-老齢ネコの抜歯手術-
 

何事もなく健康そうに見える生活を送っていても、ネコの時間は人間より早く進みます。
可愛い可愛い子猫だと思っていたのが、あっという間に青年期に達し、
やがて老年期が訪れます。
人間と同じくネコにも、加齢による衰えが早く出てくる個体もあれば、
15歳を過ぎても衰えが少ない子もいます。
歳の取り方はそれぞれによって違いますが、
飼っているネコが7歳を超える頃から
そのネコの時間のすすみ具合を観察し、
それに対してのケアを考えてあげたいものです。

具体的に老齢ネコにはどんなケアが必要でしょうか?
第一回目は、つい最近我が家で遭遇した「歯」のトラブルを取り上げてみたいと思います。

 
歯槽膿漏になっている上の左右の犬歯
歯肉も赤く腫れています
若いときに一度膀胱炎を患った以外特に大きな病気をすることもなく…気がついたら今年13歳になる我が家のTOTORO君。

彼は元々歯の弱い体質らしく、若い頃から半年に一回は歯石を取る(スケーリング)など歯のお手入れを続けてきました。しかし、加齢による様々な症状が一気に進行しはじめ、上の犬歯は2本ともグラグラ。その痛みから食餌が充分に取れず、栄養状態が悪くなって貧血も見られるようになってきたので、我が家の主治医先生に診察をお願いしました。

歯肉は赤く腫れ上がって、かなり痛みを伴っているようで、口の中を触られることに抵抗します。
上のグラグラの犬歯は歯槽膿漏が進行していて、下の左の犬歯の根本にも穴が空き歯が溶け始めています。
ふつうのネコであれば、ここまで進行してくると痛みで食餌が取れなくなるでしょうが、とっても食いしん坊のTOTOROはこんな状態でも食べています。

「これはもう、抜歯するしかないですね」と治療方針は決まりましたが、全身状態の結果如何では麻酔をかけられないこともあるので、まずは血液検査を。
ここでもし、尿素窒素=BUNなどの腎臓の値や肝臓の酵素=ALTが異常値であると、麻酔の危険性が高くなるので手術が不可能と判断されます。その場合は、痛み止めを使ったり抗生物質を飲ませたり、という対処療法しか選べなくなります。

幸いなことにTOTOROの血液検査結果は、加齢によるそれなりの機能低下はありましたが、麻酔に耐えられると判断できる数値でしたので、すぐに抜歯手術をしていただくことになりました。

抜歯と聞くと、抵抗感を持たれる方が多いかもしれませんが、多くのネコはあまり噛まずに食餌を取ります。ネコは肉食獣ですので、ネコの歯の役割は咀嚼するためのものではなく、獲物を捕まえて肉を引き裂くために使う構造になっています。ですから、飼い主が抜歯後の食餌のケアをしてあげれば、歯がなくなっても食べることに困りません。

 
手術の前夜-麻酔をかける前の日の夜は、必ず食餌を抜かなければなりません。これは、万一麻酔中に嘔吐したら危険だからです。
歯が痛くて、今までのようにバカバカ食べられなくても、人(ネコ)一倍食いしん坊のTOTORO君は食餌を抜かれることが、非常に不満そうでした。。。
今から12年以上前…
生後1ヶ月半のTOTORO
真っ黒だった毛には
白髪がまじってきています
 
続いて、いよいよ抜歯手術の開始です→
 

-いよいよ、抜歯の日-
 
一般的な簡単で短時間の手術などの場合は、マスクを当てる形の吸入麻酔で行われますが、抜歯手術などはマスクを当てていることができないので、気管内麻酔で行われます。挿管して、気管内チューブという管を気管に通し、麻酔薬を直接肺に送り込むわけです。
手術前には、鎮静剤を打ち麻酔の導入を行います。また、手術中点滴を行うために留置針を入れます。
神妙な面持ちで
術前処置を受けるTOTORO
 
歯を途中で折ってしまわないように
慎重に、ゆっくり…
表面にでている歯より
深い歯の根
こうした術前処置が済むと、いよいよ抜歯開始です。
元々グラグラだった上の2本の歯は、ペンチのような器具(抜歯鉗子)で挟んで、グイグイとするだけで、簡単に抜けました。しかし、問題はまだしっかり筋肉と骨とが絡みついている下の歯。
犬歯はあごの骨にしっかりと納まっていて、その周りをちょうどスペアリブの骨の周りに付いている肉のように筋肉が覆い囲み固定しています。下の犬歯は根本が溶け始めていましたが、まだ筋肉がしっかり歯を固定していたので、抜き終わるのに2時間近くかかりました。

先生は、その間中抜歯鉗子を歯根部に固定し辛抱強く、少しずつ筋肉と顎の骨から歯を緩めて抜いていくわけです。抜歯の様子を見学させて頂いていた私もずっと肩に力が入りっぱなしで…。獣医さんのお仕事はつくづく体力勝負だな、と実感しました。

ひどい状態だった3本の犬歯を抜き終わると、その他の歯の周りの歯石をスケーリングして頂き、抜歯は終了。問題なく麻酔から覚めたTOTOROは、念のため一泊入院させ、次の日にお迎えに行くと、すでに食べていました。人間が抜歯すると、数日間痛んだり、腫れ上がったりしますが、ネコの場合は傷んだ病巣(歯)を取り除くと、その後はそれほど痛みを感じなくなるようです。
食べる=生きる、が、動物の生命力の源です。彼にこの食欲がある限り、まだまだ長生きしてくれることでしょう。

 

上の犬歯が抜けた穴は、直径約8mm
その穴を見た私の感想は、不謹慎にも…
「カバの鼻みたい(^^ゞ」
 
加齢による避けられない老化は仕方がないものだとしても、
適切なケアを行うことで、最後まで穏やかな生活をおくらせてあげたい…
大切な大切な家族ですからね!
 
次回は「ネコの歯の病気について」の特集です。
 

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