婦加算を残す必要性があるのか、議論が必要」(P40)とのことです。

つまり、今は20代、30代の女性が働いて収入を得ているため、40歳になったときに中高齢寡婦加算をなくして、遺族厚生年金を5年の有期年金にすることを検討しているというのです。
 

女性は4割が非正規労働。年を重ねるにつれて非正規雇用は増える。遺族厚生年金の縮小には不安を感じます

ところが女性は非正規雇用の割合が男性よりも多いのです。

総務省の「労働力調査 2023年(令和5年)」では、20代から30代の女性は雇用者の2~4割が非正規労働者です。さらに高齢になるほど非正規労働者が増えています。女性全体でみると平成14年の雇用者数2073万人のうち正規労働者は50.7%、非正規労働者は49.3%、令和5年の女性全体の雇用者数2708万人のうち正規労働者の割合は46.8%、非正規労働者は53.2%です。21年前より女性の雇用者数は増えているものの、非正規労働者の割合が増えているのです。25年後に、女性の正規労働者の割合が、確実に増えるという保証はありません。

さらに、現在、正規労働者の20代・30代の方が正規労働者のまま40代・50代を迎えられるものでしょうか? その上、現在でも男女の賃金格差もあります。男女の賃金格差も今の20代が40歳になる20年後に縮まっているかは定かではありません。

筆者は、個人的にはこのような女性の雇用状況で、中高齢寡婦加算をなくしたり、遺族厚生年金を5年の有期期間化することは不安を禁じえません。
 

子どもの体調次第で、妻は仕事をいったん離れることもある

最後になりますが、子どもや家族の体調次第で、働き続けることのできない妻もいるということもいっておきたいと思います。

とくに乳幼児は度々発熱したり、体調不良となります。子どもが複数人いれば複数人分の発熱回数で看病が必要です。会社や国の制度、まわりの家族がどんなに助けてくれたとしても、妻は働き続けられないことがあるのです。今後も、仕事を続けやすい職場や国の制度の改善、理解ある家族が増えていくとは思います。

ただ子どもの発熱や体調不良等がたび重なると、母親の負担は大きいものとなります。母親がいったん仕事を離れ、子どもが成長してからパートで再就職するというケースは将来もなくならないのではないでしょうか。

配偶者の死亡という重い保険事故に対して支給される遺族年金が、どのような形で変わるのか、対象となる世代の方は、チェックしておく必要があると思います。これらの動きをどう感じるか、20代、30代、40代、50代の意見を聞いてみたいですね。

【参考】
厚生労働省 社会保障審議会年金部会資料(令和6年7月30日付) 遺族年金制度について
厚生労働省 国民の皆様の声
労働力調査
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