意外と知らない!? 車選びに重要なJNCAPって何?

執筆者:All About編集部

NASVAの自動車アセスメント部の大野弘さん(右)、All About自動車ガイドの籠島康弘さん(左)

クルマのCMやカタログなどを見るとき、時折目にする星の数。なんとなく安全性能に関してのものだとは理解していても、くわしく知らない方も多いのではないでしょうか。そこで、今回は、All About車ガイドの籠島康弘さんとともに、その評価を行っているNASVAを訪れました。


クルマの安全性を見極めるために

クルマの買い替えを検討する際、皆さんは何を基準に選んでいますか? 価格や燃費などの経済面、走行性能やインテリアなどクルマのスペックでしょうか?しかし、忘れてならないのが、万が一のときに自分や同乗者を守ってくれる安全性です。

ただ、クルマの安全性をどのように比べればよいのか、今一つわかりにくい部分も。そんなときに役立つのが、独立行政法人自動車事故対策機構(NASVA)が年に2回公表している自動車アセスメント(JNCAP)「衝突安全性能評価」のランク付けです。All About車ガイドの籠島康弘さんとともに突撃取材!


JNCAPの衝突安全性評価とは?

車のプロである籠島さんに「衝突安全性能評価」について尋ねたところ、どのように審査しているかまではわからない部分もあるとのこと。「ならば、直接聞いてみよう」と、実際にNASVAを訪ね、どのように審査を行っているのかを伺ってきました。対応してくださったのは、NASVAの大野弘さん。大野さんは、全国で交通安全の講演なども行っています。

まず、そもそも「衝突安全性能評価」とは何なのか。

「衝突安全性能評価の公表は平成8年度(※平成7年度のアセスメント試験結果)から始めたのですが、当初は、(1)壁に正面からクルマをぶつけるフルラップ前面衝突試験 と、 (2)時速100kmで急ブレーキをかけるブレーキ性能試験 による評価だけを行っていました。

しかし、それだけではクルマの安全性能を測るには十分ではないだろうと徐々に試験項目が増え、平成12年からは、「フルラップ前面衝突試験」のほかに、「オフセット前面衝突試験」と「側面衝突試験」を加えた3つのテストの総合評価を示す、(3)『衝突安全性能総合評価』を公表。

平成23年からは、さらに「後面衝突頚部保護性能試験」、「衝突後の感電保護性能評価」に加え、歩行者保護性能評価を測る「頭部保護性能試験」と「脚部保護性能試験」の結果も含めた、(4)『新・安全性能総合評価』も公表しています。

星の数は、それぞれのテストの点数を合算し、208点満点のうち何点獲得したかによって、決めています。また、そのほかにも『後席シートベルト使用性評価』や『チャイルドシートアセスメント』など、クルマの安全に関するテストも実施しています。」(大野さん)


審査で満点を獲得するクルマはあるのか?

現在、JNCAPで行われている「新・安全性能総合評価」の審査は、大きく分けると

乗員保護性能評価
歩行者保護性能評価
座席ベルトの非着用時警報装置評価試験

の3つ。そのなかで、衝突したときに乗員がどれだけ守られるかを測る「乗員保護性能評価」と、歩行者の安全性を測る「歩行者保護性能評価」には、それぞれ細かい審査があり、合計8種のテストを実施しています。

各種審査の細かい内容はJNCAPのホームページをご覧いただくとして、ここで籠島さんが気になる質問を。

Q:「新・安全性能総合評価の満点は208点だそうですが、今までに満点を獲得したクルマはあるのですか?」

A:「1台もありません。以前の衝突安全総合評価の時代を含めても、これまでに満点を獲得したクルマはないんです。かなり厳しい基準を設けています。しかし、だからこそ、メーカーさんも満点を目指し、安全性能の向上に努力していただけていると考えています」


クルマの安全性能が年々向上している?

平成8年から現在まで、のべ250車種以上の審査を行ってきたJNCAP。それでも1台も満点を獲得したクルマが出ていないというのは、かなりシビアな審査が行われているに違いありません。

その一方、大野さんによれば、満点のクルマはないものの、平均点は年々上がっているとのこと。たとえば、今の軽自動車の平均点は160点前後ですが、これは数年前の普通自動車に匹敵する点数だそうです。さらに、今の普通自動車では、かつては高得点とされていた170点台が平均的な点数となり、以前ではかなり難しかった180点台のクルマも少なくないのだとか。

では、クルマ全体の安全性能が向上しているのなら、星を多く獲得しているクルマに乗れば、どんなクルマであれ安全なのでしょうか。最も気になる点に関しても尋ねてみました。

Q:「たとえば、同じ5つ星同士だけどサイズや重さが違う自動車がぶつかった場合、その衝突安全性能も変わらないと考えてよろしいのでしょうか?」

A:「衝突時の衝撃は質量に比例しますから、同じとは言い切れません。そもそも、衝突安全性能評価は、壁にぶつかったときの衝撃によって評価を下しており、自車の質量によって発生する衝撃をいかに吸収できるかを審査しているんです。また、自動車同士がぶつかれば、相手のクルマの加害性も加味しなければならず、物理的に考えても、大きなクルマのほうが受ける衝撃は少なくなります」

つまり、自動車同士の事故では、クルマのサイズによって受ける衝撃の大きさが変わり、同じ5つ星でも衝撃安全性能に差が出るということです。であれば、大きなクルマに乗るにこしたことはありませんが、実際に買うとなると、予算や運転のしやすさとの兼ね合いも考えなければならないでしょう。ただ、価格にそれほど差がないのなら、衝撃の少ない自動車を選んだほうが安全面での心配が少なくなるといえるようです。


予防安全技術の重要性

元々、自動車事故による死亡者数を減らすのを目的とし、クルマの安全性能を向上させるために始められた「衝突安全性能評価」。ただ、大野さんは、「クルマ全体の安全性能はすでに十分なレベルに達し、さらにそれを高めても死亡者数減少にはあまりつながらないかもしれない」と語ります。そこで、今後、より力を入れなければならないのが、事故を未然に防ぐ衝突軽減ブレーキなどの予防安全技術です。JNCAPでも、平成26年度より予防安全技術に対する審査を開始し、「予防安全技術アセスメント」を公表しています。

「予防安全技術のなかでも、衝突軽減ブレーキの性能は、出始めたころに比べて格段に向上しました。これからは、車線逸脱を防ぐ「車線はみ出し警報」など、その他の予防安全技術の進化が求められますね」(大野さん)


より安全なクルマを選ぶために

実際に取材をすることによって、クルマの安全性能を測る指針であるJNCAPの「衝突安全評価」が、いかに厳重な審査の下で定められたものなのかがよくわかりました。審査する車両も、メーカーに用意してもらうのではなく、実際にディーラーで購入するのだとか。もちろん、審査に使うとは一切明かしません。だからこそ、公平な評価が下せ、一般ユーザーにとって有益な指針となりえるのです。

クルマの購入にあたっては、価格や燃費、走行性能だけでなく、「衝突安全性能」の星の数もチェックすることをおすすめします。

もちろん「予防安全性能評価」も重要です。クルマの安全面を重視するのなら、獲得した星の数が多く、予防安全技術も充実し、予算の範囲内で少しでも大きなクルマを選ぶのがよい選択といえるでしょう。

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