FPの原点~私がファイナンシャル・プランナーになった理由~学校では家計管理は教えてくれない。教えられるとすればFPです

「ファイナンシャル・プランナー(FP)」という名前を聞いたことはあっても、どんな仕事をする人なのかよくわからないという人も多いのではないでしょうか。そこで、マネー相談のほか、メディアや講演などで活躍する「生活マネー相談室」代表の八ツ井慶子さんに、FPになったきっかけやいまの仕事、FPをめざす人へのアドバイスをお話してもらいました。
取材・文:大山弘子 撮影:湯浅立志

金融の情報をきちんと提供できる人間になりたい

ファイナンシャル・プランナー(FP)になろうと思ったのは、大学を卒業し信用金庫に勤めていたときです。私は小さな頃からお金が好きで、親に言われたわけでもないのにおこづかい帳をつけ、数字と現金が1円単位で合っていることに喜びを感じる子どもでした。大学で金融を学び、地元の信用金庫に就職しました。お金が“経済の血液”であることを知り、「金融を仲介する銀行で働けば世の中に貢献できる。その一翼を担いたい」と思ったからです。

ところが、その仕事はノルマに追われる日々と隣り合わせでした。会社ですから当たり前ではあるんですが、会社の都合でお客様に金融商品をお勧めしなくてはならない。金融の仕事も、お客様と接することも好きでしたが、次第に「本当に必要とする人に本当に必要なものを届けたい」という思いが強くなっていきました。転職を考え始めたのはその頃です。

そんなときに、ふと、会社を辞めたら「八ツ井慶子」には何の肩書きも無いことに気づいて愕然としたんです。会社に所属していれば肩書きを名乗れます。でも、辞めたら何もない。これではいけない、自分に付加価値をつけようと考えて、書店で「稼げる資格」という本を買って、本当に隅から隅まで全部目を通しました。FPと言う資格を知ったのも、この本です。

金融は世の中の役に立つものである反面、非常に複雑であることも確かです。知識がないと騙されてしまうこともあります。そんな思いをする人を出さないためにも、金融の情報をきちんと提供できる人間になりたいと考えていました。FPのページを読んだときには「これだ!」と思いましたね。

八ツ井慶子さん 「生活マネー相談室」代表、CFP®認定者、1級ファイナンシャル・プランニング技能士、宅地建物取引士、(社)日本証券アナリスト協会検定会員、アロマテラピー検定1級。法政大学経済学部経済学科卒業後、地元の大手信用金庫に入庫。1999年、AFP資格取得。2000年、CFP®資格取得。2001年に「家計の見直し相談センター」相談員としてFP活動を始める。2013年7月に「生活マネー相談室」を立ち上げる。

「お金」という身近な物に関する法律や制度、しくみが学べる

私の場合は、資格取得が目的ではなく、FPとして活動していきたいと思っていたので、対面でしっかり学べて土日に通学できる学校を選びました。後にアシスタントとして師事するFPの小野瑛子さんや、一緒に働くことになるFPの藤川太さんと出会ったのも、この学校です。

FPの勉強は楽しかったですね。金融資産運用やタックスプランニング、不動産などは銀行での業務とも関係があり、ある程度知識があったので比較的楽でした。苦労したのは保険です。当時の私にとって「定期」といえば「定期預金」のことでしたが、保険では「定期保険」を指します。おまけに出てくる名前が漢字ばかり(笑)。「定期保険特約付終身保険」とか「特定疾病保障定期保険」という言葉に悪戦苦闘しました。とはいえ、FPの勉強は「お金」という身近なものに関連する法律や制度、しくみがわかるようになるので、とても面白いと感じましたね。入社3年目の1998年にAFPの勉強を始め、99年にAFP、2000年にCFP®の資格を取得しました。

私は相談業務をやりたいと考え、すでに独立系FPとして会社を立ち上げていた藤川さんに思い切って相談しました。すると「うちも社員を1人募集している」と言うんです。「なんてラッキー!」と思い、周囲の人に相談したところ、全員に反対されました。社員が2000人以上いる会社から2人しかいない会社に転職すると知り、心配したのでしょう。でも、FP相談への思いは反対されても変わりません。猪突猛進型の私は「とにかくやってみよう」と2001年4月に「家計の見直し相談センター」へ転職したんです。

AFPとFP技能士の違いは? AFPにならないと意味がないの?

設立したばかりの「家計の見直し相談センター」には、あまり仕事が入ってきませんでした。当時は相談の申し込みがあると全員で拍手したくらいです。そこでは修行も兼ねて、藤川さんの師匠であり、FPの先駆け的存在でもある小野瑛子さんのアシスタントをすることになりました。小野さん曰く「FPの仕事の三本柱は相談・執筆・講演」です。最初の仕事は原稿書き。苦労して書き上げたものを「使えない」と突き返されたこともありました。書けども書けども赤ペンで修正が入りまくる…。もともと好奇心が旺盛でしかも負けず嫌いなので「どうすればいいんだろう」と悩みつつも必死に直したことを覚えています。相談業務も、アシスタントをさせてもらいながら勉強し、翌年からはひとりで有料相談を担当させてもらえるようになりました。

それまでにも金融機関などが行う無料相談を担当させてもらったことはありました。ところが、無料相談と有料相談とでは、相談に来られるお客様の真剣さがぜんぜん違う。無料相談はお試し感覚の方が多いのですが、有料相談は真剣に悩んでいる方がほとんどです。お金をいただいて相談を行う以上、真剣に臨まれる方には真剣に対応しなければならない。本当に責任の大きい仕事だと改めて感じました。

入社当初は仕事が少なかったセンターですが、家計見直しに関する週刊誌の連載がきっかけとなり、次々と仕事が入ってくるようになりました。その頃のスケジュール帳を見ると、相談が月10件以上ある中で、講演を月2~3回、原稿執筆を月3~4本やっています。忙しくて休むヒマがありませんでしたね。

仕事を通じて気づいたことや執筆原稿の予定や内容などを書き留めておく「FPノート」。年1冊のペースで増えていく

継続的な家計管理のお手伝いがしたい

多くのお客様の相談を受けているうちに、日々の家計を見直すための継続的なお手伝いをしたいと思うようになりました。一般的な家計相談では、長期的な家計シミュレーションを行うとともに、無駄な支出を削って家計を立て直すご提案をしますが、その後どうなったかまではわかりません。家計が改善したことで「次は住宅購入を検討したい」「資産運用を始めたい」とご相談に見える方もいますが、一回限りのこともあります。 私は、家計を立て直せるまでしっかりフォローする、つまり継続的に家計簿をチェックできる相談をしたいと考えるようになりました。でも、実行するためにはそのお客様と長く、お付き合いする必要があります。新しい試みに藤川さんは賛成してくれましたが、社内で私だけが継続的にフォローをする相談をしていたら、スタッフもお客様も混乱するかもしれないと気づきました。

シンプルで相談しやすい空間づくりを心がけている

周囲に迷惑をかけることはしたくなかったので、思い切って独立し、2013年7月に「生活マネー相談室」を立ち上げました。毎月継続的に通ってくださるお客様も数名ですがいらっしゃり、細々ながら事務所を続けています。ですが、ありがたいことに独立してから講演や執筆の依頼が増え、思うようには相談ができていないことがいまの悩みです。仕事の配分を見直し、継続的な相談にもっと打ち込めるよう、体制を整えたいと考えています。

「継続的な相談をしたい」と考えたのは、家計はすべての家庭にあり、しかも一生涯続くものだからです。キャッシュフロー表などで長期的なお金の流れの全体像を把握することはもちろん大切ですが、日々のお金の支出管理も重要です。日々のお金の出入りが管理できるようになれば、家計は大きく変わります。しっかり貯蓄できるようになり、生活にゆとりが生まれ、気持ちにもゆとりが生まれるようになる。1回の相談でできるようになる方もいれば、なかなかできない方もいます。私は後者のアフターフォローをしながら、家計を改善するお手伝いをしたいと考えています。

お金をいただくのに「ありがとう」と言ってもらえる仕事

相談にあたっては、お客様から非常に多くの情報をいただきます。収入や支出などお金に関する情報はもちろん、保険の加入や見直しの相談では健康状態もうかがいます。ライフプランを作成するために将来の希望も話していただきますし、相続が関わる場合には家族関係も聞かなくてはなりません。お客様と信頼関係がきちんと築けていなければ相談業務はできないんです。お金も多くの情報もいただき、時には厳しいことも言わせていただくのに、最終的には「ありがとう」と言っていただける。これはすごくうれしいですね。

私のところに継続的に通われている女性のお客様がいらっしゃるのですが、その方はがんにかかっていることがわかりました。「資産運用を相談したい」とご連絡があり、お子さんとご一緒にお見えになりました。「この先何があるかわからないうえ、夫はあてにならない。だから子どもを八ツ井さんに会わせたかった。うちの家計を一番わかっているのは八ツ井さんです。私に何かあったら親子二代よろしくお願いします」とおっしゃってくださったときは、涙が出ました。ご主人が「私に何かあったら、まず八ツ井さんに連絡をしなさい」と、奥様に私を紹介してくださったこともあります。とても励みになりますし、FPをやっていてよかったと思う瞬間です。

FPが世の中に貢献できる場も機会も増える

AFP資格やCFP®資格を取得すると、日本FP協会が提供しているサポートが受けられます。FPとして活動していく上で役に立ち、私が活用しているのは、毎月送付される会報誌の「FPジャーナル」や、協会会員が閲覧できるウェブサイトにある「業務&仕事に役立つ情報」です。ウェブサイトは情報が充実していて、新しい情報も多いのでこまめにチェックをしています。ウェブサイトの検索から私の名前を見つけて、お問い合わせをいただくことも多々ありました。AFP資格やCFP®資格を取得して、こういったサポートを活用するといいかもしれません。

日本の家計はこれから、ますます大変になると考えています。賃金はなかなか上がらない一方で、税金や社会保険料などの負担が増え、可処分所得が増えにくい状態です。2025年には団塊世代が75歳以上になり、その後も75歳以上人口は増え続けます。日本の公的年金制度や社会福祉制度は、現役世代が高齢者や弱者を支える世代間扶養が基本となっていますから、現役の負担増・高齢者の給付減という流れは今後も変わらないでしょう。

FPになって15年になりますが、以前と比べて働き方や生き方が多様化し、もちろん家計も多様化しています。この間、リタイアの年齢は60歳から65歳に伸びたように感じます。今後10年ではさらに5年伸びるかもしれない。そうなると年金の支給開始年齢もさらに引き上げられるのではないかでしょうか。

老後に困らないためにも、日々の家計管理は重要です。にも関わらず、学校では家計管理は教えてくれない。教えられるとすればそれがFPです。今後はますます「パーソナル・ファイナンス」が重要になってくるでしょう。FPが世の中に貢献できる場も機会も増えるはずです。責任の重大な職業ですが、真にやりがいのある仕事だと思っています。

提供:特定非営利活動法人日本ファイナンシャル・プランナーズ協会
掲載期間:2016年6月24日~2017年3月31日【PR】