誤診やそれによって起きる医療ミスをなくす画期的なCT

胃の中の串団子がはっきり見えるマルチスライスCTの画像

最近のペット医療はどこまで進んでいるのか? 大阪にはネオベッツという有志の獣医師グループが集まってつくった動物医療法人があり、センター病院の立ち上げに向けて準備を進められていということが知られていますが、東京方面ではなかなか気軽に高度医療が受けられる医療機関新設の話は聞こえてきません。
そんな中、耳にしたのがCTを使った診断システムを全国的に普及させようとしている会社があるという情報です。この会社、(株)ベッツホールディングスと言い、やはり大阪の会社なのですが、その活動は関西にとどまらず関東一円、九州にまで広がっているようです。

簡単に言うと、CT(Computed Tomography)センターを各地につくって、その地域の獣医さんたちに利用してもらい、地域ぐるみで診断技術をアップさせていこうという試みなのだそうです。CTと言えば、コンピュータとX線を使った画像診断システムで、人間の医療においても、レントゲンではわからなかった早期の腫瘍を発見する検査機器として日常的に使われています。

昨年、お散歩友だちのラブラドールが急に具合が悪くなり病院で診てもらった結果、脾臓に腫瘍がみつかり、その時点ではすでに手の施しようがなく余命2カ月と告げられてしまいました。人間でもペットでも、ガンの特効薬は「早期発見」しかないと言われますが、こうしたCTなどの高度診断システムが気軽に利用できるようになれば、発見したときは末期だったという悲劇もどんどん少なくなっていくように思います。
それに、ちょっとこれは何なのかわからないと言われたとき、「少し様子を見ましょう」ではなく、「じゃあCTを撮って調べてみましょう」という一歩を踏み出せるというのは、これまでに無数にあった誤診やそれによって起きる医療ミス・投薬ミス(違うクスリを飲ませる)を減らす意味でもおおいに役に立つことでしょう。

全国に広がる「動物高度医療診断ラボ」

じゃあその「動物高度医療診断ラボ」(CTセンター)はどこにあるの?ということですが、05年1月現在で横浜・西埼玉・三重・長崎の4カ所。続いて開設準備中なのが、東京の杉並区・大宮・西兵庫の3カ所、最終審査に入ったのが南千葉・甲府の2カ所ということです。

最新鋭のマルチスライスCT「IDT16」を
備えた南先生のベイサイド・アニマル・クリニック

その中の1軒、横浜のCTセンター「ベイサイド・アニマル・クリニック」を見せてもらいました。ここは三重の伊賀上野でガンの専門医療を行う獣医さんとして有名な南動物病院(南毅生院長)の横浜分院です。そして南先生はこの「動物高度医療診断ラボ」の出資者の一人でもあります。
「ここに入っているマルチスライスCT・IDT16は、人間の医療現場でもまだ数少ない最新鋭の機種だよ」と言う先生の案内で、午前中に撮ったばかりの画像を見せてもらってビックリ! その美しさ、鮮明さ、しかも全部動画で3Dにも変換できるのです。それはまるでよくできたCGのよう。しかもすべてがデジタルデータに保存され、日本じゅう、いや世界じゅうに送ることもできます。

猫の頭の蓋骨骨折はこんなふうに見える!

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動いている心臓が3Dでオールカラーで見える

撮っているその場で診断が可能に

「ほら、動いている心臓が見えるでしょう。これが僧帽弁。この細い弁がゆるくなったり切れたりすると血液が逆流して肺に血がたまり呼吸不全になるわけです」(南先生)
動いている心臓がオールカラーで手に取るように見えます。ガンがどこに、どんな形であるかというだけじゃない。これだと肝臓の門脈シャントや椎間板ヘルニア、はては誤飲した焼き鳥の竹串の状態まで、ありとあらゆる体内の異常が瞬時にしてわかるとのこと。ぼやけたレントゲン写真を1枚1枚撮って「う~ん、よくわからんなぁ。エコーもやってみましょう」という従来のやり方が前近代的なようにも思えてしまいます。だって、1秒間に鮮明なカラー画像が約12枚(旧型の機械だと30分かかる)も撮れてしまうというのですから…(フ~ッと、タメ息)。それに従来のCTのように撮影に時間がかからないということは、麻酔量も放射線の被爆量も少なくてすむため身体への負担もかかりません。

正常な犬の門脈造影、開腹なしでもこんなに鮮明

気になるのはお値段のほうですが、基本料が3万6750円、これに体重に応じて1万~3万円程度の造影剤料、8400~1万5750円の麻酔料がかかります。つまり1回の検査は、小型犬だと約5万5000円、30キロ超の大型犬だと約8万円ということですね。ちょっと高めかなと思われる人もいるでしょうが、従来のX線検査の写真1枚の撮影料が3000~3500円(麻酔料別、日本獣医師会調べ)ぐらいですから、10枚で約3万円。枚数計算でいけばリーズナブルですし、なによりその情報量の多さ、正確さはくらべようもありません。いや、確定診断がつかないまま検査検査を繰り返したり、間違った治療や投薬が行われることのリスクを考えればむしろ格安だと言っていいと思うのです。

肺腫瘍(腺癌)の早期発見も容易に

ニーズの高まりは獣医さんたちも自覚している

むずかしかった椎間板ヘルニアの診断も…

しかしながら、ここにこんな素晴らしい診断装置があるということを、地域の獣医さんたちが知り、ひんぱんに活用してくれなければ「動物高度医療診断ラボ」を事業化したベッツホールディングスの売り上げは立ちませんよね。同社の社長である橋本明さんは言います。
「そうなんです。最初はおまえはいったい何者だみたいなことを言われて、なかなか受け入れてもらえませんでした。ですが私自身、ミニピンのチャッピーと暮らす一飼い主として、こうした高度医療は絶対これから必要になるという確信がありましたから、めげずに足で歩いて信頼を得てきました。こちらが一生懸命になれば、世間のニーズが高まってきていることは獣医さんたちもよくご存じですから、うちでも導入したい、近くにあればぜひ使いたいという声がどんどん出てくるようになりました」
橋本さんは「動物高度医療診断ラボ」の事業化を通じて、日本の獣医療を一気にアメリカ並みのレベルにまで持っていきたいと考え、とくに若い獣医さんたちの教育活動にも取り組んでいきたいそうです。

地域の獣医さんたちの診断技術を底上げ

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橋本さんと愛犬チャッピー
「画像診断にはそれなりの診断技術が必要になるわけですが、CTセンターとなったラボ病院どうしの情報交換による相互診断や、インターネットを使ったノースキャロライナ大学等の専門医からのアドバイスも利用して、つねに切磋琢磨するよう心がけています。

また同時に、セミナーを通じて地域の獣医さんを集めて症例発表会を行うなど、日本の獣医界の技術向上をはかっていきたいとも思っています」
自分の愛犬が難病にかかることを思うと、事業とはいえ社会的な活動をやっているつもりですと橋本さん。なんだか急に目の前が明るくなったような気がしました。


わたし自身は、愛犬がむずかしい病気になったからといって必ずしも高度医療に進むばかりがよいことではないと思うのですが、高度医療を選択するもしないも病気の正体がわからなければ選びようがないのは明らかですよね。
だからなにより必要なのは、やはりできるだけ早期に確定診断がつけられること。それができれば、高度医療を選択するか、動物のQOLを優先するかを飼い主が決めることができるわけです。もちろん現状でも大学病院にはCTがあるのですが、予約が詰まっていれば2週間待ち、3週間待ちとなるのもしばしば。そうこうするうちに早期発見が遅れてしまうことも考えられます。その点、気軽に予約できるCTセンターが近くにあれば、最短で検査が受けられほんとに便利です。

そんなわけで、少しでも早い時期に、多くの獣医さん、いやできればすべての獣医さんがこの「動物高度医療診断ラボ」の存在を知り、むずかしい病気はCTで確定診断をするというのが一般的になってほしいものだと、心から思った取材でした。

 株式会社ベッツホールディングス

 ベイサイド・アニマル・クリニック
 神奈川県横浜市神奈川区栄町22-9
 栄町中央ビル1F
 TEL:045-440-0987
 最寄り駅:京浜急行線 神奈川駅

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※ペットは、種類や体格(体重、サイズ、成長)などにより個体差があります。記事内容は全ての個体へ一様に当てはまるわけではありません。