転職先の会社に見られる共通した特徴とは何か
転職に関する佐藤さんの自己分析を聞くと、本人の特徴をよく表す表現が2つ見つかった。佐藤さんによれば「自分は人が困っている話に弱い」。これまでの転職は、すべて人材紹介会社のエージェントから話を持ち掛けられたという。業績不振や粉飾決算、買収、リコール、その他、何かトラブルが起きてマスコミをにぎわせた会社は、そのトラブル後に会社の立て直しが必要となる。そのような話を中心に、色々な新しい転職機会を受けるようになっていったというのだ。
世間では、火中の栗を拾うようなことは避けたいと思う人も多いものだが、何とか自分がその状況を好転させたいと考え、経理担当者の後任として、佐藤さんが入社したケースが多いことがわかった。つまり、平時の経理業務ではなく、様々なトラブル後の整理と立て直しができる経理の専門家として、その希少な経験が買われているのである。
会社や業界の枠を超えた専門家同士のネットワークを大切にしている
佐藤さんの転職でもう一つ顕著な特徴は、退職したすべての会社の人々と今でもつながりがあって、公私に渡り相談したり、相手からも相談を受けたりする関係が続いているということ。転職する人の中には、職場の人間関係に悩んで転職する人もいる。また人間関係が目立って悪くなくても、退社後には前職で知り合った職場の人々とは疎遠になる人も多いはずだ。しかし、経理が専門性の高い仕事であるからだろうか、もしくはトラブルに見舞われた会社には特有の悩みがあるからだろうか、佐藤さんは過去の10社で知り合った経理の仲間達ほとんどと、今でも交流しているというから驚かされる。
この話を聞いて、私は企業の採用事情の真に迫った思いがした。企業が即戦力を求めるのは当然のこととして、本当に求めている人材とは、会社が最も辛い時、どん底にあるようなときにでも、状況改善のために善処してきた実績がある人物ではないだろうか。
複雑で前例がないような問題解決のために、会社の外にも信頼して相談ができるような仲間を持っている佐藤さんのような存在は、実は本当の意味で会社に貢献できる人材であり、転職に強い人物なのである。
大事なのは、転職回数ではなく、会社に貢献してきた実績
採用は難しい。有名企業や大企業でも、採用の失敗は繰り返されている。裏返せば、個人の転職も難しく、失敗することもあるものだ。そうした意味では、転職の回数は多くても少なくてもいいのかもしれない。自分が貢献できる特別な経験を積み、仕事仲間を尊重してお互いに助け合える関係を長期にわたり構築していけば、どの会社にどれだけの期間所属していたとしても、私達はプロ意識を持ってやりがいのある仕事を続けることができるに違いない。
転職回数が多くても、常に活躍して人から必要とされてきた佐藤さんの実直な話を聞いて、溜飲が下がる思いがした。転職歴に悩む多くの人に、この話を届けたい。