平田貴幸さんはカンパノラのスペシャリストであり、全国でもっともカンパノラを売る男。つまり、このモデルの魅力を知り尽くした人物である。そんな平田さんにとって、カンパノラの魅力はどんなものなのだろうか。

 

「カンパノラとの出会いは2011年。当初から国産の枠を超えたところにある時計だと、特別な印象を持っていましたが、製造工程のすべてを見学し、作り手と直接お目にかかる機会を得てからは、さらに私のなかの“特別感”が増しましたね」

 

幾人もの人の手を介して時計が誕生している――それが率直な感想だったそう。

「ケースの磨きの仕上げや組み立てといった工程に多くの職人の方々が関わっていました。彼らのプロの技術が凝縮し、初めてカンパノラというひとつの時計に結実する。その事実に感動しました」

今年2月、カンパノラにムーンフェイズを搭載した「結弦」（ゆづる）、「璃朋」（あきほ）、「月讀」（つくよみ）の3モデルが加わった。クオーツでありながらムーンフェイズという複雑機構を搭載した技術力もさることながら、ダイヤル部分の作り込みにも注目してほしい。

ダイヤルに使われている螺鈿（らでん）と漆の技巧のレベルは非常に高く、芸術品と言っても過言ではない。また、電鋳（でんちゅう）紋様の緻密さは目を見張るものがあり、その完成度は他に類を見ない。時計のプロである平田さんにとっても、嘆息させるものがあるとか。

「これらの技術を絶妙なバランスで組み合わせている点にも注目いただきたいですね。伝統工芸を使うと、どうしても“和テイスト”に寄りがちですが、カンパノラからは“和”ではなく、無国籍なニュアンスを感じます。自分で言うのもなんですが、素晴らしいデザイン力だと思います」

平田さんは、来店したゲストにこんな風にカンパノラの魅力を伝えているそうだ。

「これらの細工は、光を受けたときにその魅力がさらに際立つんです。なので、『ぜひ太陽の光のもとで時計を見てほしい』と話しています。螺鈿、漆、白蝶貝や電気鋳造で刻まれた紋様も、どれも自然光で見ると室内とは違った輝きを見せる。それを知っているはずの私でも、しばしうっとりしてしまうほどなんです」

また、日々店頭で接客している平田さんは「最近、ムーンフェイズモデルを探しているお客さまが増えてきた」と感じているそうだ。近年、月食やスーパームーンなどの天体ショーが続いたことで、私たちにとって「月」がより身近な存在に感じられるようになったからかもしれない。

「天上にある月と、時計の月のかたちが同じ……当たり前のことなんですが、なんか嬉しくなって、つい天を仰いでしまうんです。月齢という情報は私たちの生活に直結するものではないかもしれませんが、心を愉しませてくれる。それにカンパノラのムーンフェイズは有名な絵画の『ヴィーナスの誕生』と『眠れるヴィーナス』の表情をモチーフにしたカンパノラ・オリジナル。どちらも美人さんでしょう（笑）。しかも眠った顔を採用したムーンフェイズは珍しいので、そうした意味でもレアモデルと言えるでしょうね」

【DATA】

「CITIZEN FLAGSHIP STORE TOKYO」
住所：東京都中央区銀座6-10-1 GINZA SIX 1F
TEL：03-6263-9987
営業時間：10：30～20：30／修理工房受付時間10：30～19：30

新作の「結弦」、「璃朋」、「月讀」は身につけたときに手もとにちょうどいい塩梅でフィットする。それもそのはず、これら3モデルはカンパノラ・コレクションでは数少ない「ミドルサイズ」を採用しているのだ。

「カンパノラのこれまでのコレクションの多くがケース径が40mmを超えていました。今回、ケース径36mmのミドルサイズが出たことでラインナップが広がり『つけやすそう』と多方面から好評です」

最近の時計サイズは、男性は小さめを、女性は大きめを選ぶ傾向にあるそうだ。

「長く男性の時計は大きいサイズが主流だったことから、小さめのモデルに惹かれるようですね。逆に女性は見やすくて、しかもカッコいいと大きめの時計を手に取っています。『結弦』『璃朋』『月讀』は、こうした志向にピッタリだったようで、男女ともに高評価。ただ36mmというサイズが、思った以上に男性に響いていたのには、驚きましたが」

新作は男性にも人気だが、一方で女性からも“指名”される機会が増えているそうだ。

「カンパノラのムーブメントは長野県飯田市にある南信州高級時計工房で組み立てられています。同工房で活躍しているのが女性マイスターたち。こうした情報がメディアで紹介されることで『女性が作っている時計はどれ？』といった質問を受けるようになりました。徐々に女性の間でも『カンパノラ』という単語が出るようになり、名前が認知されてきたと感じます」

店舗にはカップルでやって来るお客さんも増えているそう。

「女性の場合は結納返しとして選んでいただくことも多いんです。女性がパートナーを連れて来店する光景が増えてきたのもここ数年のこと。女性は電気鋳造の美しさに目を細めて、男性は螺鈿や漆といった伝統工芸に惹かれるようで、同じモデルでも見るポイント、感じるポイントが違う。接客していて、そういう男女差に面白さを感じますね」

男女問わず、36mmというサイズは使い勝手もよい。ゆえに勧めたいのが夫婦やカップルでの“シェア”だ。シェアの際に困るベルトの長さ調整も簡単に行うことができるようになっており、ストレスもない。互いにカンパノラの世界観を享受し、存分に愉しんでいただきたい。

「男性の手もとにピタリと合うサイズ感は、スーツの袖にも引っかからないためストレスなく使えると思います。また、美しいダイヤルは女性のコーディネートに加えていただきたいですね」

漆黒の漆に螺鈿で星空を描いた「結弦」は、新月から弓張り月を経て、満月へとふたたび結ぶ月の満ち欠けをイメージして名付けられた。一方、「璃朋」はラピスラズリをイメージした青の漆に、螺鈿で星空を表現。宝石のような星々に月が寄り添っている様子を表現しているという。「月讀」は限定モデルで、月讀とは、古事記に登場する夜をつかさどる神のこと。夜空に浮かぶ月と星を幻想的に表現するため、ケースに漆黒の「デュラテクトDLC」を施し、黒染めの白蝶貝と黒い漆に螺鈿のダイヤルを組み合わせている。