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リスキリングとは? リカレント教育との違い、育休中に可能なのか、わかりやすく簡単に解説

リスキリングとは? 「リカレント教育」との違いは? 岸田文雄首相の国会での答弁が物議を醸し、にわかに注目されている「リスキリング」について、わかりやすく簡単に解説します。

西島 美保

執筆者:西島 美保

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リスキリングとは? リカレント教育との違いは? わかりやすく簡単に解説

岸田文雄首相の国会での答弁が物議を醸し、にわかに注目されている「リスキリング」。そもそも「リスキリング」とは何か? 似た言葉として最近よく聞く「リカレント教育」との違いは? わかりやすく簡単に解説します。
 

岸田首相の発言はなぜ批判を浴びた? 答弁をおさらい

事の発端は2023年1月27日の参議院本会議での代表質問答弁でした。

自民党の大家敏志参院議員から、子育てのための産休・育休が取りにくい理由として、仕事を休むことで同期から遅れをとることへの懸念があるとし、「この間にリスキリングによって一定のスキルを身につけたり、学位を取ったりする方々を支援することができれば子育てしながらもキャリアの停滞を最小限にしたり、逆にキャリアアップが可能になることも考えられる。リスキリングと産休育休を結び付けて支援を行う企業に対し国が支援をしてはどうか」という提案がされました。

これに対し岸田首相は、子育て政策は最も有効な未来への投資であると前置きした上で、「地域社会や企業の在り方も含めて社会全体で子ども子育てを応援するような社会全体の意識を高め、年齢性別を問わず、皆が参加する次元の異なる少子化対策を実現したい。(中略)政府としては人への投資への支援パッケージを5年で1兆円に拡大し、リスキリングへの支援を抜本的に強化していく中で育児中などさまざまな状況にあっても主体的に学び直しに取り組む方々をしっかりと後押しして参ります」と答えました。

岸田首相は、「主体的に学び直しに取り組む方々を後押ししたい」と言っているのですが、答弁の一部だけが報道によって切り取られ、「育児中の学び直し」をあたかも岸田首相が推奨しているように取られてしまい、育児に奮闘している人々から「育児が軽んじられているのではないか」との怒りをかってしまいました。
 

リスキリングとは? 「リカレント教育」との違い

今回注目された「リスキリング」という言葉ですが、英語ではreskillingと書き、再びスキルを身につけるという意味になります。

リクルートワークス研究所が2021年2月に発表した「リスキリングとは―DX時代の人材戦略と世界の潮流―」によれば、「新しい職業に就くために、あるいは、今の職業で必要とされるスキルの大幅な変化に適応するために、 必要なスキルを獲得する/させること」と定義されています(※1)。

一般的には、技術革新などで消えていく仕事に従事している人などに対して、今後新たに必要とされる仕事に対応できるようなスキルを身につけさせる技術訓練などを指し、今後デジタルトランスフォーメーションによって増えるであろう失職者を、新たな仕事に就かせるための国家や企業の重要な人事戦略のひとつとして考えられています。

前出の資料によると、アメリカの大手企業、AT&Tやマイクロソフト、アマゾン、ウォルマートなどがすでに導入しており、reskillingという言葉自体も2020年5月と比較し半年で4.5倍にも検索数が増えるなど、注目が高まっています。

一方、リスキリングより以前から使われてきた似た言葉として、「リカレント教育」があります。リカレント教育とは、主に社会人が再び学校や教室に戻って教育を受け、再び社会に出るという意味で使われ、自己啓発的な意味合いも含んでいます。
 

「育児休業中のリスキリング」コンセプトは20年前からあった

大家議員から今回提案されたリスキリングですが、実は「育児休業中にスキルアップする」という考えは、2000年を過ぎた頃には既に日本でも導入されていました。育児休業者の能力アップを支援し、成長機会につなげていくというコンセプトのもと、当時珍しかったオンライントレーニングや育児休業者および人事担当者をつなぐコミュニティなどのプログラムを提供する企業が注目を集めました。

1990年代後半から、妊娠しても仕事を辞めずに育児休業を取得する女性社員がようやく50%(当時の男性の育児休業取得者は約0.4%)を超えるようになり(※2)、育児休業者にどのような支援をすべきかを多くの企業が模索する中、育休中でも社員がスキルアップする機会を与え、孤立させないための施策として、このプログラムを導入することが大企業においてトレンドでした。

つまり、今回大家議員から提案された育児休業中のリスキリングは、一部の企業において、もう何年も前から日本には導入されていたのです。
 

育児休業中のリスキリングは実際可能なのか

では育児休業中のリスキリングの実態はどうなのでしょうか。第一線で働いてきた労働者にとって、育児休業に入って仕事から完全に離れる経験により、自分がいなくても仕事がうまくいっていたり、同僚たちが活躍しているのを目の当たりにしたりして、取り残されているような感覚を覚える人も少なくありません。

自分が戻る場所がなくなるのではないかという不安を解消するためにも、リスキリングでスキルアップができる機会を与えることで、社員の復職を後押しし不安を解消するという意味では良い試みだと思います。

しかし実際に子どもが生まれると、育児休業中にスキルアップといった考えがいかに難しいことかということがわかります。親の都合関係なしに泣く我が子を前に、2~3時間おきに授乳し、おむつを1日に何度となく取り換え、様子がおかしければ病院に連れていき、夜は度重なる授乳で睡眠を奪われ、自身の食事もままならないという日々に突入すると、とてもスキルアップどころではなくなってしまいます。

先ほど紹介した育児休業者の支援プログラムを導入したある企業の担当者によれば、導入当時「育児休業に入る前に社員に説明すると喜ばれた。しかし実際には育児休業者の利用率は期待したほど伸びなかった」ということでした。

利用しなかった社員の多くは、子どもが生まれてから、日々の育児や家事に追われ、当時はスマートフォンが普及しておらずパソコンを開くことさえままならず、オンライントレーニングを受けることはできなかったのです。

一方、プログラムを利用してリスキリングに成功した社員もいたそうです。よく聞いてみると生まれた子が「よく寝る子だった」のと、夫婦で協力しながら子育てをしており、またエンジニアとして当時珍しかったオンライントレーニングに興味があったこともプラスに影響したとのことでした。
 

「本人の希望」を諦めなくても良い社会の実現へ

育児休業の目的は、仕事から離れて育児に専念する時間を持ち、親になることがどういうことなのか日々子どもと向き合いながら理解し、子どもとの信頼関係を築き、自身が親として成長する時間なのだと思います。

岸田首相はその後の衆院予算委員会で、自身も3人の子の親として子育てが経済的、時間的、精神的に大変だというのは目の当たりにしてきた、と境遇を語った上で「ライフステージのあらゆる場面において学び直しに取り組もうとする際に、本人が希望した場合にはそれをしっかり後押しできる環境整備を強化していくのが大事である」と釈明しました。

私自身は、長年社会人の学びに携わってきた中で、学びたい時が学び時だと常々思っています。自身が必要だと感じた時こそが、最も知識や技術の吸収に適した時期であり、それはもしかしたら育児休業中かもしれないし、もっとずっと後かもしれません。本人が希望した場合に国が後押ししてくれる環境があったら、学びを楽しむ人が増え、日本は「勉強時間が欧米・アジアで最下位の国」(※3)を脱出し、国力をもっと高めていけるかもしれません。

岸田首相の発言でにわかに脚光を浴びたリスキリングですが、今回のことをきっかけに学びたい人が学びたい時にお金を理由に諦めなくても良い社会が実現し、その学びが社会に還元されていくことを期待します。

<参考>
※1:リスキリングとは―DX時代の人材戦略と世界の潮流―(リクルートワークス研究所)
※2:令和2年版厚生労働白書-令和時代の社会保障と働き方を考える-(厚生労働省)
※3:勉強時間が「欧米・アジア最下位」の日本人に教えたい。趣味にもできる、社会人の“意外な勉強”5選
※記事内容は執筆時点のものです。最新の内容をご確認ください。

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